『このレシピがすごい!』小さな違いに大きな思想と信念

麻木 久仁子2015年09月23日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
このレシピがすごい! (扶桑社新書)
作者:土屋 敦
出版社:扶桑社
発売日:2015-05-02
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

書店で料理本のコーナーをのぞくと百花繚乱。単身者向け、若いご家庭向け、年配の御家庭用。あるいは節約、時短、作り置き。目についたものを買ってみるのだが、実際に使うとなると決まった料理研究家のものになるから不思議である。

私にとって「作ってみる度」が高いのが土井善晴さんのレシピだ。シンプルで、なんの衒いもない、誤解を恐れずにいえば「ありふれたレシピ」なのに、出来上がりに不思議な品格がある。やってみよう、と思わされる。この魅力はどこからくるのかと思っていたが、この本で謎の一端が解けたのである。

本書で土井さんの「すごいレシピ」として取り上げられているのは「サンマの塩焼き」だ。塩焼きにレシピも何もないと思うなかれ。著者は淡々としたレシピのなかに込められた土井さんの「思想」を解き明かす。

サンマの選び方、洗い方。面倒なおろす作業もないのに洗い方なんてあるのだろうかと思うが、そうではない。指示通りに丁寧に洗う事で「生き物としての美しさ」から「食材としての美しさ」に変化していく事に気づかされる。それが塩焼きという一見単純な料理に不思議な品格を与えるスタートラインだったのだ。

そして、水気の拭い具合や家庭料理ならではの手軽な塩の振り方、焼き加減。プロの料理人の世界とはまた違う、家庭料理の豊かさが立ち上がる。土井さんは繰り返し「美味しそうと感じることが大切。自分の感覚をだいじにすることで家庭の味が生まれる」と語る人である。プロが決めた美味しさではなく、作るあなたが「今だ。出来た」と思う瞬間が家庭料理の出来上がりだという。

家庭料理は食べる人が決まった料理である。繰り返される日常の中で、繰り返し同じ人に食べてもらう。互いに日常を共有する場に出される普段の料理を、どう「用の美」に昇華させるかを追求しているのだ。

本書には人気料理研究家が次々に登場する。それぞれが、じつに個性豊かな考え方で料理に取り組んでいる事が分る。例えば「黒豆」のレシピについて。奥園壽子さんと土井さんのレシピが比較されているが、どこで砂糖を入れるか、火を入れる時間をどうするか、一見小さな違いの中にも理由があり、大きな思想と信念があるという。

料理というものがいかに人の生き方を表現できるものなのかと感動する。他にも栗原はるみさん、有元葉子さん、辰巳芳子さん、野崎洋光さんなど皆さんご存知の料理研究家が登場する。このレシピにこんな深い意図があったのか!と驚くこと間違いなし。それを知ればますます料理が楽しくなるはずだ。

※産経新聞書評倶楽部に掲載されたものを、一部修正のうえ掲載

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

HONZ会員登録はこちら