『クレイジー・ジーニアス 世界を変える天才は君の中にいる』 訳者あとがき

早川書房2017年02月23日 印刷向け表示
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クレイジー・ジーニアス (世界を変える天才は君の中にいる)
作者:ランディ ゲイジ 翻訳:白井 準
出版社:早川書房
発売日:2017-02-23
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ビジネスや起業で大成功をおさめるためには、「クレイジー・ジーニアス(クレイジーな天才)」でなければならない。

本書はそう説く。

起業は芸術であり、起業家は芸術家でなければならない。

本書はそうも説く。

ううむ、天才か。

でも、わたしは天才じゃないし、天才になろうとはしていない。そもそも、天才はなろうとしてなれるものではないのでは。

それにわたしは起業家ではなく、かりに起業するにしても、スティーヴ・ジョブズ級はめざさないだろう。

どうもこれは自分にはあまり関係のない本ではないか。

そう思われる方がいるかもしれない。いや白状すると、訳者自身が、簡単な紹介文を読んだときそう思い、疑問を持ちながら読みはじめたのだった。

けれども、読んでいくうちに、そのわたしの反応こそが、著者の批判する「型どおりの思考」なのではないかという気がしてきた。

本書でいう「天才」は、もちろんそのままの意味で受けとってもいい。というか、著者は本当にスティーヴ・ジョブズ級をめざす人に語りかけているのだろう。

だが、それには必ずしもとらわれずに自分なりの読み方をし、自分なりの役立て方をしたと誰かがいったら、きっと「あなた、わかってるね」というと思う。これはそういう本なのだ。 本書はまずその「型どおりの思考」に鉄槌を加えるところから始まる。リゾートで著者がひらいた起業家向けセミナーでのエピソードだ。

最初に自己紹介した人が、セミナー参加の目的として、こじんまりした戦術的な目標をあげたので、あとに続く人がみなそのレベルのことをいったという話。なるほどこれはわたしも著者から「つまらない」といわれる自己紹介をしそうだと思い、そこから早くも引きこまれていった。

世の中には、これはこういうものだから、昔からこうしているから、みんなこうしているから、というだけの理由で、旧態依然のやり方を踏襲する人たちが多いと著者はいう。そういう人たちが世界を支配しているという。

最近読んだ本によれば、外国人コンサルタントが日本の企業にある提案をすると、「それは日本の文化にあわない」といって拒絶するケースがいまでも多いが、その 「日本の文化」なるものには根拠がなかったりするそうだ。これも「型どおりの思考」だろう。

しかし著者が力点を置いているのは批判ではない。力点は、いまはそういう思考法を破れば大きな可能性がひらける時代だと希望を語るところにある。「型どおりの思考」がはびこっているのはチャンスだということだ。

今後、モバイルアプリやソーシャルメディアやバーチャル・リアリティがますます驚異的な発展をとげて、ビジネスの構図をがらりと変えていく。そうした破壊的イノベーションの具体的な見通しをかかげて、大胆な発想の重要性を説いていくところは、 躍動感にあふれ、おおいに鼓舞される。

なるほどと思うところはいろいろあるが、たとえばアプリを成功させるためには、どうすれば儲かるかより、どうすれば消費者・利用者が利益を得るかを念頭においてアウトサイダーでいろということだろう。タクシー業界のインサイダーには配車アプリは発想できないわけだ。

それで訳者が自分に引きつけて思ったのは、たとえば翻訳ということを考えるときも、「翻訳書って文章が読みにくい」という読者の視点(そういう声はいまでもけっこう多く聞く)を自分もつねに持っていたほうがいい、ということだった。

翻訳業界の「中の人」になりきってしまえば、いや、こういう読みにくさにはやむをえない理由がありまして、そこのところをひとつご理解いただきたく……というような言い訳しか浮かんでこず、向上しないからだ。

まあ、訳者の個人的な受けとめ方はどうでもいい話なのだが、アウトサイダー的という言葉は、けっこう著者の立場にあてはまるのではないかと思う。

何しろ全米講演者協会(NSA)の大会で、いずれ劣らぬ自信家ぞろいの同業者たちを前に講演をしたとき、あなたがたが超一流の講演者であるなら、なぜこの大会の主催者から講演者として呼ばれないのですか、などと挑発して、聴衆の一部を激怒させるような人だ。

このアウトサイダーぶりがどこから来ているのかは、著者の経歴からうかがえるように思える。最後にその紹介をしておこう。

著者のランディ・ゲイジは、1959年にアメリカのウィスコンシン州で生まれた。 母子家庭に育ち、15歳のときに麻薬取引がらみの武装強盗事件を起こして少年院送りになるという、さいさきの悪い人生のスタートを切った。

けれども、そこから心機一転、パンケーキ店で皿洗いをして、1年たたないうちに その店の店長となる。20歳でマーケティングの世界に入り、その後、ピザ店を経営。

1990年からビジネス書・自己啓発書を書きはじめ、2012年には『Risky Is the New Safe(「リスキー」こそが新しい「安全」)』がニューヨーク・タイムズのベストセラー・リストでランク入りを果たした。2016年に刊行された本書も、同ベストセラー・リストに登場している。

ゲイジは本を書くほか、世界中を駆けまわって講演をし、視聴覚メディアの作品を数多く発表している。全米講演者協会の会員であり、2013年には同協会の優秀講演者殿堂の一員に選ばれている。

著者もまた、型破りな「クレイジー・ジーニアス」だといえるだろう。

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