『日本国憲法 大阪おばちゃん語訳』まえがき by 谷口 真由美

文藝春秋2014年12月21日 印刷向け表示
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驚くほど憲法がよく分かると評判の『日本国憲法 大阪おばちゃん語訳』。著者の谷口真由美さんはヒョウ柄とアメちゃんをこよなく愛し、「全日本おばちゃん党」代表代行も務めるという由緒正しき大阪のおばちゃん。そんな本書の前書きを、HONZにて特別公開いたします。

日本国憲法 大阪おばちゃん語訳
作者:谷口 真由美
出版社:文藝春秋
発売日:2014-12-05
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谷口 真由美 大阪国際大学准教授、「全日本おばちゃん党」代表代行。1975年、大阪市生まれ。大阪大学大学院国際公共政策研究科修了博士。モットーは、オッサン政治に愛とシャレで突っ込みを入れること。二児の母、夫はインドに単身赴任中。


大阪弁でしゃべるおばちゃんが憲法について井戸端会議でしゃべったらどないなるか?というコンセプト(いや、編集さんの意図はちゃうかもしれませんけど)でできたのがこの本ですねん。そもそも私、この本に出てくるような語り口で、実際に憲法の授業を大学でしてますねん。

正直なところ、大学で法学を教えだした10年前に、憲法がこんなに世間の注目を集めるとは思ってもなかったんですわ。どっちかというと、法学の花形といえば民法とか商法で、憲法って地味~な感じでしてん。

日本国憲法教えだしたときも、学生さんのおおかたは教職課程でいるから履修してるとか、一般教養でたまたま履修したとかいう、消極的な理由の学生さんが多かったんですわ。が、最近は、「憲法が話題になってるので」みたいな理由で履修する学生さんも増えてきましてん。そりゃま、10年前は憲法や何やって新聞紙面をにぎわすこともそないにありませんでしたし、違憲判決っちゅう法律が憲法に違反してまっせっていう裁判の結果が出ることもほとんどなかったですもんなぁ。

この数年で、日本社会の状況はとんでもなく変化したってことですな。自分で書いてて何ですけど、こんな憲法の本が世の中にでまわるなんて考えられへんかったことですわ。これが売れたら、ある意味エライ世の中になったってことですわ。その辺のおばちゃんが、本屋さんで憲法の本買う時代が来るなんて、ノストラダムスでも予言でけへんかったと思いまっせ。

この数年、ほしたら憲法のとりまく世間にどんな変化があったかっていうと、民主党が自民党より国会議員の数が増えて政権交代(このときの民主党を与党、自民党を野党いいますねん)したり、その結果として衆議院と参議院の数のバランス、だいたいはどっちの議会も政権とってるグループ(与党)が半分以上いてるはずやのにこれが崩れた「ねじれ国会」っていう状況になったり、野党になった自民党が政権を取り戻す(「日本を取り戻す」?)動きのなかの一つとして、というよりたぶん時間ができてちょっとヒマになったから憲法改正をメラメラやりだしてみたりとか、ともかく政治の状況でワラワラ憲法が話題になってくるようになりましてんわ。

ほんで、世間のみなさんは「憲法変えた方がええで!」とか「いやいや憲法は変えたらアカン!」いうこの二つのなかで揺れ動きだしたりしましてん。二人の男の中で揺れる乙女の心みたいなもんですな。

せやけどまあ、変えた方がええ人らも、変えたらアカンっていう人らも、話題は「9条」なんですわ。確かに9条は大切な条文ではありますし、日本の平和主義の根っこのところの話ですさかいに、それ自体は議論になるんはええことでっせ。そやけど、憲法は9条だけちゃいますねん。

二人の男の中で揺れる乙女が、一人はバンカラやけど物静かで誰ともケンカせーへんおっちゃん、一人はいまどきのナウなヤングでいつでもケンカ上等なにーちゃん、はい、どちらかと結婚すんねんでーって言われても、そんなんもっと中身わからんかったら一緒に暮らしていかれへんわ! って思いませんか? いまの改憲議論って、何やそんな感じですねん。

確かに私が中学校までで習った憲法なんか、前文を暗記することと三大原理しか教えてもろてませんから、大学はいって憲法の授業うけたときのあの衝撃、今まで習ってきたことは何やってん的な衝撃はいまでも忘れませんわ。

法律って、難しいっていう印象しかないお人もけっこういてはります。国が決めるルールですねんけど、何でそんなモン必要やねんって思うこともありますわな。せやけど、例えば何で信号守らなアカンのかって言われたら、好き勝手に車も自転車も人も動いたら危ないからですやんか。余計に渋滞もするかもしれまへんな。そういうのを防ぐために、信号っちゅうのがあるわけですわ。ここで、信号守るっていうことのポイントをあげると、「みんな守っていこうという気持ちがあること」がありますな。あと、「ルールがどんなんか知っておく」ということがないとあきませんねん。赤信号は止まれやって知らんかった人が、赤信号で飛び出していって事故にあっても、はっきりいうて誰もかばってくれませんねん。

そうやって考えると、憲法っちゅうのは、どこの国にいっても「国の最高法規」、「国の根本法」、「国の基本法」なんて言葉であらわされるように、すべての法(ルール)のいちばん根っこの大切なモンなんですわ。せやさかい、せめて住んでる国とか出身の国の憲法くらいは知っといてやってことですわ。どっちかいうて、知らな損するのが法律の世界ですわ。

さあほんなら、皆さんもちょっとだけ憲法に詳しくなって、井戸端で、居酒屋で、PTAの集まりで、カフェでその知識をひけらかしてください。あ、でもあんまり自慢げに上から目線に教えたるわみたいな感じやったら、感じ悪いから嫌われますさかい、気つけてや。

谷口 真由美
 

文藝春秋クレア出版局 編集部員は全員女性。料理、インテリア、ライフスタイル、コミックエッセイと刊行物は多岐にわたる。最近では、政治・経済・女性のエンパワメントなどにもジャンルを広げつつある。 
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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