『寄生虫のはなし』

久保 洋介2011年01月23日 印刷向け表示
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寄生虫のはなし わたしたちの近くにいる驚異の生き物たち
作者:ユージーン・H・カプラン
出版社:青土社
発売日:2010-12-25
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久々に大当たりの本だ。今年のMY BEST 10におそらく入るだろう。夢中になってワクワクしながら読める本は少ないが本書はその一つだ。とあるアメリカの大学の寄生虫学の講義内容を本にしたのが本書である。ただし、その辺の生物理論や生物の特徴を羅列する教科書的な本とは全然違う。まず目次を見てみよう。「第6章 肛門をのぞき見る―わが子の」「第10章 反ユダヤ主義のサナダムシ」「第23章 毛ジラミ撃退法」。本当に大学の教授が書いた本なのか疑ってしまう目次だが、内容は専門的だ(平易な文章やユニークな喩えによって読者は専門的と感じないかもしれないが)。これまで生物学にまるで興味がなかったが、本書を読んで生物学/寄生虫学の虜になってしまった。

学生に理論や知識を教えるだけでなく、リアルな体験をさせることが著者のスタイルである。もちろん試験もリアルな体験を学生に強いており、中間試験の課題は犬の糞の中から寄生虫の卵を探し出すことだそうだ(もちろん学生は試験で良い点数をとるために必死になる)。読者はついつい受講生になった気分で、自分が犬の糞に手をつっこんで必死に寄生虫の卵を探す姿を想像してしまう。読者もリアル体験できるほど文章(及び翻訳)が上手い。

本書によると、世界の人口の3/4以上がギョウチュウ等の寄生虫に感染している。それにも関わらず、半数以上の医学部生は寄生虫学を受講していないようだ(アメリカでは35.6%の医学部が寄生虫学の講座を開講さえしていない)。医者も知識がないことを考えると、ウィルスによるパンデミックよりも寄生虫の伝播の方が恐ろしいかもしれない。誰にでもできる自衛手段の一つは、抗マラリア剤等を含む「ジントニック」を飲むことだそうだ。詳しくは本書を読んでほしい。

本書は最初から最後までネタが尽きない。ブリュッセルにある有名な『小便小僧』の彫刻(1619年)は、血の混じった尿を毎日排泄する何千ものアフリカ人少年たちを模したもので、尿の中にはビルハルツ住民吸血の卵が入っているだとか、現代でも外科医は切断された指を元どおりにつなぎ合わせるために医療用ヒルを使うだとか(本書とは関係ないサイトだが参考までに: http://utun.jp/To0)、クリミア戦争やアメリカの南北戦争では兵士達の傷口にクロバエの幼虫を塗って傷を治しただとか、「そうなんやー」という話ばかりである。寄生虫がどうやってセックスするかを通勤電車の中で読んでいる時は周囲に気付かれないよう縮こまって読んだ。

最後に、旅行好きな人や海外赴任のある商社やメーカー等のビジネスマンに向けて、海外に行く際に心がけるべき11の注意事項を本書から引用する。 1. ブタ、ウシ、魚、カニ、ハト、ヘビを生のままで食べてはならない。 2. ケンミジンコ入りの水を飲んではならない。 3. タイで生ぬるい麺を食べてはならない。 4. 蚊、サシチョウバエ、ヒトヒフバエ、大きな虫に刺されないようにすること。 5. ナイル川で泳いではならない。どうしても泳ぎたければ、おしっこをしている子どもたちからは離れること。 6. 生のまま死んだヘビは、目やヴァギナから遠ざけること。 7. 夜の女には近づかない。どうしても近づきたいなら、ベッドの横にケロシンを置いておくこと。 8. ずいぶん長いこと性交をしていないのに妊娠したら、腹部を外科医に診てもらうこと。 9. 生のゲフィルテ・フィッシュをユダヤ人のおばあちゃんに味見させないこと。 10. マウスやラットの糞を食べないようにすること。ヒルや吸血コウモリも避けること。 11. 何よりもまず、イギリスでクレソン・サンドイッチを食べてはならない。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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