エネルギー界の池上彰が『原油暴落の謎を解く』

久保 洋介2016年07月15日 印刷向け表示
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原油暴落の謎を解く (文春新書)
作者:岩瀬 昇
出版社:文藝春秋
発売日:2016-06-20
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エネルギー問題を分かりやすく解説し、「エネルギー界の池上彰」と称される岩瀬昇さんが新書を出した。今回のテーマは原油価格。価格をキーワードに石油産業の歴史と現状を紐解く。

石油産業が始まって以来、原油価格がどのように決められてきたのか、過去の大暴落の歴史はどうだったのか、そもそも価格を決定する要因は何か、あるいは現在の価格はどのような仕組みで決まっているのかなど、一見専門的な内容を素人にも分かりやすい言葉で解説している。

ガソリン、ジェット燃料、ペットボトル、プラスチック、アスファルト、化粧品、チューインガム、レジ袋。一見、何の関わりも無さそうだが、これら全て石油を原料としている。様々な場面で活用され、私たちの生活の基盤となっている原料はどのように価格づけされているのか。

2014年後半から下落し始めた原油価格。高値で推移していた頃の1/3以下までに一時価格は下落した。今回の原油価格大暴落の引き金となったのは、2014年末に開催された産油国グループOPECの会合。世界的に原油の供給過剰状態にあったものの、サウジアラビアを筆頭とするOPEC諸国は原油供給量を減らさないことを決めた。その結果、アンバランスな需給環境が当面続くとの考えが大勢を占め、原油価格は大暴落していった。

この価格暴落について、原油収入に頼るロシアとイランを弱らせるためにサウジとアメリカが裏で仕組んだという説があるが、著者は一刀両断する。サウジ石油相(当時)の発言を引用しながらサウジの真の狙いを解説。深海油田やシェールオイルなどコスト競争力のない原油をマーケットから淘汰し、コスト競争力あるサウジ産原油のマーケットシェアを向上させることが真意だったようだ。

原油価格は一部の中東産油国と欧米の大手石油会社が裏で取引して決めているとのメディアの誤解にもメスを入れる。サウジ含め産油国が販売する原油価格は先物価格に連動するフォーミュラ方式。そしてその先物価格は市場取引に基づいて決められている。原油先物市場での取引数量は膨大であり、長期間に亘って少数者の思惑で相場操作するのは実質不可能だ

このように、エネルギーの問題になると、陰謀論じみた報道や偏った解説がいまだにされている日本。本書読了後に日本のエネルギー報道をみれば、その違和感を実感できるだろう。

「素人にも判りやすく」が本書の最大のウリだが、リアルなビジネス目線の話が豊富なのも特徴の一つである。オイル・トレーダーたちの原油価格に対する判断根拠や、中小シェール事業者による資金調達方法など、なかなか専門家以外には見えにくいビジネスの現場を垣間みることができる。

一般的に油田開発はハイリスク・ハイリターンな事業。ゆえに外部金融には依存せずに手元資金で事業運営するのがこれまでの常識だった。ところが、金融大国アメリカでは、中小ベンチャー企業が気軽に融資を受けたり社債を発行したりできる環境が整っており、外部金融に依存した油田開発が可能な特殊な環境がある。

これが、アメリカでのシェール革命を後押ししたと同時に、原油価格が下落するとすぐに債務不履行となり倒産する企業が多発する理由となっている。サブプライムローン問題を彷彿させるような仕組みだ。

本書を読み込んでいて改めて感じるが著者の「判りやすさ」。エネルギー分野というと、専門的かつ流動的で理解しにくい分野の一つであるが、著者は自らの元商社マンとしての修羅場体験も織り交ぜながら丁寧に説明し、見事、専門家と素人の橋渡し役という役割を果たしている。

最近では、都心の本屋だけでなく地方の本屋でも著者の本が平積みされているほどの盛況ぶり。岩瀬昇さんというエネルギー界の池上彰の登場で、日本のエネルギーリテラシーは着実に高まってきている。

石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門 (文春新書)
作者:岩瀬 昇
出版社:文藝春秋
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石油の帝国---エクソンモービルとアメリカのスーパーパワー
作者:スティーブ コール
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