金髪とカルチャーセンターと核兵器『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』

成毛 眞2015年08月22日 印刷向け表示
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ミリタリーテクノロジーの物理学<核兵器> (イースト新書Q)
作者:多田 将
出版社:イースト・プレス
発売日:2015-07-10
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タレントで金髪といえば所ジョージ、ジャーナリストで金髪といえば津田大介、物理学者で金髪といえば「SHOさま」こと、多田将である。しかもロン毛だ。見た目はロックンローラー内田裕也を若くして、すこしJK風味を付け加えたようなものだと思ってもらえばよろしい。しかしてその実体は、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所でニュートリノ物理学を研究している助教である。

この先生は只者ではない。これまでに『すごい実験−高校生にもわかる素粒子物理の最前線』、『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』など、まさに高校生が理解できる(むしろ頭の固くなってしまった大人のほうが心配だ)、素晴らしい現代物理学入門書の書き手でもあるのだ。その多田先生の最新刊はなんと『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』である。

つまり核兵器の作り方、核兵器を作るための物理学的な原理や、工学的な構造まで親切丁寧に教えてくれる本だ。よく新書でこんなテーマの本を出版したものだと呆れるばかりだ。そもそも、この本は多田先生が東京カルチャーセンターで講演したときの内容をまとめたものだ。

東京カルチャーセンター???

調べてみると多田先生のほかには「木村優の「夏だヨ!お台場ピンク化計画ッ!!」とか「『野球大喜利 ザ・グレート』祭り in 東京」とか「第14回文具祭り! ~あなたのイチオシ文房具、みんなに自慢しちゃいまショータイム! ~」などなど、楽しそうなイベントが山盛りのスペースらしい。このほとんどカオスの中から生まれた本なのだから、面白くないはずはない。

本書は原子核とはなにかから説き起こし、核融合と核分裂の違い、原子炉と核兵器における連鎖反応とは、核燃料の作り方、そして最先端の核兵器の構造まで、まさに懇切丁寧。これであなたも核兵器が作れるかもしれないのだ。

いささか、茶化しすぎたかもしれない。核兵器について語ることだけでも悪であり、罪であると思われる人もいるかもしれない。しかし、その核兵器をしっかり知ることこそ、核兵器の真の威力を知り、廃絶への道を模索できるかもしれないと、考える人もいるだろう。つまり、同じナイフでもその構造を知ることで、レンジャー部隊が持つような大型の両刃ナイフは調理用ではなく殺傷用だと断定することができ、それを基準に銃刀法によって取り締まることができるのと同じことだ。

たとえば本書を読むと、原子炉用の核物質と核兵器用の核物質の違いを知ることができる。そして、それぞれの核物質を作るために必要な原子炉の構造や運用法を知ることもできる。つまり、なぜ軍事的には日本が発電用に使っている軽水炉は問題にされず、北朝鮮の黒鉛炉が問題なのかが理解できるのだ。また、北朝鮮がその黒鉛炉の稼働と停止を繰り返しているかどうかを査察する必要があることも理解できるはずだ。

おなじ北朝鮮へのIAEAの査察というニュースを見ていても、今日からはまったく違う理解になるはずだ。それはテレビや新聞のニュースでは知ることのできない闇でもある。

本書は講演録から作られているのだが、ですます体の口調はともかく、内容は一冊の単行本を上回る内容だ。ある程度この分野を知っている人にとっても目からウロコが何枚も剥げ落ちるであろうし、まったく知らない人にとっても、使われている比喩などが素晴らしく、簡単に理解できるであろう。これで760円は絶対に安い。

ところでウラン濃縮法には遠心分離法だけでなく、ガス拡散法、エアロダイナミクス法、電磁濃縮法、レーザー原子法、レーザー分子法などがあることなんて知らなかった。なかでもレーザー原子法というオタク的で凝りに凝った方式は日本でしかできないというくだりには笑ったしまった。高強度の591.69ナノメートル誤差0.01ナノメートル以下のレーザーを照射するのだというのだ。そんなこと面白くないって?いや読んでみれば判りますとも!

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