『弱いロボット』 だから僕が助けてあげる。

東 えりか2012年09月06日 印刷向け表示
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弱いロボット (シリーズ ケアをひらく)

弱いロボット (シリーズ ケアをひらく)

  • 作者: 岡田 美智男
  • 出版社: 医学書院; 1版
  • 発売日: 2012/8/24

この夏、東京新宿歌舞伎町に新名所となるロボットレストランが誕生した。行ってきた人の話によると、バブルのころに大流行したショーパブのようなものだが、本当にドでかいセクシー女性ロボットが登場し、ダンサーたちと絡むのだそうだ。一日3回ある公演は、ほぼ満席で、女性が見ても嫌悪感なく面白いとか。これはぜひ行ってみたい。

こちらのCMもこの夏登場したもの。いつも話題を振りまく金鳥。

よく出来てるなあ、と思う反面、ちょっと怖くはないだろうか。

こういう感情を「不気味の谷現象」と呼ぶのだそうだ。ロボットを人の形に似せていくと、徐々に好感を持ち共感度も高くなっていくのだが、あるところで突然嫌悪感や不気味さを感じるようになる。それを越えてより人間に近づけば、また好感度があがる、その谷間にこのCMはあるような気がする。もちろん計算済みなのだろうが。

『弱いロボット』はコミュニケーションの認知科学を専門とする著者が、なにげない日常の中にロボットを取り込む試みについて書かれている。人間にとってロボットは何かをしてくれるもの、役に立ってもらうもの、生活をよりよくするものという概念があるが、本書の中のロボットは、まさに「弱い」。ややもするとロボットというより玩具に近いかもしれない。しかし弱いからこそ人とのコミュニケーションに大きな役割を持つことだってあるのだ。

「弱いロボット」研究のきっかけは些細なことだった。東北出身で口下手な著者が、関東のNTT基礎研究所から関西の「けいはんな」学術研究都市にあるART(国際電気通信基礎技術研究所)へ異動になった時の話だ。生まれて初めての関西圏での生活で、会話の巧妙さに圧倒されることになった。なにげない雑談に加われない。そんな環境の中で「なにげない雑談って、そもそもどういうものなのだろう」という疑問が湧き上がってきた。

学生時代から音声科学を専門にし、コンピュータの発展とともに音声認識の研究をしていたが、当時「人工知能研究の冬の時代」で大きな壁にぶち当たっていた。そこで新しいテーマに選んだのが「なにげないおしゃべり」の研究だった。

関西人の会話は、関東から行くと非常に驚かされる。神戸っ子の夫は、普段東京で暮らしているときは、無口であまりしゃべるほうではない。しかし実家に帰って母とおしゃべりすると、同じ人間かと思うほど当意即妙なやりとりをしている。会話はキャッチボールとはよく言われることだが、自分の話の意味もそこそこ、相手の話の意味もそこそこ、相手に委ねてしまういい加減さが必要なのだと著者は分析する。

そんな雑談の雰囲気をコンピュータで表現できないか、と製作したのが「トーキング・アイ」という目玉の仮想生物(クリーチャ)だった。

大きなスクリーンの中に「目玉」たちがぽっかりと浮かんでいる。バネの上でゆっくりと上下左右に揺れながら、のんびりと交互にしゃべっている。

「あのなあ」「なんやなんや」「こんなん知っとる?」「そやなあ」……

そんな他愛もないやりとりが際限なく続く。

画像がないのが残念だが、目玉の向きや動きで会話ともいえない会話が延々と続く様子は、まさにおばちゃん同士の会話そのままだ。そんな時に出現したのが「アシモ」だった。よちよち歩く健気さに心を奪われた岡田先生は、二次元のクリーチャの実体化を図ることにした。最初は東急ハンズで買ってきたスプリングや麻袋にウェブカメラを付けただけの簡単なもの。それだけのものなのに、なんとなく表情や感情を読み取れるような感じがする。

そして出来上がったのが「む~」という一つ目小僧。ブルルンとした手触りの発泡ウレタンゴムを使い真ん中に大きな目玉。話しかけると答えてくれるが、言葉はピングー語。つまり乳幼児の言葉のように「む~、む、むむぅ」と反響的な模倣を返す。これによって、国際会議場でどんな言語で話しかけられても答えられる万能性を身に着けた。

日本マネキンディスプレイ協会コラムより拝借

人らしさはまったくない。しかし話しかけたら返事をしてくれる(ような気がする)。子供やペットが介在すると会話がはずむように、「む~」のようなロボットが介護や看護など役に立たないか。ロボットにしてもらうのではなく「してあげる」こと。ペースはいくらゆっくりでもつきあってくれる。なんだかわからないシロモノだけど、会話も行為も相手に委ねることで上下関係のない対等な立場になれるのだ。実際、認知症の老人や精神障害者にも有効であることが証明されている。

人間のアシストが必要な弱いロボット。そのひとつが「ゴミ箱ロボット」だ。豊橋子ども未来館の広場では、いくつかのカラフルなゴミ箱がよちよち歩く。ゴミを見つけても自分では入れられない。人が拾って入れてくれると軽く会釈する。子供たちが興味を示す。見えるのは会釈される満足感や弱いものをちょっといじめたくなる残酷性。相手の動きを受けて次の行動へ移っていく。関西での会話「ボケ」「ツッコミ」は子供のころからその訓練がなされているからなのだ。

http://www.youtube.com/watch?feature=endscreen&NR=1&v=2rFj3Fnl84k

いつも大変興味深い示唆を与えてくれる「シリーズ ケアをひらく」は、今回も意外なところから人間関係のアプローチ方法を教えてもらった。ロボットの可能性はまだまだ広がりそうだ。一度、ゴミ箱ロボットに会いに行ってみようか。

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