『ハチはなぜ大量死したのか』

久保 洋介2011年08月25日 印刷向け表示
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ハチはなぜ大量死したのか (文春文庫)
作者:ローワン ジェイコブセン
出版社:文藝春秋
発売日:2011-07-08
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話題の科学ノンフィクション本が遂に文庫になって買いやすくなった。HONZ代表の成毛も以前紹介しているし、他の書評家もこぞって本書を紹介するほど面白い本だ。

小学生以上なら誰でも知っているとおり植物もセックスをする。ただ植物は動物と違いセックスに仲介者を使っている。数億年もの間、自然界ではその仲介者の役割を「風」が担っていた。植物は数え切れない程の花粉を風で撒き散らし、そのうち一個か二個が異性に届けば大成功であった。ところが約1億年前、一部の植物がイノベーションを起こした。昆虫をセックスの仲介者として使うことに成功したのだ。昆虫を使うことにによってセックスははるかに効率的になり、遠くの異性とセックスすることも可能になった。セックスを仲介する昆虫の中でも植物に一番人気はハチである。巣箱一つ分のハチが、たった1日で2千5百万もの植物のセックスを助けることができるのだ。私たちが普段食べる果物はハチがいないと食べられない程、今日ハチの役割は大きくなっている。

近年、そんなハチ達が世界中で一斉に姿を消した。2006年以降、毎年数十%ものハチが大量死しているのだ。アメリカ政府は毎年約15億円もの予算をつけて原因究明に力を入れているが、原因は未だに判明していない。本書はこの21世紀最大の謎を追っていく。まるで探偵小説を読むかのようにスリリングだ。不可解な死、消えた死体、世界の破滅を招きかねない結果。分子生物学者である福岡伸一氏に「近年読んだ科学ノンフィクションの中でも出色だ」と言わせるだけのことはある。

世紀の謎の容疑者は「携帯電話説」「遺伝子組み換え作物説」「地球温暖化説」「宇宙人による拉致説」「ウイルス説」「寄生虫説」「農薬説」など山ほどいる。本書はその一つ一つを取り上げ、仮説の妥当性を検証していく。まるで犯罪者を探し出す過程のようだ。捜査の過程でオーストラリアの養蜂家が容疑者として浮上するあたりはハラハラドキドキした。ちなみに最新の研究では「栄養不足説」もありハチの巣入り口にエサをつめる手法もあるらしいが、効果はまだ未知数だ。本書は単なる犯人探しサイエンス本ではない。他にもハチという生物について解説したり、農薬に汚染された中国のハチなどハチにまつわる話題につきない。しかし、それでもやはり犯人探しの章は読み物として面白いのでおススメだ。

ハチ、環境問題、科学サスペンスいずれも興味ない人は、第九章だけでも読むことをオススメする。「ミツバチ仙人」と呼ばれているカーク・ウェブスターの養蜂は組織論の観点から興味深い。彼は自分のハチ達に化学品を与えずに育ててきた。毎年約90%のハチが死んでしまうにも関わらずだ。数年同じことを続けると免疫力が強いたくましいハチだけが生き残る。弱いモノを多く採用してそれらみなを養育しても、真に強い集団を作り上げることはできない。真に強い集団は、競争させたり厳しい環境に放り込んで生き残った少数精鋭で構成されるのだ。意外にもハチの本から、強いチームを作るためにはどうすべきか、多くのことを学べる。

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生物学的観点から組織論・経営論を学びたい人はこちらもおススメ。

群れのルール 群衆の叡智を賢く活用する方法
作者:ピーター・ミラー
出版社:東洋経済新報社
発売日:2010-07-16
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
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