『ハーバードの人生が変わる東洋哲学──悩めるエリートを熱狂させた超人気講義』 共著者による「はしがき」

早川書房2016年04月22日 印刷向け表示
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今、ハーバード大学で絶大なる人気を誇るのが、マイケル・ピュエット教授による「中国哲学」の講座である。本書は、ピュエット教授による授業内容を熱気もそのままに、詰め込んだ一冊だ。なぜ、中国哲学と真摯に向き合うことが、多くの人の人生を変えるのか? 本書に寄せられた共著者(クリスティーン・グロス=ロー)の前文を掲載する。(HONZ編集部)

ハーバードの人生が変わる東洋哲学──悩めるエリートを熱狂させた超人気講義
作者:マイケル・ピュエット、クリスティーン・グロス=ロー
翻訳:熊谷淳子
出版社:早川書房
発売日:2016-04-22
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2013年のさわやかな秋晴れの朝、わたしはハーバード大学で中国哲学の講座を聴講した。『アトランティック』誌に記事を書くためだ。というのも、この講座はアメリカ人にはなじみの薄いテーマの学部授業にもかかわらず、いかにも学生受けしそうな経済学入門とコンピューターサイエンスに次いで、学内で三番目の人気を誇るというからだ。

壇上に立ったのはマイケル・ピュエット教授。長身で精気にあふれ、年のころは40代後半だろう。「ハーバード白熱教室」で知られるサンダースシアターに集まった700人を超える学生に熱く語りはじめた。人を魅了せずにおかないと評判の教授の講義はちょっ と変わっていて、講義資料もスライドもない。毎回、教授が50分間ひたすら熱弁をふるう。学生に与えられる課題は、古代の哲学者が残したことば──孔子の『論語』、『老子 道徳経』、『孟子』など──を英訳で読んでくることだけ。中国史や哲学についての予備知識も興味も必要ない。ただ、中国の古典に虚心に向き合う気持ちがあればいい。この講座は、毎年、最初の授業で教授が大胆な約束をすることでよく知られる。「中国哲学と真摯に向き合うなら、きっときみの人生は変わる」

わたしは、ハーバード大学で東アジア史の博士号を取得したし、大学院生のときには学部生に中国哲学を教えてもいた。わたしにとってなじみのない題材ではない。ところが、この日、そしてつづく数週間にわたって講座を聴講するうちに、中国哲学の概念にわたしの知りえなかった新奇な息吹がもたらされるさまを目の当たりにすることになった。マイケルは学生に対して、たんに古代哲学者の思想と格闘するだけでなく、自分自身や自分の生きる世界についての根本的な前提を問いなおしてみるよう求めていた。

ハーバード大学の講座にとどまらず、マイケルは世界各地の大学や機関でも中国哲学について講演している。どこで話しても、講演後はかならず聴衆に取り囲まれる。自分自身の人生や現実の問題、たとえば、人間関係や仕事や家族内の葛藤に今回の話を生かすにはどうすればいいかぜひ知りたいという人たちだ。聴衆は、中国の古典思想を知ることが、幸せで有意義な人生のあり方を新鮮な目で見つめなおすきっかけになることにはたと気づく。これまで真実だと思い込んできた大半のものと食いちがうものの見方だ。

そのような見方がよりよい生き方につながったという人は多い。マイケルの学生たちに話をきくと、中国哲学を知って人生ががらりと変わったという実例がいくつも出てくる。人間関係についての考えが変わり、今では、ごく小さな行動が自分にもまわりの人にも波及効果をおよぼすと意識するようになったという学生もいる。ある学生は言う。「ピュエット教授は、まわりの世界とのかかわり方や、自分の感情との向き合い方に別の可能性があることを見せてくれました。それに、自分に対してもほかの人に対しても、これまで感じたことのなかった穏やかな心のもちようがあることも」

将来さまざまな分野でリーダーになるべき立場にいる有能な若者たちから、中国の古典思想のおかげで人生を左右する大きな決断への向き合い方や生きる道筋がいかに変わったか聞くことができた。選んだ道が金融だろうと、人類学だろうと、法曹界だろうと、医療だろうと、若者たちはそれまで教わってきたものとは異なる手だてと世界観を身につけ、人生の意味をとらえなおし、人生の無限の可能性を感じとっている。ある学生のことばを借りよう。「どうも人は、地位でも居場所でも、なにか究極の目標へ向かって日々を積み重ねて、夢の完成まで階段をのぼっているような気になってしまうところがありますよね。でも、この講義で学んだのは、生き方を変えれば、想像もしなかった可能性に目を向けられるようになるということなんです」

学生の人間形成を方向づけるのは、古代哲学の文言だけではない。マイケル自身がインスピレーションの源だ。謙虚で、思いやりがあり、学生が大成するよう尽力することで知られる。数十年にわたって中国思想に没頭するなかで身についた特質だろう。「教授は中国思想の教えを完全に体現しています」と話す学生もいる。

中国哲学が、それを学ぶ者にこれほど強烈な影響を与えるのはなぜだろう。「自己を受 け入れる」とか、「自己を見つける」とか、手順に従って特定の目標を達成するといった観念とは無縁の思想だ。そればかりか、そうしたものとは正反対といえる。具体的でもなければ、決まったやり方もないし、大仰でもない。思いもよらない、まったく予想外の形で土台からすべて変わるということだ。ある学生は、生まれつき身に染みついていると思い込んでいたことがらが本当はそうでないと気づくだけで、どれだけ心が自由になるか話してくれた。「新しい習慣を身につけて、自分のあり方を変えることは、本当に可能なん です。世の中をどうわたっていくか、世界にどう対応するか、他人とどう接するかは変え ていける。わたしが学んだのは、習慣、つまり〈礼〉のもつこの力に習熟すれば、勝手に 自分を枠にはめて無理だと思っていたものごとでも成し遂げられるということです」

わたしたちは長いあいだ、まちがったレンズを通して中国思想を見てきた。「伝統的な」世界と切り離せない古代の思想であり、そのため、現代のわたしたちの生活には時代遅れだと考えがちだった。しかし、学生たちが証言するとおり、古代の哲学者の教えは、 わたしたちが当たり前のように信じてきた通念に疑いをいだかせる。世界とどう向き合うか──他人とどうつき合い、どのように決断をくだし、人生の浮き沈みにどう対処し、どのように他人を感化しようと試み、人生の送り方をどう選ぶか──についての教えは、2000年前と変わらず現在も意味をもちつづけている。むしろ、かつて以上に重要になっている。

マイケルとわたしは、中国哲学がすべての人の心に訴えかける力をもっていると思いいたり、そのようなしだいでこの本は誕生した。読み進めるうちに、中国哲学の教えがいかにきみ自身やきみの将来について見つめなおす可能性をひらいてくれるか知っていただけると思う。

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