コラムの醍醐味ここにあり。『小田嶋隆のコラム道』

足立 真穂2012年06月30日 印刷向け表示
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小田嶋隆のコラム道
作者:小田嶋 隆
出版社:ミシマ社
発売日:2012-05-21
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 よくぞここまでたどりついたものだ。

 これは、本書の「あとがき」の最初の一文だ。読者はここで叫ぶ。「その通り!」。

 もちろん読むのが大変なのではない。簡単に本の説明をしてしまえば、「コラムとは何か」から、書き出しや会話の入れ方、落ちや推敲、文体と主語にまつわることまで、コラムについてのもろもろがまとまっている。

 版元であるミシマ社のホームページなどでオダジマさんが連載された、「コラムの書き方」をテーマとしたそのもろもろの文章たちをゆるめに223ページほどで組み、巻末に内田樹さんとの特別対談を付録に加えてまとめた、読みやすい一冊となっているのだ。

 つまり、あとがきの冒頭は、「オレ、よくここまで書いたわ」というオダジマさんの安堵のつぶやきなのである。

 そもそも毎週との約束で始まったらしいこの連載だが、ヒマなので、「よくぞここまで」を表す全14回分の連載の間隔を出してみよう。

 第一回は、2008年10月3日となっている。第二回まで(以下は、前回の掲載日からの大まかな間隔を示す)18日、第三回まで1ヶ月、第四回まで2週間、第五回まで3ヶ月、第六回まで7ヶ月と3週間、第七回まで6ヶ月、第八回まで4ヶ月、第九回まで1週間(驚!)、第十回まで8日(第九回の前に担当編集であるミシマさんが会いに行かれたのではあるまいか)、第十一回まで8日(掲載日は2011年8月26日)、第十二回まで、7ヶ月以上?(十二回以降は、リクルートの会員制ウェブマガジン「R25 College」での連載のよう。連載開始が2012年4月とあるので前回から7ヶ月を要したという計算になる)、以降不明だが、本の刊行が2012年6月3日と奥付にあるので、最後の加筆編集対談などの作業は壮絶なるものであったことが推察される。

 「よくぞここまで」というには他にも理由がある。

 小耳に挟んだところによると、なんと、途中でオダジマさんは、愛するイグアナの「イギー」を人質としてミシマ社に差し出したそうなのだ。長年飼っていたが死んでしまい、2008年11月には剥製として玄関に鎮座させていたそうなので「借金ならぬ原稿の形(かた)に取られた」が正確な記述といえよう。

その後のイギーの様子→

(ちなみに、イギーは本書の刊行時に無事に小田嶋家に帰宅した)

 なぜイグアナかといえば「私がイグアナを飼育していたのは彼がトカゲには珍しい菜食主義者だからです。ほかのトカゲはネズミか虫。食事風景がキツ過ぎるのでパス」とのことだが、風呂を自分の巣だと信じているイギーを起こさないように、奥様は毎夜風呂を暗くして入る気の遣いようだったとか。暗闇で髪を洗うことも厭わないほどに愛していらしたのだろう(明るいと警戒して起きてしまうそうで、じっと見つめられるのが単純に怖かっただけという説もあるが)。そんな大事なイギーを差し出したのである。

 よくぞここまで。足掛け5年もの時間をかけ、「人質」まで差し出して書き上げた苦闘の一冊が本書なのである。ミシマ社さんもよくぞ待ってくれた、と褒め称えたい。エクスキューズも含まれるのか、ご本人も文中で顛末を丁寧に書いておられる。

 内容についても、読む側からすれば苦しんでくださった甲斐があるというもの。コラムというのは書き手の個性や見識に拠るところが大きいので、断片的に紹介してもしょうがないところがあるが、個人的に好みだったのは「根気」という言葉を、文章を完成に導くために必要な資質としてあげているところだ。

「小田嶋隆と根気」。「根気と小田嶋隆」。

「へ? 根性論スか?」とも言いたくなるが、そんじょそこらの根性論になっていないのは言わずもがな。読み進めると根性論でさえない。むしろ、根気という、いちばん遠い極を持ってくることが読者をどぎまぎさせる技となっているのである。頁をめくっていくと、ついには「葛藤」なる言葉まで飛び出してくるが、これもまた額面どおりには受け取れない。

 思うに、「私が書いているのは、コラムというきわめて非効率な工芸品の制作過程について考察するリアルな文章だ」と文中にあるが、結果としてコラムの集合体となっているこの『コラム道』は、単なる書き方指南書ではなく、珠玉の工芸品として、おもしろがればよいのだろう。文章を書くときに参考になる部分も数多くあるが、それは同時に読む側の立場からも参考となるものだ。時間をかけただけあって(イヤミ!?)、ひとつひとつの文章の興趣も本書の醍醐味となっている。

 そうなると、帯にある「なんだかわからないけどめちゃめちゃおもしろい」との書店員さんの感想は、言い得て妙なのである。

 最後に「結末」について書いてあるくだりを紹介しておこう。

  最後に、落とすときのコツを伝授する。

  もちろん、うまく落ちるとは限らない。

  が、かまうことはない。

  必要なのは、落ちることではない。落とそうとしている努力を読者に見せることだ。

 努力はした。ということで、あしからず。

いつだって僕たちは途上にいる (人生2割がちょうどいい)
作者:岡 康道
出版社:講談社
発売日:2012-06-15
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作者:小田嶋隆
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