2016年 今年の一冊 HONZメンバーが、今年最高の一冊を決める!

内藤 順2016年12月30日 印刷向け表示
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決められないのは分かっている。それでもやりたくなってしまうのが、本読みの性。
今年も2016年最高の一冊を決めるコーナーがやってきた。

とにもかくにも、今年はノンフィクションの当たり年だったと思う。次々から次へと読み切れないくらいの良書が発売され、積ん読の山を前に呆然と立ち尽くす日を何度迎えたことだろうか。

そんな中、HONZ発で多くのヒット作品を世に知らしめることができたのも嬉しい限りである。それはひとえにHONZというサイトが本を売っているのではなく、読書体験を売っているからだと自負している。

メンバー達の連なりも、また一つの読書体験と言えるだろう。今年はメンバー達の2016年最高の一冊を、性格タイプ別に紹介していきたい。

まず最初のページは、自らが今年HONZで紹介した本を再びこちらにも持ってきたタイプの人たちだ。良く言えばブレない人たち、悪く言えば普通な人たち。ただし、元々選んでいた本が普通ではなかったかも…。

小松 聰子 今年最も「私の運命を変えた」一冊

ブルマーの謎: 〈女子の身体〉と戦後日本
作者:山本 雄二
出版社:青弓社
発売日:2016-12-08
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先行のレビューではふざけたノリで紹介してしまったが、つい見過ごしてしまうような事象を新たな視点で捉え直す社会学の面白さを伝える1冊としてあらためてこの本を推したい。なにしろ私にとっては、HONZメンバー入りという運命を変えた一冊なのだ。

と思いつつ、まずその前に表紙がやばい。白地にデカデカと紺色ぴったりブルマーの写真が掲げられている。書店の人文科学の棚に並ぶだけでかなり目を引く光景である。そんな事も含め、ぴったりブルマー(以下ブルマー)というテーマの突飛さに引きずられて本書の本当の面白さは霞みがちだ。

本質はブルマーの何が「謎」なのかという問いにある。そこを楽しまなければ本書の価値は半減すると言っても過言ではない。

ブルマーという単語からあなたはなにを想像するだろうか。ひと昔前の女子中高生の体操着?それとも性的な想像を掻き立てるコスチューム?どちらも正解だが、それだけの事ならネットを開いてグーグル先生に質問するだけで十分なのである。視点を変えて考えてみるとこういう事だ。

ブルマーは露出度が高くて性的な要素が強調される。かつ、ブルマーは学校の指定体操着として30年近く全国で取り入れられていた。学校ではエロいブルマーを履く事があたりまえだったのだ。あんなに露出度が高くて破廉恥な被服が、学校という「性」を極力遠ざけようとする組織の中でなぜ履かれ続けたのか。そう捉え直してみると、ブルマーは実に不思議な存在なのだ。その謎を本書で是非楽しんで欲しい。 ※レビューはこちら

堀内 勉 今年最も「熱くなった」一冊

バブル:日本迷走の原点
作者:永野 健二
出版社:新潮社
発売日:2016-11-18
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書評というのはその本の読者のためにあるので、できるだけ客観的な方が良いと思い、参考書的な立ち位置で書くようにしている。ところが、自分が当事者の本についてはこれが難しい。自分を客観的に見るのが難しいのと同じ理屈である。

この『バブル ー日本迷走の原点ー』は、久し振りに私を熱くさせた本である。当初、いつもの自分の書評スタイルと違って主観的にしか書けないので、どうしようか逡巡していたのだが、この問題に自分としてもケリを付けなければならないと思い、思い切って書いてみた。

バブルという現象をできるだけ客観的且つ包括的に捉えて、それを記録として後世に伝える・・・本書はそうした価値のある素晴らしい本だが、そのバブルの中でもがき苦しんだ普通のサラリーマン達の物語の記録というのも、別の意味であっても良いのではないかと思った。

特に、今回の書評に対して、若い友人から次のようなメッセージを受け取ったことで、そうした思いを強くしている。 「バブルの渦中にあった堀内さんによる書評。もはや書評の域を超えています。ちなみに後発の僕らにとって本当に参考になるのは、そのなかで堀内さんが何を信じて、どう動いたかであったりします。バブルなど大きな仕組みに飲み込まれるか、それに逆らって信念を貫いたかで、その後の人生は大きく変わるのだと実感する。その姿はアントレプレナー的な人にとても勇気を与えると思う。ちょっと書きにくいだろうけど、そういう文章も是非書いてほしいです。」 ※レビューはこちら

