キャバ嬢という矛盾した存在『キャバ嬢の社会学』

田中 大輔2014年04月05日 印刷向け表示
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キャバ嬢の社会学 (星海社新書)
作者:北条 かや
出版社:講談社
発売日:2014-02-26
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23歳の京大大学院生が、自らキャバ嬢となって潜入捜査!と帯に書かれている文言に惹かれて購入したらこれが大当たりだった。著者が自らキャバ嬢となって体験したことを、社会学のフィールドワークとしてまとめた作品なのだが、普通の女の子がキャバ嬢になるプロセスや、男性がなぜキャバ嬢にいれこんでしまうのか?ということが書かれていて非常に興味深い。著者は1年あまりキャバクラやホステスクラブ(クラブ)などで働き、その世界を内側からみつめている。

著者は昔から「女としての魅力」をお金に変えることを嫌悪していた。水商売の世界で「女」を売りにしている女性を、かわいそうだとも思っていたという。しかし先輩から言われたあるひとことをきっかけに、自分は水商売で働いている女性のことを差別しているということに気がつく。そこで修士論文のテーマをキャバクラ、キャバクラ嬢として、実際に自分がキャバ嬢となることで、自分が忌み嫌っていた「カオとカネの交換システム」の世界を解き明かそうと思ったのだ。

そもそもキャバクラとはどういうものなのだろう?私のように行ったことがない人もいるだろうから、そのあたりから少し紹介していこう。キャバクラというのは“キャバレー調クラブ”の略である。歴史をさかのぼると明治時代にできたカフェーと、そこで働く女給仕に行き着くのだが、そのあたりの詳しいことは本著を読んでもらえばわかるので省略する。

1980年代に「オールナイトフジ」の人気から、素人ブーム・女子大生ブームが起こり、キャンパスパブというものがオープンした。これが現在のキャバクラの原型になっているものだそうだ。キャバ嬢というのはそこで働く女性のことをさす。

キャバ嬢はお水の世界のプロの女性のことだと思っていたけれど、その認識からして間違っていたようだ。プロの女性はホステスである。俗に言うクラブというのはホステスクラブのことで、こちらのことをいう。

キャバ嬢というのはプロではなく、お水の世界にいながら「素人性」を売りにしている人たちなのだ。ちなみにキャバクラではキャバ嬢のことをキャストと呼ぶそうだ。キャバクラで働く女性たちは、ホステスという言葉に対してネガティブなイメージがあるらしい。ほとんどのキャストにとっては、キャバクラというのはあくまでも一時的な仮の仕事なのである。

キャバクラに来る男性客の多くはキャストに「素人らしさ」を求めるという。見た目はキャバ嬢っぽいけど、話してみたら普通の女の子というのが一番ウケるらしい。一部の高級店を除くとキャバクラで働く女性の9割は素人のアルバイトである。「水商売のプロとは感じさせない、普通の女の子らしさ」に、男性はまいってしまうのだという。そこで擬似恋愛を楽しむ。それがキャバクラという世界だ。疑似恋愛で済めばいいのだが、中には擬似恋愛という枠をはみ出してしまう人もいるようだ。

キャバ嬢に対して、キャバクラを介さずに、直接会いたい!デートしたい!と言い寄ってくる男性がとても多いのだという。仕事としてキャストは来てくれたお客さんの連絡先を聞き出し、必ずお礼のメールを送ることになっている。それを勘違いして、本当の「恋人同士の関係」を求めてくる男性がいるのだ。

お店側にはそういう男性に対処するためのマニュアルのようなものがある。この本にもそのマニュアルの一部が載っているが、それを見ていると、なんだか男というものがとても哀れに思えてくる。

それでも素人ゆえに断ることの罪悪感や、必要以上に迫られてくることに恐怖を覚える女性も多いそうだ。それに病んでしまうキャストも多いのだとか。そういう病んだ女性達の癒しが自己啓発だという話も興味深い。

キャストからすると、「すべての営業はお金のため。」なのだが、それは慎重に隠しておかなければいけない。なぜなら、男性側は騙されてお金を巻き上げられているのではないか?という不安を常に感じているからだ。キャストは客と長期的な関係を築くために「騙す意図は持たない。信頼できるキャバ嬢」=「普通の女の子らしさ」をアピールする。

その一方で、「普通の女の子らしさ」が「キャバ嬢らしさ」を上回ると、店を介さずに外で会おうと迫られてしまう。客にはあくまで「私はキャバ嬢だけど、キャバ嬢じゃない」という矛盾したメッセージを発しなけばいけないのだ。

この辺りがキャバクラのおもしろいところである。それを知ってキャバ嬢という矛盾をはらんだ存在に俄然興味を覚えてしまった。上記のことを頭に入れた上で、人生経験という意味でも、一度キャバクラというものに行ってみなかればいけないな、これは。笑。
 

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