『遺伝子の社会』 訳者あとがき by 野中 香方子

NTT出版2016年10月17日 印刷向け表示
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遺伝子の社会
作者:イタイ・ヤナイ 翻訳:野中 香方子
出版社:エヌティティ出版
発売日:2016-10-17
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本書は2人の生物学者、イタイ・ヤナイとマルティン・レルヒャーの共著です。ヤナイはニューヨーク大学医学部教授、レルヒャーはデュッセルドルフのハインリッヒ・ハイネ大学のバイオインフォマティクス教授です。20年ほど前、二人はそれぞれリチャード・ドーキンスの傑作『利己的な遺伝子』に触発されて、進化生物学の道を歩み始めます。「生物とは遺伝子と呼ばれる利己的な分子を保存するべく盲目的にプログラムされたロボット機械だ」というドーキンスの見方に彼らは衝撃を受けました。

みなさまもご存知の通り、その後、遺伝子の研究は画期的な前進をとげ、今も革新がつづいています。その最前線にいる著者らは、「ゲノム革命が起きた後も、『利己的な遺伝子』は依然として、本質的に正しいままだ」としながら、「遺伝子の複雑な相互作用、競争と協力を理解するには、より包括的な視点が必要とされるようになった」と述べます。その視点となるのが、本書のタイトルにしてテーマであるTHE SOCIETY OF GENES ──「遺伝子の社会」です。

遺伝子の社会には、所属する生物によって仕事を変える器用で勤勉な労働者もいれば、何の働きもせず、数ばかり増やす居候もいます。本書では以下のような多彩なテーマにそって、遺伝子の社会の実像と、そのダイナミックな進化のしくみを解き明かしていきます──がん、免疫システム、有性生殖(セックス)、人種の違いと差別、遺伝子の相互作用、遺伝子の社会の分断とそれがもたらす進化、遺伝子のマネジャーと労働者、新たな遺伝子の誕生、種と種の融合、ただ乗りする遺伝子。

また、遺伝子の社会は常に変化しつづけています。人間の場合、1文字が変異したアレル(対立遺伝子)が、そうでないアレルを凌駕して70億人という全人類に広がる確率は140億分の1。それでも、著者らの計算によると、地球規模の遺伝子の社会では、1世代ごとに30個の新たなアレルが先代のアレルにとってかわっているそうです。進化を生物単位ではなく、遺伝子単位で見る。すなわち自然選択を生物に作用するものとしてではなく、将来の世代のゲノムにおける優位をめぐって互いと激しく競い合う遺伝子に作用するものとして捉える──「遺伝子の社会」という新たな視点は、生物世界の実像をかつてない角度から見ることを可能にします。

「利己的な遺伝子という概念は2000年代までわたしたちを先導した。この先はその概念を拡大し、『遺伝子の社会』を考えることで、もっと容易に進んでいくことができるだろう」と著者。SOCIETY OF GENES を「遺伝子の社会」と訳しましたが、訳し終えた今、このSOCIETY という言葉に、「社会」というだけでは表現しきれない、強いエネルギーと躍動を感じています。

野中 香方子

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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