『切断ヴィーナス』 - もっと高く、もっと遠くへ、そしてもっと美しく。

内藤 順2014年05月21日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
切断ヴィーナス
作者:越智貴雄
出版社:白順社
発売日:2014-05-29
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

OL、モデル、アスリートにイラストレーター...
本書に登場する11人の女性には、一つの共通点がある。

それは、全員が義肢装具士・臼井二美男さんによって手がけられた義足を身につけているということである。一人ひとりの思いを実現するため、何度も対話を重ねながら生み出された「夢見る義足」。足の切断というアクシデントに見舞われた女性たちが、今、新たな一歩を踏み出した。

人間の根源的な欲求は、須らく「足」というパーツへ向かうのだろうか。もっと高いところへ、もっと遠くへ。その欲求はアフリカにいた人類の祖先を世界へと誘ったし、もっと美しく見られたいという欲求は、様々なファッションを生み出してもきた。

それらの思いを彼女たちの「表現」として描き出すのは、気鋭の写真家・越智貴雄さん。約1年前に開催された写真展でも大きな反響を呼んだ、まさに目を奪われる写真の数々。そのいくつかをご紹介したい。

もっと高いところへ。その思いを叶えるために、人間は大地の上に建築という人工物を作ってきた。タワーやビルディングとの対比で映し出された義足という存在。彼女たちのピンと伸びた背筋は、力強さを物語る。

写真を拡大
(左)小林久枝:右足が先天性の巨趾症のため、生後より手術を繰り返す。臼井氏と出会った後、右膝下の切断を決断。「走れる!好きな靴がが履ける!お御輿が担げる!あきらめていた夢が、一つずつ叶っていきます」(右)村上清加

「夢だね。最後は夢。義足をつけてこれをしたいという意志が大事。おもいきり走りたいのか、スキーをしたいのかで、義足も変わるから。」とは臼井さんの言葉。

写真を拡大
高桑早生:中学1年生の時、左脚足関節の骨肉腫により切断。「出来ないことがほんの少しだけ増えたけど、義足にならなければ出来なかったことも少しだけ増えた。」

もっと遠くへ。人間の強い思いは、数々の器具を生み出してきた。靴、自転車、バイク、車。彼女たちの願いもまた、それらのツールとシームレスに接続され、身体は拡張する。

写真を拡大
阿部未佳:20歳になる2ヶ月前、交通事故で右膝から下を失う。義足を得て、いろいろなことに挑戦する気持ちが生まれ、知り合いが増え、新たな世界が広がった。

障害者を「かわいそうな人」「がんばっている人」という勝手な先入観で見てしまう壁。「いつの間にか立てたその壁を、カメラの目が壊してくれた」と、越智さんは語る。

写真を拡大
村上清加:事故により右足大腿切断、義足生活に。「義足のかっこよさ」を知ってもらう活動に積極的に参加し、パラリンピックも目指している。

もっと美しく。時には見せたり、隠したり。義足は隠さなければならない存在から、隠して魅せるものへと進化した。その機能美には、情緒が宿る。

写真を拡大
(左)佐藤陽子:事故により左大腿を切断し、義足生活に。臼井氏と出会い、義足を「自分の脚なのだと心から受け入れられた」(右)須川まきこ:左膝下の悪性血管肉腫により義足に。臼井氏の義足をつけて街を歩き、ファッションを楽しむ。「生きる免疫を与えてくれました。」

撮影にあたっては、被写体自らが衣装を選び、中にはスタイリストやヘアデザイナーを連れてきた人もいたのだという。

写真を拡大
藤井美穂:「双子のうち私だけが命を授けられた」。右足がその影響を受け、生後10日目に切断する。臼井氏の義足を最初につけたときは、「毎日つけてみたいって、初めて思いました。」

じろじろ見てはいけないという「申し訳のなさ」や、目を背けてはならぬという「正義感」ではない。そこから強烈なメッセージが発せられているから、自ずと義足に視線が向かう。

支える人、表現する人、撮影する人。三者の緊張感が「ありのまま」という表現を作り出した。11通りの人生を歩む女性たちによる、全68点の写真集。私たちの「まなざし」もまた、表現の一部である。

<画像提供 写真家・越智貴雄>

カーボン・アスリート 美しい義足に描く夢
作者:山中 俊治
出版社:白水社
発売日:2012-07-21
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub
かたちだけの愛 (中公文庫)
作者:平野 啓一郎
出版社:中央公論新社
発売日:2013-09-21
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub
MITメディアラボ 魔法のイノベーション・パワー
作者:フランク モス
出版社:早川書房
発売日:2012-08-24
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub
記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら