『レッド・プラトーン 14時間の死闘』今年一番の戦争ノンフィクション!

鰐部 祥平2017年11月28日 印刷向け表示
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レッド・プラトーン 14時間の死闘
作者:クリントン ロメシャ 翻訳:伏見 威蕃
出版社:早川書房
発売日:2017-10-18
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戦闘前哨(COP)キーティングはアフガニスタン北東部に位置するヌーリスタン州の山岳地帯に作られた。パキスタンの国境から、わずか22.5キロメートル。9.11以降アフガニスタンに派兵した米軍はアフガニスタン東部での反乱に悩まされていた。アルカイダとタリバンの戦士達はこの急峻な山岳地帯の網の目のような隠れ谷をうまく利用し、戦士や武器をパキスタンから補給していた。この地方の複雑な地形を利用した輸送線は米軍だけでなく1970年代のソ連軍をも悩ましていた。米軍はこの問題を解決するためにヌーリスタン州及びクナール州の奥地に前進基地を点々と連ね、敵の補給線を断ち、米軍に疑いの目を向けている現地住人に不足している物資を提供し懐柔を図ると共に、インフラ建設を施し、タリバンからの離反を促す戦略を取る。COPキーティングはそうした戦略の一環として誕生した。

本書『レッドプラトーン』はこのCOPキーティングに派遣された機械化騎兵中隊ブラックナイト中隊、レッド小隊のセクションリーダー、クリントン・ロメシャ二等軍曹の著作である。COPキーティングに派遣されたブラックナイト中隊はブルー、レッド、ホワイトの三個小隊に加え、中隊本部小隊を中核にした米兵約50名という編成だ。これにアフガニスタン国軍及びアフガニスタン治安警備隊などが友軍としてキーティングの防衛に当たっている。

派遣されたロメシャたちをまず驚かせたのがCOPの立地だ。キーティングは四方を3600メートル以上の山に囲まれた谷底にあり、敵の目からは前哨の内部が手に取るようにわかってしまう。戦術の基本中の基本は敵よりも高地を占領する事にある。キーティングは基本と間逆の立地に建設されていた。敵は尾根の木立や岩に隠れ前哨に俯瞰射撃を行うことができる。一方前哨側は敵を捕捉する事は極めて困難なうえ、俯瞰射撃を受けながら敵を征圧することは不可能にちかい。レッド小隊一の猛者カーク三等軍曹はキーティングを「死の罠」と形容する。

また急峻な地形と距離のため隣接する部隊からの陸路の援護が望めない。そのため空からの援護と輸送が生命線なのだが、ジャララバードの基地は130キロメートル、カブール郊外のバグラム航空基地は320キロメートルも離れている。さらに輸送ヘリが降りるヘリコプター降着地帯(LZ)は川を挟んだ基地の外側にあり、物資及び兵員の輸送を行う際は、毎度、LZを敵から奪還する必要があるという有様だ。

問題はまだある。友軍のアフガニスタン軍の体たらくだ。規律は乱れ、やる気が無く、無許可離隊が日常茶飯事とかすなど眼に余る行為が横行していた。さらに彼ら防御担当の区間には穴が開いており(本当に物理的な穴だ)この穴を通り誰でも自由にCOPに出入りできてしまう。3月10日の猛襲が始まると、途端にアフガニスタン兵は持ち場を放棄し、基地内を逃げ回りブラックナイト中隊の足を引っ張る存在になる。ロメシャは同僚の軍曹たちとこういい交わす。「ここはクソ壺そのものだ」

ロメシャたちがキーティングに派遣されていた2009年10月3日に300人を超えるタリバンの猛攻撃を受ける事になる。タリバンの攻撃としては過去最大規模の攻撃である。孤立した50人の米兵対300人のタリバン兵の14時間に渡る死闘が始まる。奇襲を受けてすぐに前線の戦闘陣地は分断されてしまう。基地の四方に点在する戦闘陣地にいたロメシャの部下たちは、支援が望めないまま1人ないし数人という陣容で、何十人もの敵兵と対峙する事になる。ロメシャたちが救助しようにも高地のタリバン陣地からの正確な射撃により阻まれてしまう。さらに発電機がRPGで破壊され、外部との通信手段が途絶。前哨そのものが孤立状態にいたる。

