『大きく、しぶとく、考え抜く』 おいしくなりました。ぜひ召し上がってください。

田中 大輔2012年09月27日 印刷向け表示
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大きく、しぶとく、考え抜く。―原田泳幸の実践経営論
作者:原田 泳幸
出版社:日本経済新聞出版社
発売日:2012-09-26
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スタバ本にハズレなし、リッツ・カールトン本にハズレなし、というように、「〇〇にハズレなし」というのが自分の中では幾つかある。今日紹介する原田泳幸氏の書籍にもハズレなし。というのが自分の考えである。(ちなみにHONZの代表である成毛眞の著作にもハズレなしだと私は思っている)今回もその考えは間違っていなかった。

アップルの日本法人社長から日本マクドナルドの社長になり、「マックからマックへ」と話題を集めた原田泳幸氏。マクドナルドの社長に就任してから、既存店売上高を8年連続でプラスに導いた経営手腕には眼を見張るものがある。それまで7年連続で既存店売上がマイナスとなり、迷走していたマクドナルドをV字回復させた改革の内容は前著の『勝ち続ける経営』に詳しい。

『大きく、しぶとく、考え抜く』は前作を踏まえた上で、原田氏が現在のマクドナルドで感じている危機感や、マーケティングの手法、人材育成の考え方を語り、さらに原田氏の生い立ちから、アップル時代のこと、そしてともに働いたスティーブ・ジョブズについてなどをまとめたものである。

まずは前著『勝ち続ける経営』のことを紹介したい。このベースがあることで、より本著が生きてくるからだ。

原田氏が社長に就任してから最初にやったことは基本に立ち返るということである。「基本に立ち返れ、基本以外は何もするな」というコメントに象徴されるように、マクドナルドの創業者であるレイ・クロックが提唱していたQSC+Vを徹底させることに力を注いだ。

QSC+V

・QUALITY(クオリティ・最高のおいしさ、安全性)

・ SERVICE(サービス・心温まるおもてなし・クイックサービス)

・ CLEANLINESS(クレンリネス・快適な食事空間、清潔さ)

・ VALUE(バリュー・総合的な価値ある食事体験)

QSC+V。これはマクドナルドで働いたことのある人なら一度は聞いたことがある言葉だと思う。私も高校生のときに3年間(ちょうど売上が低迷しはじめた時期に)マクドナルドでアルバイトをしていたのだが、このQSC+Vという言葉はそのときも何度も聞かされたのでよく覚えている。

いまも小売業で働いているので、この考えは自分のベースとなっている。基本中の基本だが、これができていないところは意外と多い。逆に言えばこれができるだけで、周りから頭ひとつ抜け出せるのである。原田氏が社長になり、QSC+Vを徹底させただけで業績が上向いていったというのだから驚きだ。基礎の基礎というのは疎かにしてはいけないものなのだろう。

『勝ち続ける経営』の中には「原田泳幸のビジネス理念」というのが載っている。これがとても素晴らしいので、以下に引用する。私はこれに感銘を受けたので、すべてを手帳に書き写し、仕事のときに見返している。これだけのためにこの本を買っても損はないはずだ。

原田泳幸のビジネス理念

基本に立ち返る

強さをより伸ばす

リサーチで企画をするな

サイエンスとサイコロジー

リスクを取らないリスク、リスクを取る体力

ビジネスに終わりはない成功した時こそ危機

周りの変化に合わせるのではなく自ら変革を起こす

非常識を常識にできない理由はチャンスである

ビジネスはスピード決定する前に実行せよ

文化を浸透させるには3年必要繰り返し何度も伝える

解決のリーダーシップが執れない人材は要らない

職位ではなく職種

組織とは戦略をスピーディーに実行するためのもの

後継者の育成はマネジメントの使命である

売上の伴わないブランド戦略政策は無意味

世界のルールで戦え

日本の文化を知り世界の文化を知る

さて本題に入ろう。マクドナルドは8年連続で既存店売上はプラスになったものの、その勢いは鈍化している。そのことに対して原田氏は強い危機感を抱いているのだそうだ。社員たちは自ら考えるのではなく、リーダーに引っ張ってもらうという依存心が強いらしい。

そこで一番の懸念事項となっているのが人材の育成とのこと。マクドナルドはピープルビジネスだという原田氏は、若手・中堅社員向けの研修で自ら教鞭をとるなどして人材育成に力を注いでいる。また人材採用にも力を入れていて、2013年の春の採用ではなんと2012年の4倍を雇い入れるとのこと。

原田氏が必要だと思う人材は、経験がある人ではなくラーニングスキル(学習能力)がある人。これまでの経験をいかして働こうと思われるとむしろ迷惑だともいっている。これからの時代、人の力が商売をする上でより重要になってくることは間違いない。ここを認識していない企業はこれからどんどん淘汰されていくのではないだろうか。

マーケティングの話もおもしろい。原田氏がマーケティングでこだわることは「ベストを尽くす」、「一流を目指す」、「妥協はしない」の3原則。マーケティングに理論はあるが、そのとおりに動くことはまずない。だから、いかにお客様にびっくりしてもらえるか?ということに情熱を注いでいるそうだ。

消費者の望むことと購買行動は違う。これを履き違えて失敗した例がサラダやピタといったもの。真逆の路線をとったメガマックやクォーターパウンダーといったものが大ヒットしたというのも興味深い。ただ個人的にサラダはわりと好きだったんだけどな…。

商売人としての考え方も勉強になった。マクドナルドはデフレのさなか、何度も値上げを実施している。その際、お客様から「なんで値段が上がったの?」とよくクルー(マクドナルドではスタッフのことをクルーと呼ぶ)は聞かれたそうだ。そのときになんて答えているのかを原田氏が確認したところ「○○を原材料にして△△して、□□のように形を変えました」と答えていたという。

商売人としてはこの答えでは失格である。売り手側の論理など誰も求めていないからだ。原田氏がいうには「おいしくなりました。ぜひ召し上がってください。」これが正解。でも、これをできない人ってけっこう多いんじゃないだろうか。つい論理的に説明してしまいがちだ。論理で物事は動かない。ビジネス書をたくさん読んで頭でっかちになるのも考えものだ。

「事件は会議室で起きているのではない、現場で起きているんだ。」とアメリカ軍払い下げのコートをスーツの上から着ていた男が叫んでいた映画があったが、仕事や商売も同じだと思う。経営者や管理職の人たちがデータや机上の空論を元に、物事を決めるとろくなことにならない。現場、現実をみて経営することがいかに重要なのかということをこの本を読んで感じてほしい。こんな考え方の経営者が増えたらきっと日本は良くなると思うのだけどなぁ…。

勝ち続ける経営 日本マクドナルド原田泳幸の経営改革論
作者:原田泳幸
出版社:朝日新聞出版
発売日:2011-12-07
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  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂

本文で詳しく紹介した『勝ち続ける経営』。本著と併読がおすすめ。

先日、超速レビューで紹介したマクドナルドの創業者レイ・クロック自伝を要約した本。

マクドナルドの基本QSC+Vはこの本にも出てくる。

現実を視よ
作者:柳井 正
出版社:PHP研究所
発売日:2012-09-21
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紹介した本の巻末に対談が載っているユニクロの柳井正氏の最新刊。

原田氏と柳井氏はわりと考え方が近いような気がする。

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