九歳でロケット、十四歳で核融合炉を作った「天才」──『太陽を創った少年』

冬木 糸一2018年05月25日 印刷向け表示
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太陽を創った少年:僕はガレージの物理学者
作者:トム クラインズ 翻訳:熊谷 玲美
出版社:早川書房
発売日:2018-05-18
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この世には「ギフテッド」と呼ばれる神から与えられたとしか思えない才能を持つ凄い人間たちがいる。そのうちの一人がアメリカ、アーカンソー州のテイラー・ウィルソン少年だ。彼は9歳で高度なロケットを”理解した上で“作り上げ、14歳にして5億度のプラズマコア中で原子をたがいに衝突させる反応炉をつくって、当時の史上最年少で核融合の達成を成し遂げてみせた。

彼は核融合炉を作り上げるだけで止まらずに、そこで得た知見と技術を元に兵器を探知するための中性子を利用した(兵器用核分裂物資がコンテナなどの中に入っていると、中性子がその物質の核分裂反応を誘発しガンマ線が出るので、検出できる)、兵器探知装置をつくるなど、その技術を次々と世の中にために活かし始めている。本書は、そんな少年のこれまでの歩みについて書かれた一冊であり、同時にそうした「少年の両親が、いかにしてのびのびと成長し、核融合炉をつくれる環境を構築してきたのか」という「ギフテッドの教育環境」についての本でもある。

著者は《ポピュラー・サイエンス》誌などで科学ライターとして活躍するトム・クラインズ。彼はその確かな知識でもって、核融合炉をどのように作るのか、核融合がどのようなプロセスで起こるのか、またそこでどのような困難が発生するのかをしっかりと描写していってくれる。そのおかげで本書は、きちんとしたサイエンス・ノンフィクションでもあるのだ。少年が幼少期から科学と工学に取り憑かれこれでもかと新しい領域を開拓し続けていく様は驚異という他なく、その脇を固める両親たちのほぼ完璧なサポートもあって、安心して世紀の道筋、科学が成されていく興奮を味わうことができる。今年読んだ中でもベストといっていい出来だ。

4歳の頃からすごかった

たいてい偉人は幼少期からトンデモエピソードが絶えないものだがテイラー少年も同様である。テイラーは偏執的に穴掘りを楽しんでおり、すぐに穴掘りというより”建設工事”と呼べる域へと到達してしまう。5歳の誕生日には本物のクレーンが欲しいんだと泣き叫び、普通の親ならこやつめハハハと却下するところだろうがテイラー少年の父親ケネスはなんと建設会社を経営している友人に声をかけ、6トンクラスのクレーンを家に持ってきて好きに操縦させたという。

その時点で「親もすげえな」と感嘆するほかないが、そうした方針が結果的にはテイラーにとっては良いように左右した。なぜなら彼はその後、どれだけ寛容であったとしても普通の親ならまず許可しないであろう領域にズブズブ入り込んでいくのだから。『ケネスによれば、ふたりがしたかったこととは、「子どもたちが自分らしさに気づけるようにすること、そして彼らがその自分らしさを伸ばせるよう、できるかぎりのことをすること」だったという。』

ついに核物理学に興味を持つ

テイラー少年がロケット制作などを経て核物理学に興味を持つのは10歳の誕生日のことだ。テイラー少年は誕生日に、彼と同じような少年が裏庭の小屋で増殖炉を作ろうとしてあやうく死にかけた実話ノンフィクション『The Radioactive Boy Scout』を買ってもらい、個人でもハンズオン型の原子核物理学に挑戦できることを知ってしまう。そこからあとはもう一直線だ。

ラジウムを精製して、放射能をさらに高くして、その放射線を安定な元素に当てる実験をする。イーベイで放射線関係のものを買い漁る、放射線関連機器メーカであるスペクトラム・テクニクスに出かけていって放射線同位体ジェネレータを手に入れる、鉱石からウランを抽出する、と一歩間違えれば大惨事になりかねない領域へとどんどん踏み込んでいく。その点、彼が凄いのはそのへんの安全面についてはめっぽう気を使っていた点だ。フェイスマスク、グローブ、防毒マスクをつけてありとあらゆる計測機器も準備している。ただ、親の緊張は相当なものだった。

何しろロケットをつくるだけならまだ何かあった時は爆発なりなんなりでヤバさが一瞬で伝わるが、放射線が漏れ出してしまったら知らぬ間に致命傷になりかねない。しかも両親は科学者ではない。どれだけ息子を信頼しているとはいっても、彼がやっていることがどれぐらい危険なのか、大丈夫だ、問題ないという説明を受けてもわからないのである。子どもを信頼してただ任せるというのは、立派なようで時に都合のいい言葉だ。その点、テイラー少年の両親は凄かった。

ただ息子を危険なものから引き離すわけではなく、放任したわけでもなく、放射線医薬品を供給する会社を経営する友人にテイラーのメンターを任せたのだ。”「安全に」好きにさせるためにはどうしたらいいのか”と考えた結果だったのだろう。

 テイラーとジョーイの才能に気づいて、それを理解しようとした。子どもたちを急かしたりはせず、味方になって、応援し続けたし、知的な冒険をさせることもいとわなかった。子どもたちが自分の関心を追求し、それを広げていけるように、新しいことを知る機会を与えたり、助言を与えてくれるメンターと引き合わせたりした。

本格的に核融合を目指す

専門知識を持つ優れたメンターを得たテイラー少年は、さらにその道を突き進む。より太く核物理について理解し、高額で不足しがちながん診断用の医療用同位体を、核融合反応で放出される中性子を使って作れないだろうか? と考え始め、本格的に核融合を目指すことになる。

彼が目指すファーンズワース=ハーシュ型フューザーは、円の内側に向かってイオンを発射し正面衝突をうながすことで原子核の融合および高エネルギーの中性子を発生させる仕組みだが、当然そう簡単にはいかない。惑星間空間よりも何桁も高い真空度が必要で、10万ボルトの電圧と、5億8000万度に達するプラズマコア発生させ、それらすべての条件を保つことのできる頑丈な環境を用意しなければならない。だがテイラー少年はそれをやり遂げるのである。両親の助けもあって環境を得て、100万以上するの実験器具を寄付してもらったり譲ってもらったり、その道の専門家のメンターを得──その波乱の道程は、是非読んで確かめてもらいたいところ。

おわりに

本書が素晴らしいと感じたのは、テイラー少年が核融合炉を作る過程で陥った幾つもの失敗を技術的な詳細と共に書いてくれているところである。実はそこ──仮説を立てる、実際に実験で確かめようとしてみる、失敗する、なぜ失敗したのかを検証する、再度仮説を立てて実験してみる──といったサイクルにこそ、”科学のおもしろさ”があるのではないだろうか。科学のおもしろさについて、ギフテッドの教育、「天才」とレッテルをはって祭り上げることで、増長し墜落する危険性など、本書には多様な論点が内包されている。ぜひオススメしたい一冊だ。

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