前哨内で最も効果な武器である迫撃砲は緒戦から集中的に攻撃され使用することが不可能になる。そのような状況下で砲手のケヴィン・トムソンは攻撃開始直後に右頬を狙撃され戦死する。マリファナが好きで、もの静かな笑みをうかべる若者であったという。襲撃開始直後から前哨は反撃の手段を封じられ壊滅的な状況に陥ってしまう。

さらに折り悪く、中隊の指揮官が不在中の攻撃であった。このため、その日COP警備当番であったレッド小隊の小隊長バンダーマン中尉が中隊の総指揮を執る事になる。著者ロメシャが軍に入って初めて尊敬する事のできた小隊長だ。著者はこう記す「ここからはバンダーマンの勝負だった。そして、幅広い高性能の兵器システムをバンダーマンがどう駆使するかによって、その勝負の趨勢が決する」のだと。

戦闘の詳細はネタバレになってしまうし、現場にいたロメシャ自身が非常に優れた文章で詳細かつリアルに描き出しているので、ここで記す事はしない。私のような戦記や戦争ノンフィクション好きには、本書はそれだけで垂涎物なのだが、一般の諸氏が手に取るのに躊躇するジャンルかもしれない。だが、本書はミリタリー好き以外の人にも読んで欲しい作品なのだ。例えば、突然、しかも絶対的に不利な状況で部隊の総指揮を採る事になったバンダーマンの孤独と葛藤は、組織を率いる管理職の人たちに共感や何かしらのヒントを与えてくれる。

また冷徹なまでに計算され、用意周到に計画実行された作戦行動はタリバンが、ただのテロ組織ではない事を物語っている。タリバンは間違いなく優れた軍事組織なのだ。アメリカとの戦争に加え、ISとの確執で一時は消え去るかのように思えたタリバンが昨今、勢力を盛り返しているのも本書を読めば頷ける。ロメシャも戦友を殺したタリバンを憎みつつも、その能力の高さには、ある種の敬意を見せている。国際報道や国際政治に興味のある人が読んでも十分に楽しめる作品だ。

アメリカ軍の近接航空支援におけるシステムの巧緻さには舌を巻く思いがする。このような複雑なシステムがいかに運用されているかを垣間見る事も面白い。例えば生産技術などの仕事をしている人には、このような巧緻なシステムの構築と柔軟な運用方式は非常に興味深いものになるはずだ。さらに現代の戦争と言うのが、どのようなシステムで運用されているかを知る事は、特に知識人階層にとっては大いに意味のあることであろう。

ロメシャが部下や同僚を見るときに見せる人間に対する洞察の深さと、特徴を捉えた表現方法は小説好きの人が読んでも十分楽しめる。また戦後のレッド小隊の面々の人生にも興味深いものがある。悲惨な戦闘が彼らを大きく変えてしまった事は間違いない。良くも悪くも戦争とはそういうものなのであろう。このように、様々な人が多方面から感心を持って読み進めても十分に読み込むことができる良作となっている。

最後にこの闘いで戦死した人々に哀悼の意を捧げつつ筆を置くことにする。何しろ、この作品からは、まだ乾いていない血の匂いを感じてしまうのである。

アメリカ最強の特殊戦闘部隊が「国家の敵」を倒すまで NO EASY DAY
作者:マーク・オーウェン 翻訳:熊谷 千寿
出版社:講談社
発売日:2014-11-18
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兵士は戦場で何を見たのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ II-7)
作者:デイヴィッド・フィンケル 翻訳:古屋 美登里
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