『TEAM OF TEAMS』 効率性から適応力へ、チェスプレーヤーから菜園主へ

村上 浩2016年06月22日 印刷向け表示
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TEAM OF TEAMS (チーム・オブ・チームズ)
作者:スタンリー・マクリスタル 翻訳:吉川 南
出版社:日経BP社
発売日:2016-04-01
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 2003年のイラク、アメリカ軍は新たな敵との闘いに困惑していた。エリート中のエリートたる統合特殊作戦任務部隊(特任部隊)をもってしても、イラクの混乱状態を鎮静化できる道筋は見えなかった。地元の人間の寄せ集めで、旧式の武器しか持たないイラクのアルカイダ(AQI)は、徹底的に訓練され、ハイテク装備を身に着けた特任部隊を出し抜き、テロ活動を成功させ続けていたのだ。

『チーム・オブ・チームズ』は、この特任部隊が20世紀型組織から21世紀のチームへ変貌した際に司令官を務めた著者マクリスタルの経験を軸に語られる。著者は自身の体験から普遍的な知恵を抽出するため、古今東西の組織の成功と失敗を例示しながら、アカデミックな組織論研究を土台として論理を練り上げていく。

21世紀のチームはこれまでの組織と何が違うのか、高速で変化する環境に対応するには何が必要なのか、新たなリーダーが果たすべきことは何なのか。本書で問われ、考察される問題は、マネジメントやリーダーシップを考える多くの人に新たな視点をもたらすはずだ。また、この本はマネジメントのハウツーやチェックリストを並べただけの退屈なものとは異なり、読み物としても十分に面白い。整備されたマニュアルの不在ではなく存在が引き起こした航空機事故やマシュー・ペリーが日本へ開国を迫るなか大きなリーダーシップを発揮できた要因など、引用される事例の一つ一つがとにかく興味深いのだ。

産業革命を経た20世紀は、フレデリック・テイラーの生み出した「科学的方法」による効率の追求を至上命題としてきた。そして、「反復可能なプロセスを、非常に高効率で大規模に実施」するための「規律と階層を特徴とする還元主義的な組織構造と文化」が世界中で量産され、大きな繁栄を人類にもたらした。特任部隊をはじめとした軍隊に限らず、多くの企業や団体も、この思想をもとに設計されてきたといえる。

テイラーが目指した効率的組織の究極ともいえる特任部隊がAQIをとらえることができなかった真因は、情報テクノロジーがもたらした劇的な環境の変化にある。人々がより早く、より多く繋がりあうことで、あらゆる場面に「複雑さ」が立ち現われたのだ。ここでいう「複雑さ」は、「難解さ」とは異なる性質のものである。内燃機関のように「難解」な機械の動きも突き詰めて考えれば、その運動は決定論的に分解できる。ところが、「バタフライ効果」に代表されるような、要素間相互作用が急増した時に発生する「複雑さ」のもたらす結末は予測が困難なのではなく、不可能となる。従来型の組織をいくら洗練・高度化しても、この新たな「複雑さ」には対応できないのだと著者は説く。

無秩序なネットワーク型組織のAQIと厳格な階級構造で管理された特任部隊の闘いは、各メンバーが自律的に考え有機的に作用しあう集団と、個々の専門家が高い予測力を持つ監督の指示通りに動く集団との闘いに例えられる。野球のようにプレーが区切られ、次に起こることが明確ならば後者のチームが勝つ可能性もあるが、サッカーのようにプレーが止まることなく刻々と環境が変化する場合には、監督からの指示を待っている間に前者が後者を圧倒するだろう。複雑さに向き合うためには、上長からの指示で決められた作業をこなす階級型組織ではなく、現場のメンバー同士が情報をやり取りしながら主体的に判断を下すチームでなければならない。21世紀には効率性よりも、適応性が求められる。

もちろん、組織を階級型からチームに変えるだけで全てがうまくいくわけではない。チームが理想的に機能する範囲にも限界がある。スポーツチームが15~30人程度、ネイビーシールズの分隊が16~20人であることからも分かるように、100人の集団をチームとして動かすことは非常に困難。何より、特任部隊は7000人もいたため、1つのチームとして全メンバーが互いに信頼しあうことなど不可能だった。そして、著者らは1つの巨大なチームではなく、理想的なサイズの複数のチーム同士が有機的に繋がりあう「チームの中のチーム」を作り上げることを目指すこととなる。

「チームの中のチーム」を効果的なものにする鍵は、共有にある。ここでの共有とは、作戦の全体像の共有であり、各チームの目的の共有であり、現場の最新情報の共有である。つまり、全てが共有されるべきのだ。あらゆる情報の中でも軍事情報は特にその機密性が高いと思われるが、著者は徹底的に共有することにこだわった。

司令官就任当時、限られた者のみ参加が許されていた状況報告会議(O&I)を、著者は特任部隊全体へ開放した。最終的には毎日2時間にわたって行われたO&Iに、7000人もの参加者が集うようになったという。効率化を優先させれば直ぐに中止されるはずの巨大会議は、囚人のジレンマを避けるため、各メンバーの意思決定の確度を高めるため、そしてチームの対応力を向上させるために必須であった。情報の共有が何を生み出すのか、情報はどのように共有されるべきか、従来の常識を覆すような議論が深められていく。

情報の共有には情報漏えいのリスクがつきもの。事実、マニングやスノーデンによるリークは世界を大きく揺るがし、軍にも大きなダメージを与えた。それでも、複雑さと向き合う「チームの中のチーム」での情報共有は欠かすことができないと著者は断言する。

兵卒や特技兵が大量の貴重なデータを利用できるシステムを導入したのは間違いだったのか?絶対にそうではない。大量の情報漏えいは現在の情報共有レベルの当然の結果ではなく、たとえそうだとしても、損失の可能性よりも有益性のほうがはるかに高い。

本書の終盤では、メンバーに十分な権限が委譲され、メンバー同士が有機的に結びついた自律的なチームに対して、リーダーは何ができるのかというリーダーシップ論が語られる。21世紀型リーダーは、全ての局面を見渡し最善の一手を考えるチェスプレーヤーではなく、菜園を丁寧に手入れする菜園主のようになるべきだという。

著者が提示し続ける新たな組織・リーダーのあり方を、自分の組織に援用できないだろうかと考えずにはいられない。部外秘としていた情報は軍事機密よりも秘密にしなければならないものなのか、今の組織のあり方は複雑さにどれほど対応できるのか、チームの適応力を高めるために自分は何ができるのか。心地よい問いが、頭の中に植え付けられる。

サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠
作者:ジリアン テット 翻訳:土方 奈美
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