【連載】『全国マン・チン分布考』
第1回:京都の若い女性からの切実な願い

2018年9月13日 印刷向け表示

放送禁止用語に阻まれた『探偵! ナイトスクープ』の幻の企画が、ついに書籍で実現。かつて『全国アホ・バカ分布考』で世間を騒がせた著者が、今度は女陰・男根の境界線に挑む! 第1回は「京都の若い女性からの切実な願い」について。はたしてこの企画は、どのように誕生したのか?(HONZ編集部)

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作者:松本 修
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 京都の若い女性からの切実な願い

1995年5月初旬のことです。ユニークな内容が書かれた一通の手書きの依頼文が、『探偵!ナイトスクープ』に寄せられました。そのころはまだパソコンが普及していませんでしたから、依頼は必ず、はがきか手紙で寄せられました。

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全国アホ・バカ分布図

手紙をくれたのは、京都市内に住む24歳の女子学生でした。地元京都で学生になる前に、東京で働いていた時期があったようです。この依頼はまさにこの本のテーマ、なんと「女陰」の名称の全国方言分布図を作成してほしいと求める内容だったのです。こんなお願いが、若い女性から、しかも大真面目な文章で寄せられてくるとは、夢にも思っていませんでした。

私たちに依頼文が届いたのは、1991年5月24日に「全国アホ・バカ分布図の完成」編を放送してから、ちょうど4年が経ったころでした。この放送をきっかけに、私が「アホ・バカ方言」の研究を仕事の合間に始め、『全国アホ・バカ分布考』を太田出版から上梓したのは、1993年7月でした。この女性はそれらを踏まえた上で、依頼文をしたためてくれたのです。

人は一生に一度は、感動的な名文を残す機会があります。絶妙な年齢のときに、誰にもできない珍しい体験をして、それを素直な心で、正直に文章に綴った場合です。この依頼文こそ、まさにそれに当てはまるでしょう。

とても真剣にして、真面目で、それだけに滑稽に読むことのできる文章です。事実の重みは、奇跡の文章を生むものだと思います。ぜひじっくりと味わってみて下さい。
 

探偵のみなさん、こんばんは。いつも楽しく拝見しています。

今日はとてもとても恥ずかしかった話をしますが、くれぐれも、本人はマジメなんです。ナイトスクープが全国で放映されるようになった今、ぜひみなさんで考えていただきたい重要なことがあるのです。ぜったい、ぜったいマジメにきいて下さい。

あれは3年前、東京で働いていた時のことです。母から「会社のみなさんでどうぞ」と、京都のおみやげを送ってもらった時に事件は起こりました。母は京都でおいしくて有名なおまんじゅうを送ってくれました。そして4、50人いた社員全員に無事おみやげを配り終え、さて、私もそのおまんじゅうをいただこうと思って机の上を見たら、なぜか見当たりません。どうしたことかと思い、明るい私は、大きな声でまわりの人に、
「私のおまん、どこにいったか知りませんか?」
とたずねました。

私は京都生まれの京都育ち、当たり前のようにおまんじゅうのことは「おまん」と言います。すると上司が、とてもまっ赤な顔をして、
「おまえ、今何と言った?」
と、慌てて聞き返したので、きょとんとした私は、
「いや、私のおまんがないんです」
と、何も考えずに答えました。するとまわりの人たちが大きな声で、
「おまえ、昼間っから何言ってんだ!」
と、大笑い。職場では、もう大騒ぎでした。私はどれぐらい恥ずかしかったことか。

京都では、看板にでも「生八ツ橋のおまん」と堂々と書いてありますし、女性はもちろんのこと、言葉のキレイな男性なら、何のためらいもなく「おまん」を使います。関西なら、誰もがふつうに聞いてくれます。私たち京都の人には、「おまん」は丁寧で、美しい言葉でありますし、変な目で見られるのはとても困ります。

それからあと、飛彈高山のおみやげで「さるぼぼ」というお守りがあります。それも私が前に、
「あ、さるぼぼちゃんや」
と言ったら鹿児島出身の彼が、
「えっ?」
と顔をまっ赤にさせ、言葉も出せないくらいになりました。年頃の娘でもありますし、とても恥ずかしい思いをしました。

私はそれ以来、その二つの言葉を言うのが、ものすごく恥ずかしくなりました。そこで全国で、どの地域でどのように使い方がタブーになるのか、「全国アホ・バカ分布図」のように分かるといいのですが。

どうか京都の人たちが「変態」と思われないよう、よく調べていただけませんか。よろしくお願いします。

なんという強烈な、かつ面白い体験記あり、依頼文でもあることでしょう。

この依頼文は、当然のことながら即座に「不採用」となりました。先述のように、女陰語の放送はテレビでは自主規制の対象になっています。放送すること自体がタブーなのです。1992年に集計をまとめた「女陰 全国分布図」は、じつはこの依頼のはるか3年前に出来上がっていました。テレビでは無理ですが、しかし本にはすることができる。いつか本にまとめたときに、いちばんに彼女に届けよう。そう思って、私はこの依頼文を処分せずに、大切に残しておいたのです。

それが日の目を見るときが、やっとやってきました。(第2回はこちら
 

HONZにて特別集中連載!

第1回:京都の若い女性からの切実な願い(9月13日掲載) 

第2回:「女陰」方言のきれいな円(9月20日掲載)

第3回:かわいくて優雅な「オマンコ」(9月27日掲載)

第4回:女陰名+「する」だけが「性交する」ではない(10月2日掲載)

第5回:男根語の試行錯誤(10月5日掲載)

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