『食事のせいで、死なないために もっとも危ない15の死因からあなたを守る、最強の栄養学』 訳者あとがき

NHK出版2017年08月25日 印刷向け表示
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食事のせいで、死なないために[病気別編]―もっとも危ない15の死因からあなたを守る、最強の栄養学
作者:マイケル・グレガー 翻訳:神崎 朗子
出版社:NHK出版
発売日:2017-08-25
食事のせいで、死なないために[食材別編]―スーパーフードと最新科学であなたを守る、最強の栄養学
作者:マイケル・グレガー 翻訳:神崎 朗子
出版社:NHK出版
発売日:2017-08-25
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比較的簡単な手術のために、1週間でも入院すれば、現代医療の技術の高さに感謝せずにはいられない。だが生死に関わる病気にかかり、長い闘病生活を送るとなると、つらい治療に耐えねばならない患者本人はもちろん、家族もさまざまな苦しみや不安を経験するはずだ。

そのいっぽうで、医療従事者の負担も大きい。毎日どれだけ多くの診療や手術をこなし、投薬を行なっても、患者は増え続ける。世界的に見ても、医療費が今後ますます増大することは明白だ。だからこそ、少数の良心的な医師や研究者たちは、病気の治療よりも予防が重要であると考え、医師たちはもっと栄養について学び、患者の食生活の改善を指導すべきだと訴えてきた(が、その声がつねにかき消されてきた理由は、本書に書いてあるとおりだ)。なぜなら、現代人のおもな死因は生活習慣病だからだ。そして、その最大の原因は私たちの食生活にある。

生活習慣病が世界に蔓延したのは、第二次世界大戦後、肉や乳製品を大量に摂る欧米型の食生活の普及とともに、加工肉食品やインスタント食品、高果糖コーンシロップ(異性化糖)、ファストフードなど、自然界にはあり得ない高カロリー食品が、大量生産・大量消費されるようになったためだ。脂っこいものや甘いものを食べると、脳ではエンドルフィンが大量に分泌され、快感や多幸感を覚えるため、麻薬のようにやめられなくなってしまう。

このような食生活の劇的な変化は、世界じゅうに肥満と生活習慣病をもたらした。子どもの肥満も急増し、糖尿病や心臓病など、かつての成人病はますます低年齢化している。つまり、現代病を予防するには、私たちが食生活と病気の関連性について正しい知識を得て、毎日どのような食事をすべきかを学び直す必要があるということだ――なにしろ、命に関わる問題なのだから。

だが、どうすれば正しい知識を得られるだろう? それには、あらゆる業界や政府の利権と無関係な立場にある医師・研究者が、栄養と疾病の関連性に関する膨大な研究論文に目を通し、科学的根拠にもとづいた知見を、非営利目的で人びとに提供する必要がある。まさにそれを実践しているのが、本書の著者であり、栄養に関する非営利科学情報サイト「ニュートリションファクツ」の主宰者である、マイケル・グレガー医学博士だ。

本書『食事のせいで、死なないために』全2巻(原題 HOW NOT TO DIE)は、史上最大規模の疫学研究「チャイナ・スタディ」をはじめとする数々の大規模研究や、特定の疾病と栄養素/食品の関連性を突きとめた膨大な研究データをふまえ、未加工の菜食は健康を促進し、さまざまな病気に対して予防・改善効果があるいっぽう、動物性食品や精製された穀物、加工食品の摂取は、さまざまな病気のリスクを高めることについて科学的根拠を示し、未加工の菜食中心の食生活を送るように勧めている。

[病気別編]では、死因上位15の疾病別に病気のメカニズムを説明し、それに対して野菜や果物をたくさん摂る菜食中心の食事が、各病気の予防や治療、改善に役立つことを示す科学的根拠を詳しく紹介する。日本語版には、日本人の罹患率の高い「胃がん」についての書き下ろし原稿も収録されている。そして、[食材別編]では、〈食の信号システム〉や〈毎日の12項目〉などのツールを利用して、毎日できるだけ簡単に、なるべくお金をかけずに、野菜と果物、全粒穀物、豆類などを豊富に摂る方法やアイデアを詳しく紹介する。

菜食中心の食事は、病気の改善や治療に役立つうえに副作用がないため、ほかのどんな治療法とも併用できるが、生活習慣病はなによりも予防が肝心であり、そのためにはできるだけ早いうちから、健康的な食生活を始める必要がある。また私たちは、自分自身だけでなく家族の健康にも責任がある。家系に同じ病気の人が多いのは、食生活が似ているからであり、遺伝子のみによる発病はごくわずかにすぎない。菜食中心の食生活を送れば、病気の遺伝子は発現しないのだ。だから、子どものころから健康的な食習慣や嗜好を身につければ、一生の財産になる。著者も述べているとおり、健康で長生きできるかどうかは、ほとんど「選択」の問題なのだ。

