『モバイルボヘミアン 旅するように働き、生きるには』自分のモビリティを最大限まで引き上げること

堀内 勉2017年06月05日 印刷向け表示
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モバイルボヘミアン 旅するように働き、生きるには
作者:本田 直之、四角 大輔
出版社:ライツ社
発売日:2017-04-14
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 「モバイルボヘミアン」という言葉を聞いて、最初はきっと、モバイルフォンを駆使してノマド的な生活をしている人のことなのだろうと思っていた。私の食べ友達が本書の共著者の一人である本田直之氏と世界を食べ歩いているfoodie仲間で、facebookを通じて本田氏の生き方を拝見していて、勝手にそのような想像をしていた。

ところが、著者の二人は既にノマドというフェーズを終えて、モバイルボヘミアンという次のライフスタイルに移行しているらしい。本田氏が1968年生まれ、四角氏が1970年生まれということで、バブル世代以降の中からこんな生き方が出てきているんだと感心しながら、興味深く読んだ。

本田氏は一昨年、ハワイ5カ月、日本3カ月、ヨーロッパ2カ月、その他の世界が2カ月という生活を送ったそうだ。四角氏もここ数年は、ニュージーランド6カ月、日本3カ月、その他の海外3カ月という、本田氏と似たようなパターンだという。

「ボヘミアン」の語源は、(ジプシーや放浪者のような人たちを指して)「自由奔放に生きている人」というものだが、二人はそこに「古い慣習に囚われすぎず、自由な発想ができ、クリエイティブな思考を持つ人」「世の中に流されずに自分の心や信念に従って生きている人」という新たな解釈を加えている。

つまり、ここで言うモバイルボヘミアンとは、仕事のために生きるのではなく、「自分の好きなことをライフスタイルの中心に据えながら、旅するように働き、暮らす、自由な生き方」「自分らしくいられる時間をできるかぎり長く持つための方法」であり、「仕事、表現、生活のクオリティを極限まで引き上げるための考え方」なのである。

私のような50歳半ばにもなると、サラリーマン的にはもう完全に勝負がついてしまっていて、大企業の社長や重役になっているか、或いは子会社や関連会社に転出していて、何れにしても組織との関わりの中で自分の時間と金銭的なものをバーターにしながら生きている。

私と同じ年齢の経営共創基盤CEOの冨山和彦氏のように、若い頃から自分の信じる道を突き進んでいる人は非常に稀であり、その冨山氏にしても、仕事の性格上、居住地には相当な制約がある。

本書は、そうした私達のような上がり世代にではなく、主に20代の若者に向けてこれからの新しい生き方を示した指南書である。

短く言うと、二人がモバイルボヘミアンになるために行き着いた答えは、「高度なモバイル・リテラシーを身につけ、自分を移動させる力(モビリティ)を最大限まで引き上げること」である。

ここで言うモバイル・リテラシーとは、「モバイルテクノロジー(デジタルデバイス×インターネット)を武器にする力」のことで、いつでも、どこでも、誰とでも仕事ができる状態にするためには、モバイルテクノロジーを使いこなす力が不可欠なのである。

そして、モビリティを高めることで、旅するように暮らし、旅するように働くことができるようになった結果、二人はより自分らしい生き方ができるようになったという。自分たちが「大好きで心から楽しめること」そのものが仕事になり、そこで初めて「ボヘミアン」という言葉が本来持っている、解放的でよりハイレベルな自由を手にすることができたが、それはデュアルライフ時代、ノマドライフ時代よりも、更に高い次元の圧倒的な自由だったという。

ノマドワーカーを「どこにいても仕事ができる人」とするならば、モバイルボヘミアンはそれに加えて、「仕事とプライベートの境がなくなった状態」である。ただお金を稼ぐためだけ、食えるためだけに働くのではなく、得意なことや好きなこと、ライフスタイルそのものをコンテンツにして仕事をするという「アーティスト」のような生き方は、かつて会社員だった二人の10年前には想像もできなかった人生だと言う。

