『日本のデザイン』

新井 文月2011年11月07日 印刷向け表示
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日本のデザイン――美意識がつくる未来 (岩波新書)
作者:原 研哉
出版社:岩波書店
発売日:2011-10-21
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仕事を終えて帰宅した際、部屋の隅々までキレイに掃除が行き届いていると、本当に心地が良くなる。床が磨かれていたり、ゴミが処分されていたり、シミが完全に落ちてないまでも除去しようとした努力の形跡があれば更に最高だ。こういった仕事ができる人間は、終わりと決めた時間になってもすぐ掃除用具を片付けず、キリがいい所までやり遂げるに違いない。

著者によると、ありふれた日常空間を整える美意識は、外国人よりも日本人に如実に表れる価値観だそうだ。本書はどんな企業であれ、とにかく製品プランナーに購入して貰いたい。これからものづくり日本は、生き残れるかどうかの時代に突入する。そのために必要な資源である「美意識」がいかに重要かを、ニュアンスでなく正当なる理論でもって教えてくれる。

いうまでもなく現在、日本は転換期にある。戦後60数年日本は工業生産に邁進してきたが、アジア経済の活性化により工業国としての経済モデルは終焉を迎えた。少子化とエネルギー問題含め、急速に変化を求められている。この転換期に、日本は技術とセンスでアジア諸国をリードすることができるのだろうか?今後のものづくり製品文化を形成する上で、この本は必読本だと考える。

著者は日本デザインセンター代表取締役である原研哉。長くコミュニケーションの現場に対し「もの」ではなく「こと」で携わってきた人物、デザインプロセスにおいてイメージを創るプロである。たかだかイメージと思わないで欲しい。世の中、ほとんどブランディングでありイメージだ。エルメスやアップル、三つ星レストランだって、どちからというと物質そのものよりイメージで形成されている。商品のイメージが向上すれば価格は当然上がり利益が生まれる。反対にブランド価値が低い汎用品に対しては、消費者は他の企業が出す類似品を安く購入しようとする。つまりブランド価値がないと、商品はとことん買い叩かれる結果となる。本書では、日本のデザイン/商品ビジョンの第一人者がデザインの重要性と、日本の将来について語るのだから読まずにはいられない。

氏の言葉によって、日本人特有の感受性の高さに改めて気づく。美しく大切な感覚が本書では連発されるので、我が意を得たりの感覚が多発し「日本てサイコー!」と思ってしまう。そうそう、日本人は千数百年という時間の中で醸成された感性をもっと大事にしていくべきなのだ。

デザインには、よくシンプルという言葉が使われる。しかし、その概念が生まれたのはわずか約150年程前とされている。文明初期に登場する土器や石器も比較的単純な形だが、複雑な形が作れない状況での単純さはシンプルというよりもプリミティブ、すなわち原始的である。中国土器に代表される龍の文様や、イスラム文化圏での幾何学模様は、その後より複雑なデザインに発達し、そこからシンプルへと到達する。

もちろん全て単純化し省略すればよいものではない。例えば東山文化。和室の源流といわれ質素高貴で名高い京都慈照寺にある足利義政の書院は「空」や「無」といった、要するに「何もない」美学を携えている。形の合理性を追求した結果でなく、意図して「空っぽ」を創った。著者はこれを「エンプティネス」と称し、この必要性を説明している。つまり「無い」という新しい価値を加え、人の関心を引き込んでいるのだ。

日本の簡素を旨とする美意識は、世界でも珍しいそうだ。足利義政が最高のエンプティネスを体現した隠居生活は、室町末期の15世紀であり今から500年以上も前の事だ。バウハウスの誕生よりも300年以上も前の時代である。その東山文化を茶の湯でもって、さらに洗練させた千利休は16世紀後半に登場する。すでにこの時点で日本の感性は形成されている。大手企業はグローバル化を推進しているようだが、ものづくり精神面に関しては、日本基準でよいだろうとつくづく思う。日本のセンスと先端技術をもって、ハイブリッド商品を創るべきなのだ。それが可能であれば、今後もこの国には将来性と、日本人としての誇りが保たれるであろう。

------その他オススメ本------

『これからのアートマネジメント ソーシャル・シェアへの道』

一見ありふれた町並みに、アートで新しい価値を加える。そんな事ができないかと考えた時、本書は強力なガイドとなる。あらゆる“場”を再生できるアートの力について知れる本。

『岡本太郎の見た日本』

世界に誇れる日本人の感性の語り方がわかる。芸術家というよりも民族学者としての岡本太郎視点で書かれている。実は「日本的」とか「日本文化」といった言葉に対しても岡本は懐疑的だった。

岡本太郎の見た日本
作者:赤坂 憲雄
出版社:岩波書店
発売日:2007-06-26
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『へうげもの』

「数寄者」で名高く、織部焼を世に広めた張本人である古田織部の物語。武がすべての戦国時代、茶の湯に価値を生み新たな美を見出した「数寄者」と呼ばれる人々が登場する。これまで戦国時代といえば武の側面ばかりに焦点があたっていたが、戦国時代を美の面から改めて見直す事で全く新しい感動が生まれた。講談社文庫から異例の漫画化。

へうげもの 一服 (講談社文庫 や 67-1)
作者:山田 芳裕
出版社:講談社
発売日:2011-04-15
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