『深海の怪物ダイオウイカを追え!』新刊超速レビュー

土屋 敦2013年07月05日 印刷向け表示
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カバーに描かれたダイオウイカが黄金に輝いている。幼い日から何度も見た、図鑑の中の「マッコウクジラ VS.ダイオウイカ(想像図)」ではこんな色ではなかった。本書がキラキラと輝いているのも、昨年、世界で初めて生きているダイオウイカの映像を捉えた著者の功績といえるだろう。

本書は児童書である。おそらくHONZで初めての児童書の書評だろう。たった64ページ。大人ならあっという間に読み終わる。「2段組、500ページ超」みたいな本ばかり読む、ほとんど変態の部類に属する村上浩が、無駄に鍛えた筋肉(きっと重い本を持つためなのだろう)をピクピクさせながら、「土屋さん、そんなラクするなんて、ありえないっすよ」とつぶやくのが聞こえるようだ。メルマガ編集長になって増長している栗下直也に至っては、「いいかげん生きものの本のレビューはやめろよ。野坂のレビューほうがずっと面白いんだよ」と怒り心頭であろう。まあ村上はいいにしろ、栗下についてはちょっと考えるところがある。人を陥れるのはそう難しくはない。

内輪の話で申し訳ない。思わず熱くなって話が逸れた。

本書によれば、ダイオウイカは最大で全長15メートル程度程度になる(これまでの最大記録の18メートルは眉唾だと著者は言う)。目はバスケットボールほどの大きさ、他の生物に比して、圧倒的にでかいそうだ。それでいて、赤ちゃんのときは全長わずか5ミリ。そして寿命は2〜3年。正直、その大きさより、2〜3年で5ミリから15メートルまで成長する、そのありえないほど過激な成長速度に驚く。つーか、それ成長しすぎでしょ。生まれたばかりの人間の赤ちゃんをざっくり50cmとして、ダイオウイカと同じ成長速度なら、2〜3年で身長1500メートル。超電磁ロボ コン・バトラーVでさえ身長57メートルである。子どもがこの勢いで成長したら、育児放棄するほかない。

さらに、イカそのものより、著者・窪寺恒己の存在そのものにぐっと来てしまう。彼がダイオウイカの研究をしようと志したの40歳代半ばのときである。そして10年後の2006年に、漁船に乗って初めてダイオウイカを釣り上げた。55歳のときだ(ちなみに釣り上げた頃、漁船上での彼の朝食は目玉焼きと味噌汁。そんな話もなぜか読み手としてはうれしいのだ)。そして2012年、ついに著者は深海に潜る。そして水深600メートル、海の中でを動きまわるダイオウイカを世界で初めてその眼で捉え、映像に収めるのだ。40代半ばに志し、61歳でついに成就。なんと豊かな壮年期だろうか。加えて言えば、撮影の際に使用された潜水艇トライトン(第二次世界大戦時のタンバー級潜水艦でも三菱のゴツい車でもない。念のため)の格好良さと言ったらない。昭和の時代に図鑑を読みふけっていた私としてまさに未来の乗り物。もう身悶えするほどである。

ところで著者はいま、ダイオウイカがどれぐらいのスピード泳ぐかを計算中だそうだ。正直、でかいイカが水を吐いて、時速何メートルですすむとか、本当にどうでもよい話だ。東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構初代機構長(なげーよ!)の村上斉先生は、自分たちは全く役に立たない研究をしていると言っていたが、ダイオウイカがどんなスピードで泳ごうと、即物的に言えば、われわれの生活にはまさに何の役にも立たない(加えて言えば、ダイオウイカはアンモニア臭くてとってもまずいので、食材としても決して有望ではない。一度調理してみたいけど)。

しかし、著者が言うように、「わからなかったことがわかって、新しい発見をすることは、なによりもわくわくする瞬間」だ。そして著者は読者である子どもたちに向かってこう書く。

だれも見たことがないものを、いつかきみの眼で見にいって下さい。

本当に世界中のだれも見たことがないものを、世界で初めて見た人間が、子どもたちに向けて発した言葉のリアルさ。この1行を読んだ瞬間、目頭が熱くなった。役立つとか、もうどうでもいい。このメッセージが、本書を読んだ子どもたちにしっかり受け止められたとしたら、日本の未来はぐっと良くなるはずだ。

そう。マクロな視点で見れば、ダイオウイカの研究が、そしてこの本が、役に立たないなんて、そんなことがあるわけがないのである。

さて、栗下直也にならって酔っ払いながらこのレビューを書いてしまった。つーか、飲みながら書いていると、どんどんわけがわからなくなってくることを痛感した。すみません。全部栗下のせいです。栗下が深海に沈んでダイオウイカの餌食となる日はそう遠くないと思われるが、ともあれ、8月17日からのNスペ・深海の巨大イカの劇場版公開に向けた予習本としても、本書はオススメ。大人も子どもも買うべきであろう。

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私のヒーローは、なんといってもスタインベックが描いた海洋生物学者エド・リケッツ。いいな。海洋生物学者。探検昆虫学者にも憧れるけど、やっぱりコルテス海に繰り出したいのだ。

そのエド・リケッツをモデルにした小説が『缶詰横丁』。スタインベック研究者の評価は非常に低いみたいだけど、大好きです。

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