本書を訳していくうちに、私は自分の体のなかに目を向け、意識するようになった。自分の食べたものが、全身をめぐる血液や、体じゅうの血管や腸壁にどんな影響を与えるだろう、と想像するようになったのだ。実際に、私たちがなにかを食べると、その直後から体内には影響が表れる。栄養を摂ればただちに必要な部分へ運ばれ、抗酸化力や免疫力が高まる。ここで重要なのが、「未加工」と「まるごと(ホール)」というキーワードだ。未加工の植物性食品には、健康に有益なさまざまな植物性栄養素が含まれており、それらをまるごと一緒に摂ることで相乗効果が生まれる。サプリメントで特定の栄養素だけを補っても効果はなく、かえって体内機能のバランスを崩してしまうのだ。そしてもうひとつ重要なことは、体は部分に分断されているわけでなく、つながっているということ。だからこそ、脳によい食事は心臓にもよく、心にもよいわけで、部分的な対症療法では、病気の改善や治癒にはつながらないことも納得できる。

動物性食品に含まれる有害な成分は、体内で炎症や損傷を引き起こし、汚れとして蓄積する。残念ながら、脳を含む体じゅうの血管の内壁にこびりついた汚れは、キッチンの排水管の汚れとはちがって、強力な洗剤や高圧洗浄機で落とすことはできない。血管や腸壁の損傷は、あらゆる重大疾病につながる恐れがある。ところが、菜食中心の食事に切り替えるだけで、汚れや損傷はすぐに減少し始め、血管や腸の内壁のダメージは回復するというのだから驚きだ。

本書でも述べているとおり、伝統的な和食は(塩分が高いことを除けば)非常に健康的であり、食生活が欧米化する以前は、日本人の生活習慣病の罹患率はきわめて低かった。現在でも、日本は世界で一、二を争う長寿国だが、現在の高齢者は食生活が欧米化する以前に生まれた人びとだから、この先も同じようにいくとは限らない。それに残念ながら、日本人は寝たきり期間の長さでも世界一なのだ。だから、健康で長生きしたいと思ったら、なによりも日常の食生活に注意し、適度な運動を心がけ、みずから病気の予防に取り組む必要がある。

とはいえ、日本ではベジタリアン対応の店は少なく、外食で未加工の菜食を摂るのは難しい。そこで、わが家では7~8割方菜食の食生活を始めることにした。家の食事と外食をトータルで見た場合に、植物性食品と動物性食品の摂取量の割合が7対3から8対2になるイメージだ。まず、牛乳、バター、卵、ベーコンなどの加工肉食品を買うのをやめた。最初は少し物足りなく感じたが、夫も私もわりとすぐに慣れた。つぎに、揚げ物、乳製品、甘いものを極力控え、肉や魚を食べる頻度を減らしていった。豆缶や冷凍ベリーを常備し、キャロットラぺを作り置きするなど、手抜きやコツを覚えながら、野菜や果物や豆類などの豊富な食事を楽しんでいる。

ただし、食には文化としての価値もある。動物性食品にも好物はあるし(私の場合、チーズや焼肉など)、いろいろな国や地方の料理を積極的に楽しむことも、人生の喜びのひとつだ。そういうものは、ごちそうとしてたまにいただくと、なおさらおいしく感じるようになった。

このような食生活を始めて約1年になるが、気がつけば体重が増えにくくなり、以前より疲れにくくなった。健康診断の数値も良好で、それももちろん大事だが、日々の生活で健康効果を実感できることがうれしく、健康的な食生活を継続しようという意欲につながっている。

以前から食の問題に興味をもっている私は、ドキュメンタリー映画「フォークス・オーバー・ナイブズ」(2011年、アメリカ)に衝撃を受け、未加工の菜食中心の食生活こそが重大疾病を予防し、改善するカギであるという、科学的根拠にもとづく主張に納得した。そして私は、一冊の本が人生を変える力を信じているから、この主張に沿って、あの映画を凌ぐ説得力をもつ優れた一般書を、ぜひとも翻訳したいと思っていた。

NHK出版の編集長、松島倫明氏は、早くからその希望を理解してくださり、リーディング案件として数々の原稿を読ませてくださった。そしてついに、本書の原著原稿を読んだとき、これこそ待ち望んでいた本だとわかった。アメリカでは、発売直後から空前のベストセラーとなっており、大きな反響を呼んでいる。医療費が高騰し、多くの人びとが肥満や生活習慣病からくる疾病に苦しんでいるなかで、まさに待ち望まれた一冊として、文字どおり多くの読者の「人生を変えている」のだ。

神崎 朗子

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