そもそもなぜ地球外天体は地球に到達するのか?──『ダークマターと恐竜絶滅―新理論で宇宙の謎に迫る』

冬木 糸一2016年04月25日 印刷向け表示
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ダークマターと恐竜絶滅―新理論で宇宙の謎に迫る
作者:リサ・ランドール 翻訳:塩原通緒
出版社:NHK出版
発売日:2016-03-23
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書名に入っている「ダークマター」と「恐竜絶滅」、どちらもなんてことない単語であるが、かけ離れた関係性の単語なだけに、とてつもなくうさんくさい!「ダークマターとブッダ」ぐらいに意味がわからない! なんてうさんくさい本なんだ! と一目見た時につい思ってしまった。

とはいえ著者は『ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く』など数々の著書/実績に加え、ハーバード大学の教授である理論物理学者リサ・ランドールである。きっとおもしろいはずだ。しかし……本当にだいじょうぶかぁ? と怪しみながら読んでみたのだが、これがたしかにおもしろい──そして、しっかりとしている。見事に「ダークマター」と「恐竜絶滅」という結びつきそうもない両者を結合し、そこにどのような背景が存在しているのかを丁寧に解説してみせる。

そもそも、研究上この「恐竜絶滅」は好奇心をぞんぶんに煽りたて、謎の追求に必要な駆動力を与えてくれるものの、疑問のコアに据えられてはいないのだ。彼女が最初に研究を開始するのは、もっと前段階の疑問に立脚しており、それはたとえば『流星物質と太陽系の力学、そして物理的なクレーター記録に周期性があるかどうかの問題』である。

周期的な絶滅と流星物質

この問題について解説する前に、前提となっている二つの疑問についてまずはご説明しよう。

2013年にロシアに落下した隕石(本書では流星物質と呼称しているので、以下はそれにならう)は多くの人の記憶に残っているのではないだろうか。落下時に触れてもいない窓ガラスが割れまくる破壊力が動画でシェアされたことで、恐竜絶滅を筆頭として地球には時として環境を一変させる流星物質が降ってくることがこの時専門家以外にまであらためて了解されたのではないかと思う。しかし、そもそも安定した軌道にあるはずの彗星(小惑星の方はある程度わかっている)が、「なぜ軌道から追い出されてしまうのか?」という問いかけには誰も答えが出せていない。

もう一つ絶滅に関するおもしろい話として、化石の記録を丹念にかき集めることで導き出された、生物の絶滅には周期性があるのではないかという説がある。『2700万年周期で確率が高まると思われる時期の前後300万年以内でほとんどの大量絶滅が起こっており、しかも、ほぼ必ず、6200万年の時間枠のなかで種の多様性が減少しているあいだに起こっていることがわかった。』これは強靭な仮説ではないけれども、今のところ否定する根拠もない。とはいえこちらも「規則性が認められるとして、なぜ絶滅が周期的に起こるのか」という疑問は残る。その要因の一つとして考えられるのが、前段の問いに繋がる彗星の周期的かつ大規模な衝突なのだ。

本書はこうした問いかけをド真ん中に据え、「物理的なクレーター/絶滅に周期性があるとすれば、宇宙のどのような現象がそれを引き起こすのか」を解き明かしてみせる。「ダークマター」は、その仮説上重要な役割を果たす文字通りの「物質」なのだ。この仮説が正しいと実証されれば、ダークマターは恐竜の絶滅に関係しているのか? という問いかけも視野に入ってくる。

目の前の生活に一生懸命だと意識することもないが「我々はみな宇宙の中にいる一生物」なのである。地面が平らに見えても地球はほぼ球体であるように、膨張し続け、小惑星や彗星が飛び回る宇宙から切り離されているわけではない。ダークマターがはるか遠くの彗星を動かし、めぐりめぐって地球に周期的な影響をあたえているかもしれない──本書はそんな、壮大なスケールの世界と地球生物が密接に関連しあっていることを実感させてくれる探究の書である。

まさに『ダークマターと恐竜絶滅』なのだ。

ダークマターとはそもそも何か

ダークマター(暗黒物質)は光と相互作用しないために一切観測できず、今のところ「本当にある」とは言い切れない状況が続いている。そもそも、「見えもしないのに、なぜそんなものを話題にできる/しているのか?」といえば、見えなかったとしても重さがあれば重力などの諸現象によって周囲に影響を与えるからで、いくつもの観測/実験からその存在はまずあるだろうといえるところまでは検証が進んでいるのが現状のステータスなのだ。

オールトの雲と彗星

「そのダークマターが何かクレーターの彗星の大規模衝突に関係があるのか?」といえば、ざっくりとでも理解してもらうためにはもう少しややこしい説明を読んでもらう必要がある。

まず、地球を周期的に穴だらけにする主要因である彗星(長周期彗星)がどこからくるのかという部分についてだが、これは太陽系の最外縁部に存在するオールトの雲と呼ばれる小天体の集まりが出所にあたるだろうと言われている。オールトの雲は太陽からかなり離れているため重力の影響をあまり強くは受けず、わずかな揺れによって安定軌道を外れてしまう。

軌道を外れる理由はいくらでも想定できるが、「大規模な外れを引き起こすトリガー」となるとそう簡単にはいかない。有力だった説は天の川銀河による銀河潮汐だ。月が地球の海に潮汐を発生させるように、彗星シャワーは天の川銀河が太陽系に接近した際の密度差(天の川銀河は直径およそ13万光年、厚みは2000光年)によって引き起こされるのではないかとする仮説である。

密度の濃い部分に接近した時に、彗星が通常時よりも圧倒的に大量に引っこ抜かれることで周期的にシャワーのように降り注ぐのではないかというわけで、なかなか有望そうな説明に思える。だが、残念ながらもこれは通常の物質だけで計算された仮説モデルでは明確に否定されている(『太陽系の重力ポテンシャルは流星物質の頻度に顕著な違いを生み出せるほど短期間に劇的に変わったりはしないのである。』それでは周期性は単なる気のせいだったのか? あるいは、まだ見ぬ要因がそこに関わっているのか──? といえばそこで出てくるのがダークマターなのだ!

ダークマターは重さを持っているので、これが天の川銀河の平面に存在すると仮定すればさらなる潮汐効果も起こせるはずである。とはいえ本来想定されているダークマターそのままではこの理論は成り立たない。そこでリサ・ランドールらは「新種のダークマター」を仮説として出現させてみせる。この理論はまだ実証されているわけではないが、これがもし実在すれば周期性に必要な「密度」が天の川銀河内に出現し、想定されている周期と近い割合で符合することになる。今後天の川銀河の観測が進めばより確固な理論へと進化するかもしれない。

おわりに

提示される仮説は状況と見事に合致する鮮やかさがあり、未知の現象が綺麗に解決されていく道程は知的興奮に満ち溢れている。とはいえ、所詮魅力的な仮説でしょう? というのも事実である。だが、本書の読みどころはそうした新理論の説明の前提としておこなわれるダークマターの解説や宇宙論と太陽系科学の枠組みの話にもあって、たとえ本書で提示される仮説が将来的に否定されたとしても「おもしろい物理学読み物」としての価値は一級品である。

壮大なスケールで起きる出来事と個人の人生のたしかなつながりを感じさせてくれる、知的興奮に満ち溢れた一冊だ。

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