【連載】『全国マン・チン分布考』
第4回:女陰名+「する」だけが「性交する」ではない

集英社インターナショナル2018年10月02日 印刷向け表示
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放送禁止用語に阻まれた『探偵! ナイトスクープ』の幻の企画が、ついに書籍で実現。かつて『全国アホ・バカ分布考』で世間を騒がせた著者が、今度は女陰・男根の境界線に挑む! 第4回は「女陰名+「する」だけが「性交する」ではない」ことについて。『女陰語』+『する』の歴史は、実はけっこう浅かった!?(HONZ編集部) 第1回第2回第3回

全国マン・チン分布考 (インターナショナル新書)
作者:松本 修
出版社:集英社インターナショナル
発売日:2018-10-05
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 女陰名+「する」だけが「性交する」ではない

歌島では、女陰名「オメコ」に「する」をくっつけて「オメコする」で、「性交する」という意味になります。これは「オメコ」の本場、関西でも同じことです。東京でも「オマンコする」ですね。では、「マンジュー」や、「ボボ」の地域などでは、どう言うのでしょうか。これはきわめて興味深い問題と言わねばなりません。なぜなら、イヌやネコ、ウシ、ブタ、あるいはニワトリやトンボなどの場合は、「オマンコする」などとは言わずに、現代は「サカル」と言うのがふつうだからです。また文章にするときも動物は「性交する」とは言わず、「交尾する」と言います。あたかも人間のすることは、鳥や獣のやっていることとは別なのだと、誇らんとするかのようです。全国的には、いったいどうなっているのか? 

それを示すのが図の「性交する 全国分布図」です。

この分布図を、「女陰 全国分布図」と比較してみると、歌島と同じく、圧倒的にその地域の女陰語に「する」をつけるケースが多いようです。京の古い女陰語「ヘヘ」の変化した「ベベ」を用いた「ベベする」は日本の東西に残りますが、東北など東日本にはさらに多くの変種「ヘッペする」「エッペする」「ベッチョする」などが数多く見られ、それから「マンジュする」「ボボする」「チャンベする」などが、周圏分布しています。沖縄にも「ヒー(ピー)する」などの周圏分布が見られます。しばらく前まで日本は、まさに「『地元の方言女陰語』+『する』」が、「性交する」を表現する代表的な表現法だったのです。

ただ近年は、明石家さんまさんがテレビで盛んに発言した「エッチ(H)する」が、あっという間に全国の老若男女に広まり、日本語に大きな変革をもたらしてしまいました(この件については、拙著『どんくさいおかんがキレるみたいな。』に詳述)。

さて、動物の「サカル」と同様に、「女陰語」+「する」の方式を用いてこなかった地域も少なくありません。琉球の先島諸島・奄美地方と本土各地に残る「マグ」、本土にのみ残る「マグワウ」、そして「ツガウ」「ツルム」などの言葉を使うところもあります。

このうち現代語、主に文章語として用いられることのある「マグワウ」は、古く『日本書紀』に出てきます。時代を超えて本土に残り、さらに琉球にも渡り、旧琉球王国に多い「マグ」は、本土の「マグ」と同様、「マグワウ」が短略化されたものでしょう。

さらに「ツルム」(沖縄では「チルビン(ツィルブン)」)もまた『日本書紀』にすでに出てくる上代(飛鳥・奈良時代)の古い言葉です。しかも、これもまた現代語として通用する言葉です。こうした表現は大人たちだけのものであり、女陰名と違って、娘を思う親心を考慮する必要がなかったせいもあって、流行りすたりの波に洗われることもなく、1300年以上の時を生き延びてこられたのでしょう。

上代の古い動詞「マグワウ」の末裔「マグ」や、「ツルム」の琉球形「チルビン(ツィルブン)」が、琉球で広がって定着している様子を見ると、本家である本土でも、じつは同じような状況がもともとあり、日本人にとっては、「性交する」ことを、「『女陰語』+『する』」と言うことが常識のようになった歴史は、じつは、けっこう浅いのではないかとも思われるのです。

さて近畿周辺部に目をやると、「サカル」がかなり多いことに気がつきます。「サカル」は今、
獣たちに用いる言葉になっていますが、動物専門語になる前に、京で人間に用いた時期があったことを示しています。また、香川県・和歌山県、そして岐阜県・愛知県などに周圏分布の形で見られる「ツガウ」は、古くからの「ツガル」に影響を受けた言葉でしょう。「ツガル」は、今は犬の交尾などに使われることがありますが、これもまたもとは人間の男女の性行為のために作られた言葉でしょう。そのかなりの広がりの状態からして、「サカル」や「ツガル」は、上方で徳川時代のかなり早くから、流行を見せていたと思われます。

こうして考えてみると、明石家さんまさんオリジナルの「エッチする」は、『日本書紀』よりも以前からある、女陰名を用いない「マグワウ」「ツルム」を偉大な祖先として、近世初期の「サカル」「ツガル」などを経て細々と生き延びてきた性交表現の、原点回帰のムーブメントのひとつであったと、言語史上に位置づけられるのかも知れません。そして、そうした性交表現はもしかすると、はるか縄文・弥生に起源を持つものかも知れないのです。

それにしてもなぜ、古代の日本人は「性交する」という意味を表現するのに、「『女陰語』+『する』」表現にとどまらず、「マグワウ」や「ツガル」を使ってきたのでしょうか。「『女陰語』+『する』」という表現には、男本位の、どこか女性の人格を侮辱するような印象を感じざるを得ません。「チンポする」や「マラする」という言葉が存在しないことが、そのことを裏づけているように思います。その点、「エッチ(Hentai変態)する」は、いかにも公平です。女性には特に口にしやすい言葉として愛好されています。

しかしさらに「マグワウ」や「ツルム」は、「エッチする」のように変態を内包することはなくて、男と女が自然に惹かれあって、ひとつになりたくて交接する、という大らかな明るさを感じさせます。またその心の奥底には、子孫が産まれ出てくる聖なる場所を、安直に性行為を楽しむためだけのような名称とするのは憚られるという、天の神への畏敬の念が秘められているのではないか、とも夢想させられるのです。 

(第5回はこちら

HONZにて特別集中連載!

第1回:京都の若い女性からの切実な願い(9月13日掲載) 

第2回:「女陰」方言のきれいな円(9月20日掲載)

第3回:かわいくて優雅な「オマンコ」(9月27日掲載)

第4回:女陰名+「する」だけが「性交する」ではない(10月2日掲載)

第5回:男根語の試行錯誤(10月5日掲載)

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