これからは、いよいよ自分の働き方と生き方の両方を併せて真剣に考え直さなければならない時代である。不要な常識や思い込みに捉われていたら、決して新しい挑戦はできないし、「仕事/生活/趣味」というように自分の人生を「フォルダ分け」すること自体に意味がなくなり、何十年も理不尽に耐え、老後に楽しみを取っておくような「先送り型の人生プラン」と、「充実した毎日を楽しむ生き方」の板挟みに合う必要もない、目覚めてから眠るまでの時間全てをやりたいことに費やすことが可能になる時代、そんな未来の入口に我々はいるのだと言う。

この本のメッセージは極めてシンプルだ。「人生は思っているより短い。だからこそ、自分の人生をできるかぎり有効に使いたい。なのに、なぜ日本の会社で働くことは、こんなにわずらわしいことばかりなのか?」本当は、「仕事のために生きるのではなく、本当に自分がやりたいこと(大切にしたいこと)のために生きていい」のだという力強いメッセージである。

そして、さまざまなわずらわしさを抱えながらも踏ん切りがつかずに働き続けている若者に対して、二人はこう問いかける。「本当に、今の働き方をあと何十年も続けたいですか?」と。

マイナビの2018年「就職企業人気ランキング」では、文系のトップ10が、ANA、JTB、JAL、三菱東京UFJ銀行、東京海上日動火災、三井住友銀行、HIS、みずほFG、損保ジャパン、伊藤忠だが、これを見て泣きそうな気分になったのは私だけだろうか。

二人が言うように、これからの時代は、周りの目を気にし過ぎたり、過剰に空気を読む(忖度する)のではなく、その「小さな心の声」に耳を傾け、その感覚が示してくれる方角へ、信じて進むしかないのだ。

スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学で行ったスピーチの次の一節が、その全てを物語ってくれている。

あなたの内なる声を、他人の意見という雑音にかき消されてしまわないようにしてほしい。もっとも大切なことは、あなた自身の心と直感に従う勇気を持つこと。あなたの心と直感は、あなたが本来あるべき姿をすでに知っているだから。

もし誰かが「より自由に自分らしい生き方をしてみたい」「なにかに依存せず、個人としてアーティストのように生きたい」と心から願い、強い意思を持ち続けることができるなら「必ず、できるよ」と、著者はその背中を押すことができると言う。

勿論、それが直ちに実現する訳ではないし、「時間をかけて、しっかり準備をすることが不可欠だ」ということは忘れないで欲しいと言う。そして、そのためのノウハウが沢山詰まったのが本書なのである。

只、こういった類の本を読んで、必ず誰でも抱く素朴な疑問は、「この人達は特別だからこんな生き方ができるのではないか?」というものである。そして、普通の人なら誰でも、「凡人の自分がこんな真似をしたら、ひどい目に合うのではないか?」と思うのではないか。

正直に言うと、そこは煎じ詰めれば読者の判断と覚悟次第だと思う。そして、読者が真剣に彼らのような生き方を目指すのであれば、今なら必ず道は開けると思う。

自分の人生というのは一回しかない。人生は二度生きられない。何かを選ぶということは何かを捨てるということである。自分にも、あの時ああだったらとか、こうすれば良かったと後悔することは山のようにあるが、実際に「起こらなかった人生」についてあれこれ考えてみても仕方がない。

生まれつき保守的な性格の人というのもいるかも知れないし、全ての人に彼らのような生き方を推奨する訳ではないが、結局の所、二人が言うように、「環境もある、武器もある、あとは「やるか、やらないか」だけ」なのだと思う。

最後に、末尾に書かれた二人から読者への次のメッセージをもって、本書評の締めくくりとしたい。

今日から3カ月先までの、自分のタスクとスケジュールを、冷静になって客観的に見てほしい。ほとんどの人が、今日から1カ月先までは予定がぎっしり、そこから3カ月先までも、ある程度見えていることだろう。それが今のあなたが、やらなければいけないと『思い込んでいること』だ。そして、この先の数年間は、その3カ月のループが延々と繰り返されるだけなのだ。本当に、それらすべてが『本当にやらないといけないこと』だろうか。そのうちのいくつが、『心からやりたいと思うこと』だろうか。このタスクとスケジュールの棚卸しをやることで、自分のライフスタイルを真剣に見直し、自分の理想と現実の間にあるギャップと、本気で向き合ってほしい。

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