『地方創生大全』唯一最大の課題は、稼ぐことと向き合うこと

堀内 勉2016年12月29日 印刷向け表示
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地方創生大全
作者:木下 斉
出版社:東洋経済新報社
発売日:2016-10-07
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著者の木下斉氏は、全国各地でまち会社への投資や設立支援を行っている「まちビジネス事業家」である。

高校時代から早稲田商店街の活性化事業に参画し、在学中に全国商店街の共同出資会社である株式会社商店街ネットワークを設立し、現在は全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスの代表理事を務めている。また同時に、内閣官房地域活性化伝道師、中小機構中心市街地活性化アドバイザー、総務省人材ネットメンバーなど、政府の各種委員でもある。

木下氏は、東洋経済オンラインで『地方創生のリアル』 を連載中であるが、これが題名通り本当にリアルで役に立つ。リアルという意味では、企業再生における冨山和彦氏(経営共創基盤CEO、元産業再生機構COO)の地方再生版と言えるかも知れない。その木下氏の連載が大幅に加筆修正されて一冊の本になったということで、早速、買って読んでみた。

本書は、地方が抱える問題を「ネタの選び方」「モノの使い方」「ヒトのとらえ方」「カネの流れの見方」「組織の活かし方」の5つに体系化して問題の構造を明らかにし、更に具体的な再生の方法を提言しており、一言で言えば、「あるある」のオンパレードである。

例えば、「500mコアのまちづくり」で一世を風靡した岡山県津山市のまちづくり事業のシンボルである巨大複合施設「アルネ津山」や、高層階部分に図書館などの公共施設、低層部分に商業施設を入れた官民合築の青森県青森市の中核複合施設「アウガ」など、かつてはコンパクトシティの成功事例として取り上げられた失敗事例を取り上げ、結局は「中心部での財政出動型の巨大開発」であり、昭和時代のような拡大経済期にしか通用しない方法を現代に焼き直したに過ぎないと手厳しい評価を下している。

その上で、「本物の成功と偽物の成功を見分ける「5つのポイント」」として、「初期投資額が交付金・補助金のような財政中心ではなく、投資・融資などを活用しているか」などのチェック項目を挙げているので、とても実用的である。

また木下氏は、こうした地方再生の失敗事例だけを集めた、『あのまち、このまち失敗事例: 「墓標」シリーズ』 というかなり刺激的なタイトルの本まで出版しており、ついでにこちらも買って読んでみたが、ここに出てくる失敗事例は、地方再生の現場にとっての宝の山である。

不動産業に長く関わった自分の経験からしても、地方に行くと一目見た瞬間にこれは駄目だと思うハコモノが沢山ある。地方の案件は、ハードに余分なカネをかけた瞬間にもう失敗は保証されたようなものである。補助金頼みの一回限りのハコモノ作りは、当初、ゼネコンを潤すことはあったとしても、メインテナンス費用を全く考えていないので、将来的には必ず地元の重荷として跳ね返ってくる。

最近、修繕積立金が十分でないマンションは、将来、廃墟化してしまう恐れがあるということがよく話題になるが、これと同じ問題である。建物の設計から解体までにかかる総コストをライフサイクルコストと呼ぶが、これは設計費、建設費などのイニシャルコスト(初期投資額)と、修繕費、改修費、保守費、水道光熱費、固定資産税、火災保険料などのランニングコスト(維持管理費)の2種類に分けられる。

ハコモノの場合、「総事業費何十億円」といった派手な数字にばかりに目を奪われてしまうが、ライフサイクルコストに占めるイニシャルコストの割合は全体のわずか1/4程度であり、残りの3/4程度はランニングコストである。従って、分不相応なハコモノを作ってしまえば、その後の負担に耐え切れずに、プロジェクトは必ず破綻する運命にある。

株式会社の経営であれば、「収益」がひとつの強力な物差しであり、兎にも角にもカネを回して事業が倒れないように努力するというのが当然の前提としてある。カネが回らなくなれば事業は継続できなくなり、組織が存続し得なくなってしまうのは構成員の誰もが理解しており、それ自体が議論になることは(滅多に)ない。また、NPOの場合であっても、設立の理念を守り、組織を維持していくためには、やはりカネを上手く回していく必要があるという理解は浸透してきている。

これに対して、地方自治体の場合には、皆、「昔からそこにある」ことを当然の前提として考えており、組織自体がなくなってしまうという危機感は殆どない。確かに、夕張市のように自治体が実質的に破綻することはあるが、それは住民が必要とする公共サービスを提供できるか否かという問題であって、自治体そのものが清算されてなくなってしまう訳では(少なくとも現時点では)ない。

組織がなくなってしまうかも知れないという危機感がなければ真剣にならないし、真剣にならなければ情熱も湧いてこない。

この点について、木下氏は、地方再生のポイントは「稼ぐことと向き合うこと」であると喝破して、次のように語っている。「稼がず、再配分の資金をもらって適当にやるのが楽でいちばん良いという発想こそ、地方衰退の原因でもあります。唯一最大の課題は、ちゃんとやる気になって「稼ぐことと向き合うこと」といって間違いはないかと思います。」

そして、こうした課題の解決のために必要なのは、国からの補助金でもふるさと納税でもゆるキャラでもなく、ひとえに情熱を持った人材だと指摘している。更に、そうした人材は政治家でも役人でもコンサルタントでもなく、地元の民間人であり、しかもそれは育てるものではなく地元から発掘するものだと言う。

つまり、「無責任な100人より行動する1人の覚悟」を重んじて、地元のことを自分事(じぶんごと)として捉えて行動する情熱を持った民間の人材を発掘し、その活動をサポートする仕組みを作らなければ、地方再生は成功しないというのである。

本書を読んでみると、結局、企業の経営も地方公共団体の運営も全く同じであることが分かる。煎じ詰めれば、事業に関わる人材の熱意や行動力と、組織を永続させるためのカネが回る仕組み作りといった、事業会社のバランスシートの左と右のコントロールと同じ問題なのである。

最後に、本書の中では役人は少々部が悪いが、自分の大学の同級生にかなり変わった元役人の山田朝夫という人物がいるので、役人でも役に立つ場合があるという意味で、紹介しておきたい。

山田氏は国家公務員試験の上級職をパスして自治省(今の総務省)に入ったのだが、通常の自治官僚のように国とのパイプ役として県に出向することを拒否して、現場に直に接する市や町への出向を希望して、「流しの公務員」(自治体の課題を解決して歩く公務員)として数々の地方再生に取り組んだ。常滑市民病院を再建中の2012年に総務省を辞職して常滑市の副市長になり、現在は以前助役をしていた安城市にある八千代病院で理事兼法人事務部長を務めている。

その山田氏が自らの地方再生の経験を語った『流しの公務員の冒険 ―霞が関から現場への旅』 という本を出版した。木下氏がその重要性を再三強調している民間人ではないが、情熱をもって地方再生に取り組む姿勢には共通するものがあると思うので、山田氏の汗と涙と笑いの物語も是非参考にして頂きたい。 

あのまち、このまち失敗事例: 「墓標」シリーズ Area Innovation Review Mook
作者:一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス
出版社:一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス
発売日:2016-06-27
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流しの公務員の冒険 ―霞が関から現場への旅―
作者:山田 朝夫
出版社:時事通信社
発売日:2016-10-19
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