『首都水没』東京が直面する自然災害による危機

成毛 眞2014年09月16日 印刷向け表示
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首都水没 (文春新書)
作者:土屋 信行
出版社:文藝春秋
発売日:2014-08-20
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8月20日未明、広島市を襲った豪雨は死者・行方不明者80名を超える大惨事を引き起こした。被害が大きかった安佐北区周辺で観測された1時間あたりの最大降水量は120ミリを超えており、さらに水分を含みやすいこの地方特有の「まさ土」が被害を拡大させたといわれている。

この特殊な地質や地形などから、広島県には3万個所を超える土砂災害危険個所があるという。そのため被害にあった住民たちは、ある程度は山裾が危険であることを理解していたのではないかというテレビ解説者もいたほどだ。

しかし、そのテレビ解説者が住んでいる東京も広島の山裾と同等か、それ以上に危険であることは知られていない。多くの人は自分だけは安全なところに住んでいるのだと思っているだけなのだ。

本書『首都水没』によれば、東京で大地震が発生した場合、揺れが収まったら即座に地下鉄から脱出せよという。もともと荒川河口付近は海水面より低いゼロメートル地帯である。地震によってコンクリート堤防が少しでも決壊すると、またたく間に一帯が水没するだけでなく、地下鉄にも水が流れ込み、たとえ都心の駅でも溺れ死ぬ可能性があるというのだ。

中央防災会議のシミュレーションでは北区志茂あたりで、荒川が氾濫により決壊した場合の浸水深は5メートルに達し、11分後には700メートル離れた東京メトロ南北線の赤羽岩淵駅に到達する。標高2.5メートルのこの駅の出入口を1メートルの止水板で守ったとしても、水は軽々とそれを乗り越え濁流となって地下鉄駅構内に流れこむ。

いったん堤防が大規模に決壊した場合、水位が下がるのを待つ以外に方法はない。その間に濁流は東京の最深部にある大江戸線や千代田線など何本もの路線を伝って都心を目指すことになる。決壊から15時間後には赤坂見附駅から永田町駅に向かって水が流れ込みはじめるというのだ。
地震発生時には地下鉄は駅と駅との間でストップする可能性がある。もし地下鉄車内に留まった場合、場所によっては溺死するかもしれないのだ。

ところで、首都を襲う洪水の原因は地震だけではない。第1は大量の降雨によって川が増水することによる堤防決壊、すなわち「外水氾濫」だ。

荒川放水路の護岸はカミソリ護岸ともいわれ土木学的には非常に薄いのだという。本来の堤防の断面は富士山のような形をしていなければならないのだが、現在はコンクリートの壁のような場所もあるという。

第2は台風と潮汐の相互作用によって引き起こされる「高潮洪水」だ。現在の東京は最大5メートルの高潮を防ぐことができる防潮施設で守られている。しかし、地球温暖化によって超大型の台風が大潮時に襲ってくるということも考えられる。東日本大震災を経験した日本人は、これを千年に1度のことだと考えることができるのだろうか。

第3は降った雨水がゼロメートル地帯に溜まり続ける「内水氾濫」だ。東京には多数のポンプ場が設置されている。24時間365日、このポンプ場は下水を汲み出しては処理し、河川に放出している。もし、ポンプ場の排水能力を超えるような豪雨に襲われた場合、そのポンプ場も水のなかに沈んでしまう可能性があるという。

現在、東京の排水能力は1時間あたりの降水量50ミリが限界だ。もし、それ以上の雨が降ると、ゼロメートル地帯だけでなく都心もマンホールなどから水が溢れ出すことになる。

8月20日に広島を襲った豪雨の1時間あたり降水量は120ミリだった。8月1日から10日にかけて高知県に降り続いた雨は累積で1000ミリを超えていた。このどちらかでも東京を襲うようなことがあれば、首都は完全にマヒし、日本経済は破滅的なダメージを受けるかもしれない。自分の命を自分で守るためにもおススメの一冊だ。

(週刊朝日 9月19日号 週刊図書館 掲載)

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