『動物になって生きてみた』 訳者あとがき

河出書房新社2017年08月17日 印刷向け表示
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動物になって生きてみた
作者:チャールズ・フォスター 翻訳:西田 美緒子
出版社:河出書房新社
発売日:2017-08-17
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本書は、イギリス人のナチュラリストであるチャールズ・フォスターが書いた『Being a Beast』の邦訳で、この地球上で人間ではなく動物として生きるとはどんなことなのか、人間の立場から考えたり想像したりするのではなく実際に動物になりきって暮らし、見て、嗅いで、聞いて、味わって、感じようとした経験を描いている。このユニークな試みは、2016年のイグノーベル賞生物学賞を受賞した。

著者はケンブリッジ大学で獣医学と法学を学び、医療法と医療倫理の博士号を取得したのち、獣医師および法廷弁護士として活動するとともに、大学で医療法と倫理学を教え、哲学者および雑誌のコラムニストとしても活躍してきた。現在はオックスフォード大学グリーン・テンプルトン・カレッジのフェローとして、これらの多彩な仕事を続けている。

本書の内容からは、さらに瞑想やシャーマニズムの修行に取り組んだこともわかる。獣医外科医の資格ももって、数々の著作のテーマは旅、進化生物学、博物学、人類学、神学、考古学、哲学、法律と広範囲に及ぶ。著者のホームページでは肩書を作家、法廷弁護士、旅行家としているが、多方面にわたる背景知識と本書での自然への思い入れを考えれば、ここではひと言でナチュラリストと呼ぶのがふさわしいように思う(2016年1月のWeb版ガーディアン紙によるインタビューで、ナチュラリストと紹介されている)。

著者は、古代思想で四大元素とされた土、火、水、風を象徴する五種類の動物になって生きてみようとした。土を代表するのはアナグマとアカシカ、火はキツネ、水はカワウソ、風はアマツバメだ。そのさまざまな経験のなかで著者の頭をめぐったすべてが描かれているわけだが、読者は読み進むにつれて著者の驚くほど豊かな知識と教養、イギリス人らしいサーカスティックな(皮肉と風刺と嫌味をミックスした)表現、山ほどの隠喩に圧倒されながらも、次第にその世界に引き込まれていくにちがいない。

ウェールズの丘陵地帯に広がる森、湿地で農業も牧畜もできない荒野が見渡す限り続くエクスムア、ロンドンのイーストエンドにある公園や古い建物の裏庭、スコットランドのハイランド地方、さらにオックスフォードの街からアフリカのコンゴ川上流まで、各章の舞台を著者とともに動物になって、あるいは動物に会うために、旅することができる。

著者の心はいつも、「人間であるとは何を意味するのか?」、「チャールズ・フォスターであることは何を意味するのか?」、「私たちは誰なのか、何者なのか?」、「私たちはここでいったい何をしているのか?」と問い、それに対する答えはなかなか見つからないと言う。それでも、動物になろうとしながら、 同じ生きものとして何らかの結びつき、関係、絆のようなものを感じることもあった。ガーディアン紙のインタビューに答え、「もしキツネやアナグマほど自分とは異なるものと関係を築くことができるなら、私の妻や子どもたちや親友のことをわかる可能性があると思えた」と答えている。

同じくインタビ ューによれば、五種類の動物のうち著者が最も近づけたと思うのはキツネ、それに対して息子のトムが最も近づけたのはアナグマだったそうだ。まだ最後までお読みでない読者は、動物になって生きることに長い年月を費やした著者がそれぞれの動物にどうやって、どれだけ近づき、本書の最後でどのような考えに至るのか、楽しみにしていただきたいと思う。

2017年6月 西田 美緒子

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