『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』本が宝物だったころ イタリアの山村、モンテレッジォの物語

成毛 眞2018年05月27日 印刷向け表示
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モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語
作者:内田 洋子
出版社:方丈社
発売日:2018-04-06
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ツイードジャケットは英国製よりもイタリア製のほうが好きだ。柔らかく、シワになりやすいが、肌に馴染んで、なによりも色合いが美しい。

本書はそのイタリアの織物のように軽やかで、味わい深く、時には風を通すような美しい本だ。紙質、装丁など、どこを見ても丁寧に作られた一級品だ。文章は清々しくも温かい。上質のツイードそのものなのだ。

それもそのはず、内田洋子はイタリアの時空を縱橫に飛びまわり、掌編小説のようにエッセイ仕立てのノンフィクションを書く名手だ。

あくまでも著者が見たまま、聞いたままを文章に落としているだけだ。長文の写真キャプションのようでもある。しかし、その文章に音楽を感じるのは評者だけだろうか。

今回、内田洋子はイタリアの山村、モンテレッジォの物語を描いた。

イタリアの最も由緒ある文学賞のひとつ露天商賞の発祥地である。いまは32人しか住んでいないこの小さな村の人々は1800年代の初頭からイタリア各地に本を届けていたという。

ヴェネチアの古書店でそれを知った著者は、モンテレッジォ村に移り住み、子孫たちも忘れてしまった村の歴史、本の歴史を掘り起こしていく。

本が宝だったころの物語だ。

16世紀初頭、村人たちは聖者の御札や暦をイタリア各地で売り歩いていた。やがて本を売るようになり、出版社から直接仕入れて行商した。出版社が行商人にゲラを読ませて、印刷するかどうかを決めていたこともあるという。行商先では客の顔を見て一冊の本を勧めた。そして彼らの子孫たちが各地に本屋を作ったのだ。

心情表現もトリビアも誇張もない。本とイタリアが好きならば、手にとって損はない本だ。しかし、本書の最大の魅力は内田洋子その人にある。ゆったりと遊ぶように、しかし真面目に人と歴史と向き合う愉悦を知ることができる美しい本だ。

※週刊新潮より転載

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