現場の研究者が語る 『ヒッグス粒子の見つけ方』

高村 和久2013年01月09日 印刷向け表示
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ヒッグス粒子の見つけ方 質量の起源を追う
作者:山崎 祐司
出版社:丸善出版
発売日:2012-12-28
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ヒッグス粒子は、『サイエンス』誌のブレークスルー・オブ・ザ・イヤーに選ばれる等、昨年大いに話題となった、質量の起源となる素粒子だ。

“ 普段は質量なんてあってもなくてもどうでもいいし、お腹周りの肉を減らして体重を減らしたいくらいにしか、質量について思いをはせたことはないのではないでしょうか。ところが、その質量というのは宇宙が今の姿となるためになくてはならないものなのです。”

ロマンだ。「宇宙が今の姿になるために、なくてはならない。」素敵に言えるだろうか。サイエンティストは、ロマンティストである。

ヒッグス粒子は、現在の素粒子論の「標準模型」において唯一発見されていない素粒子であったが、遂に昨年7月、それと思われる新粒子が観測された。ヒッグス博士が理論を発表したのが1964年、探索は30年以上続けられてきたという。まさに、「遂に」発見されたというのがふさわしい。CERN(欧州合同原子核研究機構)での発表は、世界にインターネット中継された。かくいう私も、いそいそと見た。全くわからなかった。まさに、「全く」わからなかった。あんなにわからなかったのは初めて海外に行った時の通関以来である。あの時は、通関のおじさんに「もう一度お願いします」と聞き返したらジョークだった。でも、今回は、歴史的瞬間をライブで見ることができてうれしかったのだ。

本書は、このCERNの実験に参画した3人の教授がヒッグス粒子について解説した本だ。それだけでも十分本書をお勧めする理由になるが、更にそれに加え、その先生が、かねてからサイエンスカフェや高校生・大学生への講演、座談会等を頻繁に行っており、その活動を心底楽しんでいる人だという。

“ 本書は、数式はほとんど使っていませんが、現代の素粒子物理学の基礎と素粒子が質量を獲得する仕組みのほとんどを解説したつもりです。”
“ 著者たちの現在の理解を盛り込んだ、現時点での集大成のつもりです。”

本書は、縦書きで、数式が全くないが、わかりやすく、内容はかなり詳細だ。あの全くわからなかったネット中継で見た図も登場して、その意味が解説されている。ヒッグス粒子が質量を生みだす仕組みは、「でこぼこ道」の喩えを用いて説明されている。何もない真空の空間であっても「でこぼこ」だというのは、不思議だ。

ヒッグス粒子は、どのように「宇宙」と関わっているのだろうか。137億年前の始まりの頃、宇宙は猛烈に熱く、素粒子が単独で飛び交っていた。そこから宇宙が膨張して冷却されて素粒子から原子が構成されていく過程で、ヒッグス粒子が関連する。粒子に質量がなければ原子を構成できない。素粒子について調べることは、初期の宇宙の状態について調べることになる。宇宙と素粒子は、尻尾をくわえた「ウロボロスの蛇」のように互いに関連しているのだ。

そのような「宇宙の初期状態」を作り出して実験しているのが、CERNのLHC(大型ハドロン衝突型加速器)である。構想20年以上の大プロジェクトだ。スイスとフランスにまたがって作られており、1周が27kmある。地下100mに建設され、超電導磁石が液体ヘリウムでマイナス271.25℃(1.9K)に冷やされている。

この加速器で、陽子を最大で光の速さの99.9999991%まで加速し、正面衝突させる。陽子ビームは「バンチ」とよばれるカタマリで流れているが、その1発あたりのエネルギーは、短い編成の新幹線に匹敵する。1粒に換算するとショウジョウバエの運動エネルギー程度になるらしい。陽子の大きさが1cmの10兆分の1であることを考えると、やはりとんでもないエネルギーだ。

衝突するといろいろな粒子が生成されるが、ヒッグス粒子が生成される確率は非常に低く、1秒間に4000万回の衝突頻度を繰り返しても、100秒に1回観測できるかどうかだ。このレアな現象を、何重にも設置された様々な観測装置で待ち受ける。この実験結果から、最終的に0.0000001%のエラー率で新種の素粒子が発見された。このあたりの確率の話も興味深い。

ヒッグス粒子が(おそらく)発見されたことにより「標準模型」が完成したと言える状況になったが、一方で、これを踏まえ、新たに検討すべき課題も多い。ヒッグス粒子には「ファインチューニング問題」が残っており、これを解決できる「超対称性事象」の探索がLHCで行われている。超対称性粒子の中には、宇宙のダークマタ―の性質に一致するものがあるそうだ。また、私たちが住むこの宇宙が3次元空間ではなく、別の余剰次元があるとする理論も検討されている。

今回のLHCのプロジェクトでは、多くの日本の研究者と企業が活躍した。現在LHCに続く大型国際プロジェクトとして、全長30kmの直線型の加速器ILC(国際リニアコライダ―)が計画されており、有力な候補地として日本が挙げられているそうだ。素人ながら、是非来てもらいたいものです。日本に、もっとロマンを。


ヒッグス粒子を追え
作者:フランク・クローズ
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2012-12-14
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素粒子論の歴史がドラマチックに語られています。もちろんファインマンさんも登場します。LHC、ヒッグス粒子の名付けの経緯も書かれています。

ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く
作者:リサ・ランドール
出版社:NHK出版
発売日:2007-06-28
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この宇宙は5次元だという理論が説明されています。「LHCには、非常に興味深い新しい粒子を生みだせるだけの充分なエネルギーがある。その粒子は超対称性粒子かもしれないし、4次元モデルが予言する別の粒子かもしれない」

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