『動物たちのすごいワザを物理で解く 花の電場をとらえるハチから、しっぽが秘密兵器のリスまで』 編集部解説

インターシフト2018年04月06日 印刷向け表示
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動物たちのすごいワザを物理で解く: 花の電場をとらえるハチから、しっぽが秘密兵器のリスまで
作者:マティン・ドラーニ 翻訳:吉田三知世
出版社:インターシフト
発売日:2018-04-09
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花の電気メッセージを受信する

動物たちは人間の五感を超えた世界を生きている。

たとえば、私たちの目には美しく見える花々——
でも、花は人間に鑑賞してもらいたくて咲いているわけではない。虫などを誘惑して、花粉をつけてもらい、受粉を果たすために、咲き匂っているのだ。

花の紫外線写真を見れば、このことがよくわかる。人間の目で見るより、花粉や蜜のある中心部が大きく派手に目立っている。紫外線が見える虫たちを立ち寄らせるため、花はこうしたデモンストレーションをしているのだ。

ところが、最近の研究で、もっとすごいことが花と虫とのあいだで起こっていることが明らかになった。花の蜜を集めるハナバチは、花のつくる電場をキャッチしているというのだ。
ハナバチを相手にする植物は、大気中の電場を利用して電流を起こし、花に蓄積する。ハチが花を訪れ、蜜をもらっていくたびに、この花の電位は変化する。

こうして、花は蜜があるかないかの「在庫表示」をしている。ハチのほうは、花の電気メッセージを読み取って、蜜の在庫を素早く知ることができるというわけだ。

人間が目で見ていただけではわからない、知られざる花とハチとのコミュニケーション
——物理によって初めて明かされたリアルである。

130キロ離れた炎でもわかる

ギネス世界記録を軽々と塗り替えるような「すごいワザ」が、なぜ動物には可能なのかということも、物理でわかってくる。

人間のもつ驚異の視力として、ギネスブックに、1.6キロ先の人物を判別できるドイツの女性が掲載されたという。それでも、動物界を見渡せば、こんな記録は朝飯前である。

ある種の甲虫(ナガヒラタマムシ、通称「ファイアービートル」)は、なんと130キロ離れた炎でも見つけることができる。しかも暗い夜ではなく、明るい昼間に、感知できるのだ。

このすごい能力、いったいどういう仕組みなのか?
研究の結果、この甲虫は、火を「見る」のではなく、「聞いて」いることが明らかになった。なにを聞いているのだろう? 赤外線である。

ファイアービートルは、脚の付け根に、高感度の赤外線探知システムをそなえている。これは「動物界で最高感度の受容体」と言われ、原理的にはたった1個の光子ですら感知できるほど、凄まじい精度なのだ。

詳しい説明は本書に譲るが、この探知機のコアとなる空間は液体で満たされており、赤外線が入ると、この液体が温まる。そして、膨張した液体が感覚細胞の先端を押すと、その信号が脳に伝わるというメカニズムになっている。
似たような仕組みは人間の聴覚にもあり、音波は内耳にある液体を介して、有毛細胞でおおわれた感覚器官に達する。ここでの反応が電気信号に変換され、脳へと伝わっていく。

ファイアービートルがすごいのは、たんに赤外線という信号に反応するだけではなく、この信号を巧みに増幅させるワザをもっていることだ。その詳しいからくりはいまだ謎なのだが、「能動増幅」あるいは「確率共鳴」という方法をとっているらしい。

ネコやイヌも物理の天才である

身近なペットも物理をうまく活かしている。

ネコが水を飲む動作をよく見てみよう。舌を下ろして、水につけ、元に戻す動作をすごい速さで繰り返しているのがわかるだろう。ヨコからすくって飲むのではない。タテ(垂直)の状態で、カールさせた舌の先端を水につけ、素早く引き上げている。

人間がスプーンで水を引き上げてみればわかるように、一瞬、水の垂直な柱ができるが、すぐ崩れ落ちてしまう。重力のせいである。

つまりネコは、この重力にあらがって水を引き上げるために、あんなに速くペロペロを繰り返すのである(・・・もっとも、ネコの舌は親水性で、「表面張力」によって水を引きつけやすくなっている・・・)。
では、ペロペロの最適頻度はどれくらいだろう? 研究者によれば、毎秒3.5回である。これより速くても、遅くてもうまくいかない。ネコにはこの微妙な加減がわかっているのだ。

イヌにもすごいワザがある。
水に濡れると、イヌはブルンブルンと体を揺さぶるだろう。いろいろな動物たちのブルンブルンを調べたところ、みな同じやり方で揺さぶっていることがわかった。違いは揺さぶる速さだ。

イヌのラブラドルレトリバーでは、これが毎秒約4.5回となる。目にもとまらぬ速さである。彼らは約90度の角度(左右で計180度、つまり体を半回転)まで回転させ、ブルンブルンしていることもわかった。

このブルンブルンは、物理で「単振動」と呼ばれる運動なのだが、イヌにこんなワザができる秘密は、その皮膚がタプタプだからである。外皮と筋肉のあいだに、柔らかいスポンジ状の層があるのだ。

さて、本書にはほかにも・・・

・激しい雨のなかでも、なぜ蚊は落ちないで飛べる?
・アリは巣へ戻る最短ルートをなぜ分かる?
・生物版GPSを使って、海の旅から戻ってくるカメ
・ゾウは三角測量によって「地面の便り」を得る
・赤くなるにはわけのあるタコ
・驚きの立体聴覚を持つヘビ
・しっぽが秘密兵器になるリス
・乱流を抑えるタツノオトシゴ
・量子力学を利用し、生きた太陽電池となるスズメバチ

・・・など、面白い研究が満載だ。

動物たちのすごいワザの秘密に感嘆しながら、物理の知識も学べる(数式は出てこない)という1冊で2度美味しい本書
——「ポピュラーサイエンスの殿堂に加えるべき名著」との評価(ポピュラーサイエンス誌)も、納得いただけるだろう。

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