マイ茶室を持っているという方は挙手願います。『茶室がほしい。 茶室から入る茶の湯の愉しみ』

野坂 美帆2014年12月27日 印刷向け表示
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茶室がほしい。 (茶室から入る茶の湯の愉しみ)
作者:永江朗
出版社:六耀社
発売日:2014-11-26
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マイ茶室を持っているという方は挙手願います。

手、上がりませんよね?普通は持ってないですよね?例えお茶を習っていても茶室を持とうと思うことはまれではないかと思う。それが普通だ。スタンダードだ。多数派だ。招かれることはあるかもしれない、しかし所有するものではない、そうでしょう皆さん。しかし、ここにその希少な例がある。茶室作っちゃった人いたー!!しかもその茶室への思い入れを延々と語り倒し、一冊の本にしちゃった人いたー!!建築家、いや違う。実業家、それも違う。永江朗さんだ。永江さんは新聞、雑誌方々で活躍する売れっ子ライターで、今年だけでも5冊を上梓した人気の文筆家。『茶室がほしい。茶室から入る茶の湯の愉しみ』は、そんな永江さんがどのような経緯でお茶と出会い、茶室を求め、つくり、そしてその後どうしているのかが語られた一冊だ。

そもそも永江さんは、自身の家づくりについて書いた『狭くて小さいたのしい家』(ご自宅の設計はアトリエ・ワン)、住まいを形作る部品について考察した『いい家は「細部」で決まる』などの著作があり、建築への造詣が深い。そんな著者が茶の湯に出会い、茶の湯における茶室の役割に思いを致したらどうなるか。まあ、つまり本が一冊かけるほどになってしまうわけなのだが。ただ建てるだけじゃないの、と思われるかもしれない。茶道の決まりがあって、それに則って建てればいいのではないか。しかしそれは違う。茶室をつくるということは、「建物」としての茶室をつくる、それで終わりではない。なぜならば、茶の湯における茶室は、ただの「建物」ではないからだ。え、と戸惑う読者に、永江流に解かれた茶の湯の歴史や作法の解釈が語られる。それを読み進めると、茶の湯は基本的に茶室を必要とする芸事であり、「茶の湯にとって、茶室は道具の一部なのだ」ということがわかる。道具の一部なのだから、茶の湯そのものの解釈、またその芸事との親しみ方が茶室づくりに大きく関わるということが理解できてくる。また、「茶室は茶道具であるけれども、日常空間と兼用できる」とも気づかされる。茶の湯における茶室は、「建物」であり、道具としての「機能」を持ち、日常と非日常が重層する「場」でもある。建築好きはここまで示されればきっと血が騒ぐはずだ。茶室がそのような性格を持つものだという定義を踏まえて見つめれば、ゆっくりじっくり自らの心地よい場所に収まるまで紆余曲折を経たマイ茶室を求める旅路の記録は、エキサイティングである。建てる、つくるという視座からしか見えないものは非常に興味深い。

本の筋は基本的に永江さんの茶室づくりを追いかけていくのだが、読み進めていくうちにどうも不思議な気分になってくる。なんだか茶の湯が非常に魅力的な趣味に思えてくるのである。永江さんが茶の湯にはまったきっかけがまず面白い。彼は雑誌「BRUTUS」の取材で訪れた千宗屋さんのもとで衝撃を受ける。取材にはニューヨークからの客を伴っていたが、宗屋さんはその客に合わせて茶室のしつらえを整えていたという。ソーホーで手に入れたアフリカ製の壺を花入に、お菓子は自門に伝わる茶碗に由来したものを香川県から取り寄せていた。それを見て永江さんは思った。

茶の湯というのはたんに作法どおりにお茶を点てたりそれを飲んだりすることではないのだと知った。むしろパフォーマンスアートのようでもあり、コンセプチュアルアートのようでもある。テーマにしたがって道具を選び、空間と時間を演出するのだ。そしてそのテーマは、亭主(アーティスト)が一方的に提示するのではなく、客との関係性において決まる。

例えば歩く所作一つ、茶碗をとる手捌き一つに決められたルールがあるお茶の世界は、作法にがんじがらめになった堅苦しい世界というイメージがある。しかし、この言葉にそのイメージは覆され、茶の湯は新鮮な魅力を放ちだす。そして彼が茶の湯にはまっていく過程を追体験しながら、次第に自分も引きこまれてしまう。この本は、茶室をつくる過程を追いかけたドキュメントであるけれども、一方で知られざる茶の湯の本質的な姿を永江流に紹介し、その奥深さ、楽しさを知らせる伝道書なのである。また茶室はその性格上、茶の湯に関わる様々な作法や道具とのかかわりがある。それらが細かく解説され、マイ茶室づくりに斟酌されるのだから、読者は自然と茶の湯の知識を備えていくようになる。楽しく学ぶうちに、茶の湯が身近な芸事になっている。気楽な入門書でもあるのである。なんだかお得な本を読んだ気がしてくる。

そして読み終わると、ちょっと茶の湯、始めてみようかな、などと思ってしまうのである。恐るべし永江マジック。でもこんな魔法にかかるのも楽しいかもしれない。 

↓永江朗さんと言えば、書店・出版業界に関する書籍でも有名です。 

(046)「本が売れない」というけれど (ポプラ新書)
作者:永江 朗
出版社:ポプラ社
発売日:2014-11-04
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↓京都で茶室のためのセカンドハウスを探しリノベーションした不動産体験記。『茶室がほしい。茶室から入る茶の湯の愉しみ』と合わせて読みたい。 

そうだ、京都に住もう。 (小学館文庫)
作者:永江 朗
出版社:小学館
発売日:2015-01-05
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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