『オートメーション・バカ』快適さの代償は、どれくらい?

内藤 順2015年01月01日 印刷向け表示
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オートメーション・バカ -先端技術がわたしたちにしていること-
作者:ニコラス・G・カー
出版社:青土社
発売日:2014-12-25
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クラウド、ウェラブルデバイス、M2M、IoT、ドローン... 年を追うごとに世の中はどんどん便利になり、快適になっていく。今から30年後の2045年には、コンピュータが人間の知能を越えるという予測もあり、そのような技術的特異点の先には、今とはまったく違う世界が広がっているかもしれない。

タイトルからも一目瞭然であるように、本書はそんなオートメーション化していく世の中に対して警鐘を鳴らす一冊である。とは言っても、不可逆な流れに抗うドンキホーテのようなスタンスではなく、またいたずらにテクノロジー失業を煽るようなものでもなく、オートメーションが人間の身体にどのような影響をもたらしているかを、数々の先行事例を元に分析している一冊だ。

たとえばこの数10年間にオートメーション化が進んだ業界として、航空業界の事例が示されている。機械システムからデジタルシステムへの移行、ソフトウェアとスクリーンの増殖、肉体労働のみならず頭脳労働までもがオートメーション化されたことによって、パイロットという存在の定義自体が曖昧になってきているのだ。

実際にパイロット達に「高度にオートメーション化された飛行機を操作する経験によって、自分の手動操縦能力が影響されたと思うか」と尋ねると、3/4以上が「スキルが衰えた」と回答し、スキルが向上したと感じているのはごくわずかであったという。

また、最近では医学の領域においても、オートメーション化の影響は大きい。電子記録を採用しているプライマリーケアの医師たちを対象にした研究では、「医療知識の減少」「患者をステレオタイプで見ることの増加」など様々な観点から、スキルの低下を確認することが出来たのだ。

にもかかわらず、なぜ世の中はオートメーション化の道をまっしぐらに歩んできたのだろうか。そこにはデカルト以来の二元論に基づく、大きな誤解が存在していた。それが著者の言う「代替神話」というものである。

これは、仕事が個々のタスクに分けられ、各々は全体の仕事の性質を変えることなく個別にオートメーション化出来るという、誤った前提のことを指す。「ルーティンな労働は機械に任せて、人間はもっとクリエイティブなことに専念するようになるのだ」という幻想も、このような言説に端を発するのかもしれない。

しかし労働節約のための装置は、決してある仕事の中から切り離し可能な限られた部分のみを代替するわけでない。そしてその結果、以前は「人間の筋肉に取って代わる」役割に過ぎなかった機械が、「人間の脳に取って代わる」領域に迫りつつあることも、また事実である。

思考と行動が不可分であることを示す一例として挙げられるのが、現代の心理学・神経科学で注目を集める「身体化された認知」という概念である。「思考」を生成するプロセスは、全身の動きや感覚的知覚からも生じており、認知機能は身体の様々な場所に分配されているのだという。たとえば美術におけるドローイングという行為が、単に思考の表現手段のみには留まらず、思考手段でもあるということにもよく似ている。

思考や記憶、スキルの発達において、身体的行動と感覚的知覚が重要な役割を果たしていると科学者たちが発見しつつあるまさにその時、一方ではオートメーション化が進み、コンピュータ・スクリーンという抽象的媒体を通じたやり取りが増えているのは、何と皮肉なことなのだろうか。

本書ではこの他にも、今後オートメーションの大きな課題となってくる道徳的アルゴリズムの問題について、戦場における無人ドローン航空機の集中攻撃などを題材に言及している。

原題は『The Glass Cage』ーーガラスの檻。檻の外側ではオートメーションが更なるオートメーションを生み出し、我々の生活をより一層プログラムに従うものにしている。それはまるで、スキルを獲得することによって育んできた「進化の歴史」そのものを外部化する行為のようにも思える。

そして著者は、一見透明に思えるオートメーションの裏側には、人々の思惑や動機が存在し、それらを十分理解しなければ我々は檻に入ったも同然であると説く。何が得られたかということだけでなく、何が失われたかということに対する「引き算の感受性」も重要なのである。

かつてツールを使いこなすことには一定のハードルがあり、そのスキルを獲得することによって世の中から逸脱することが出来た。だが年々ツールを使いこなすことのハードルは下がっていき、オートメーション化に抗って世の中から逸脱することには、大きな苦労が伴なう時代になっている。だからこそ、我々は「透明化する快適さ」に対して強い懐疑心を持ち続けなければならず、それが引いては人間の多様性を生み出すことにつながっていくのだ。

本書ではこのように人間かテクノロジーかという議論に留まらず、場とそこで発揮されるパフォーマンスという観点から人間らしさの本質を描き出しており、奏でるような筆致の美しさにも思わず唸らされた。

年始め、人間のこと、そして未来のことを冷静に考えるには、打って付けの一冊と言えるだろう。 

大格差:機械の知能は仕事と所得をどう変えるか
作者:タイラー・コーエン
出版社:エヌティティ出版
発売日:2014-09-11
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フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち
作者:マイケル ルイス
出版社:文藝春秋
発売日:2014-10-10
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テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?
作者:ケヴィン・ケリー
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機械との競争
作者:エリク・ブリニョルフソン
出版社:日経BP社
発売日:2013-02-07
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ネット・バカインターネットがわたしたちの脳にしていること
作者:ニコラス・G・カー
出版社:青土社
発売日:2010-07-23
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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