『とは知らなんだ』を一般教養のテキストに!

2012年2月26日 印刷向け表示
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とは知らなんだ

作者:鹿島 茂
出版社:幻戯書房
発売日:2012-02
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著者の本に出会ったのはHONZで『馬車が買いたい!』の書評を見つけたときだ。成毛代表の言うとおり、純粋に本を読み、楽しみ、気がついたら私はフランスのまっただ中にいた。

『とは知らなんだ』は著者が「オール讀物」に連載したエッセイの2005年5月号から2008年4月号までの分をまとめたものである。今回は、フランスブームの代わりに「鹿島ブーム」が私に到来した。

帯には、“鹿島流考えるレッスン”と書いてある。それは、「あらゆるジャンルを横断しながら仮説を立て、ユニークな証拠を並べて立証すること」と言ってもいいだろう。残念ながら、私はこのレッスンをもっとも必要とする人間であるようだ。大学生活のなかで、仮説を立てるという作業を真っ先に省く癖がついてしまった。仮説を立てるより、板書を丸暗記した方が先生からの評価が(当たり前のように)高い。これによって、単位も取れ、現在楽々と大学生活を送っているわけだが、それゆえに、これらの鹿島仮説にまったく対抗出来ない。また、著者みたいにユニークな仮説を人に聞かせられないことも残念だ。うんちくはこのように使うんだ。本を通して出会った知識をこのように使えたら、さぞ楽しいだろうと思う。

一つ例を挙げてみる。「ロリ顔に巨乳」が最強な理由、というタイトルのエッセイがある。人間はネオテニー(幼形成熟)に成功したおかげで、他の類人猿との競争に勝ったという。ネオテニーとは、生物が発生の途中の段階で変態を止め、幼生形のまま、生殖腺の成熟を見る現象のことで、「ピーターパンのように心は一生子どものまま」であることだ。そして、ネオテニーは男性と女性で表れ方が違うらしい。男性は主に精神と行動に強く出る。危険を冒す要素を多く持つため、30歳の男性は、同年齢の女性より15倍も事故に遭いやすく、発明家も男性の方が多い。一方、女性のネオテニー傾向は肉体に表れる。肉づきが良く曲線的な身体や、すべすべとした顔の皮膚、高い声などが特徴的である。よって著者は、「ロリ顔に巨乳」とは、ネオテニー的進化の行き着いたかたちとみなすのだ。ここでさらに、著者は、新たな疑問を提示する。「コンビニのジャンクフードを頬張る白デブなオタク」も赤ちゃん性質にほどよく近いネオテニーの進化形、よって、彼らを求める女性は少なくないのではないかと。この説を女性にユニークに、いかにも賢く言い聞かせれば、オタク男性にも天使が微笑む気がする。

さらにこの本の面白いところは、たくさんの文献が出てくるところである。英語の非人称構文に使用される(it)の発端を説明するために引用された、『禅という名の日本丸』(山田奨治著)、「聖なる日の求愛行動」の謎を解くための『ヨーロッパ祝祭日の謎を解く』(ソニー・F・アヴェニ)など、本書をきっかけに、限りなく読書と知識の幅が広がりそうだ。

私はこの本を大学の一般教養の教科書にしてはどうだろうかと考える。仮説を立て、情報収集し、立証する。十人十色の考えやイノベーションなどを若者に期待するのであれば、非常に有効であると思う。教育関係者の皆さま、いかがでしょうか?

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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『決定版-HONZが選んだノンフィクション』発売されました!