冬木 糸一 今年最も「度肝を抜かれた」一冊

生命、エネルギー、進化
作者:ニック・レーン 翻訳:斉藤 隆央
出版社:みすず書房
発売日:2016-09-24
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今年もっとも度肝を抜かれた一冊は『生命、エネルギー、進化』だ。

『ミトコンドリアが進化を決めた』などで知られるニック・レーンが、真正面から「なぜ生命は今こうなっているのか」について取り組み、多様な分野にまたがる議論を総括しながら「宇宙における生命の普遍的特性」といえる生命の基本的な原理を導き出してみせる。度肝を抜かれるのも当然だ。その理屈が確かなら、どのような条件でなら地球外で生命が誕生しうるのか(またその割合も)、生命の特性上、地球外生命がどのような問題に直面するのかもわかるのだから。

地球生命の起源を深く掘り下げていくことで、この宇宙に存在しうる"生命"にまで思考がぶっ飛んでしまう、特異な読書体験がここには広がっている。書かれている内容のレベルは非常に高く、パラパラと読んですっと理解できる類の本ではないが、それは「丹念に読むことで誰でも議論の過程を追い、真に理屈を理解できるようになる」ための必然的な難解さである。数年に一冊レベルの本なので、じっくりと時間をかけて付き合ってもらいたい。それだけの価値のある一冊だ。 ※レビューはこちら

村上 浩 今年最もギョギョっとした一冊

さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~
作者:さかなクン
出版社:講談社
発売日:2016-07-21
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魚のことなら何でも知っている、テレビでも大人気のさかなクンの自叙伝だ。魚というレンズを通して世界を見つめるさかなクンの感性に触れると、日常の何気ない出来事にも彩りが感じられ、心がギョギョっと動きだす。

夢中になることは楽しいことばかりではない。さかなクンもいじめや就職活動など、夢中なだけでは、好きなだけでは乗り越えられない壁に何度もぶち当たる。誰もがさかなクンのように、どんな困難にも負けることなく夢中であり続けられるわけではないが、さかなクンの人生は何かを好きになることの喜びを思い出させてくれる。

出張の合間に本を読み、睡眠時間を削ってHONZのレビューを書いていると、「何でこんなことやってるんだっけ」と考えることもある。HONZでレビューを書いていなければ知ることのできなかった世界や出会えなかった人はたくさんいるが、仕事でもないのに5年以上定期的にレビューを書き続けてきたのはなぜなのか。それは、本を読みレビューを書くのが好きだからだというあまりにも当たり前の事実に、『一魚一会』を読んで気付かされた。

さかなクンが魚に注ぐ情熱には遠く及ばないが、あと10年位続けていれば、自分もノンフィクション本クンになれるだろうか。 ※レビューはこちら

鰐部 祥平 今年最も「俯瞰的な視点を与えてくれた」一冊 

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福
作者:ユヴァル・ノア・ハラリ 翻訳:柴田裕之
出版社:河出書房新社
発売日:2016-09-08
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サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福
作者:ユヴァル・ノア・ハラリ 翻訳:柴田裕之
出版社:河出書房新社
発売日:2016-09-08
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上、下二巻の大著は世界40カ国で発売され、ビルゲイツやバラク・オバマ大統領といった政治家を魅了した。なぜ、本書は世界中の知の巨人たちを魅了したのだろうか。それは人類全体の存在と歴史を俯瞰的に眺める事を可能にする壮大な歴史ストーリーと最新の科学的知識を実に巧みに織り交ぜた結果であろう。

およそ7万年前に起きた認知革命により人類は「虚構」という実際には存在しない物を信じる事が可能になる。この虚構という概念が雑多な個人を大きな集団にする事を可能した。宗教、法人、国家、それら全ては虚構の上に成立している。ここまでならそれほど珍しい理論ではないであろう。

しかし、本書はこの虚構から生み出された繁栄が人間という「種」全体には利益をもたらしつつも、必ずしも個々人の幸福には寄与していないのではないかという仮説を論じている。この仮説を読んだ時、会社を初めとした様々な組織とどう付き合っていくのかという問題に新たな視点が与えられ、目の前の世界が一気に広がるような読書体験をえる事ができた。

長時間労働が問題になっている昨今だからこそ読むべき一冊ではないか。 ※レビューはこちら

新井 文月 今年最も「儚い」一冊

築地市場: 絵でみる魚市場の一日 (絵本地球ライブラリー)
作者:モリナガ ヨウ
出版社:小峰書店
発売日:2016-01-13
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家族で楽しめる築地のイラスト本として、HONZに紹介したのが今年の1月。その後、この本は5月に産経児童出版文化賞を受賞した。さらに今年11月に予定されていた豊洲市場への移転は、延期が決定した。今年は築地にまつわる話題が多い年だった。

その移転が延期になったことを知り、私はまだ業者が入っていない豊洲市場前に足を運んでみた。たしかに外観は完成しているが、中のがらんどうとした空間は不自然だった。その光景を実際に見たとたん、私はとつぜん寂しくなった。本書にある築地らしさが、全く感じられないのだ。

歌舞伎や神社、伝統芸能などは「継承」することが大事だろう。しかし今回の移転はそれではなく、「移動」である。いま実際には、豊洲市場で積み荷が降ろされたり、競りが始まったり、仲卸の声が響きわたるといった光景を見ることができない。だが仮に1000近くの業者がここに移ったとしても、本書が表す活気や人情、築地全体の空気は再び見れないだろう。内容と対象的に、儚さが残る一冊。 ※レビューはこちら

足立 真穂 今年最も「大阪に行きたくなった」一冊

タイトル
作者:金原 みわ
出版社:シカク出版
発売日:2016-05-10

本の内容については、我ながら熱いレビューを書いたのでそちらをお読みいただければよいだが、この本は一般流通しておらず、通販か一部書店で購入可能、にとどまっていた。

その後Kindleで読めるようになったものの「あなたは18歳以上ですか?」「はい」を乗り越えなくてはならず、まさかの「アダルト指定」。驚いていたらやっぱり「そうじゃない」ということで、紙版だけの販売になったそうな。と、そんなこんなでこの版元兼店舗の「シカク出版」に興味がわき、どうにも止まらずについに大阪は中津の店舗へ出かけてしまったのは、私です。

行ってみれば、やたらと入りにくい扉の向こうに、めくるめく自費出版ニッチ、成熟しすぎて別次元に行ってしまった世界……! この日に私が購入した本をいくつか。『ポケット版団地の給水塔図鑑』『散歩なう 201607(特集 高架下 立ち食いうどん』『全国女性街ガイド』など9点合計1万4千円ほど。

この中津という町自体が、梅田から一駅しか離れていないにもかかわらず独自の世界を維持していて足を運ぶ価値大。というわけで、HONZを介して出会えた2016年最強(×凶)のシカクさん、おかげで大阪で遊べました! ありがとう。 ※レビューはこちら

栗下 直也 今年最も「ダメな私をさらにダメにした」一冊 

〆切本
作者:夏目漱石
出版社:左右社
発売日:2016-08-30
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今年は本を読まない一年だった。いや、総量では例年に無く読んでいるが新刊に限れば、夏場から秋口までは積ん読が増える一方だった。当然ながらレビューのペースも緩やかなものになった。いや、緩やかどころか一時期は全く書いてない。毎週HONZメルマガを書いていたので、レビューをすごい量を書いている気分になっていたが、あるとき、自分の投稿を振り返ってみたら、丸々3カ月全く書いていない期間があり愕然とした。もはや季節労働者である。

気が小さい私は当然ながら、いつクビになるかとびくついており、ドナルド・トランプ氏が米次期大統領に決まった時など、編集長の内藤順に「You are fired!」と水戸なまりの英語で宣告される夢を見たほどだ。いや、マジで。あの悪夢以来、内藤順のFacebookの投稿には内容に関係なく「いいね!」を押している。

そんな時に支えになったのが『〆切本』だ。文豪達が電話口で締切に間に合わずに苦し紛れに、編集者に仮病を使ったり、自分に言い訳しながら、ちょっとだけよと飲みに行ったりする姿を知ると、気分は勇気凜々である。反省どころか、心置きなく、レビューを書かずに遊びに行くようになってしまった。

文豪だから許されると思われがちだが、文豪にも無理なのだから小市民の私には当然ながら締切を守るなど無理である。と、無理矢理自分を納得させていたら、はや、年末である。来年はつべこべ言わずに頑張ります。 ※レビューはこちら

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
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