中国から見える日本 『貝と羊の中国人』

村上 浩2010年06月17日 印刷向け表示
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採点:★★★★☆

中国を「大ぐくり」で知りたい人におススメ。トリビアも山盛りでつい人に話したくなる

中国を「貝の文化」と「羊の文化」の2つの面から大きく論じている。随所で日本との中国と日本の比較がなされており、日本についての新たな一面も見えてくる。

トリビアもたくさん。有形の財物に関わる漢字(例えば、財、賭、賞、貢)に「貝」が含まれているのは、存在が認められているもので最古の王朝である殷の名残である(殷では貝を貨幣として使用していた)。また、無形の善行や儀礼に関わる漢字(例えば、義、美、善)に「羊」が含まれるのは、殷を倒した遊牧民と縁の深い周の名残である。へぇーー

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加藤 徹

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様々な側面から中国と日本を対比させることで、中国の特性を分かりやすく解説している。例えば、「流浪のノウハウ」では中国の方が1枚も2枚も上手である。華僑と呼ばれる中国系の人々が文字通り世界中で活躍していることからも明らか。そもそも中国語には「泊る」と「住む」の差がないらしく、移動することが生きることと強く結びついているらしい。この差を著者は、国土の広大さとそれに由来する流浪の経験で説明する。

日本史には、流民はあまり出てこない。狭い島国である日本では、仮に流民が発生しても、せいぜい数百人単位で、平家の落人部落の規模だった。

(中略)

中国は違った。広大な大陸で起きる農民反乱(現代中国語では「農民起義」と言う)は、持続期間は数年、参加人員は数百万、移動距離は数百キロから数千キロに及ぶのが常だった。

殷王朝の滅亡による「商人」の全土への拡散から始まり、蒋介石の国民党軍200万人の台湾への移住まで、数百~数千万単位の人口の大移動が起きているのだ。うーんスケールが違う。知り合いの中国人(と言っても香港人)の兄弟は1番上がイギリス、2番目がアメリカ、3番目が日本とそれぞれ異なる国へ留学している。親がリスクヘッジのためにそれぞれ異なる文化圏へ送り込んだらしい。こうしていれば、どこかで大きな問題が起こっても好調な国の人間が家族を呼び寄せられるからだ。第2次大戦で酷い目にあったとはいえ、平和に慣れている日本人にはこんな発想は無い。

中国史の英雄達が人気なのも、戦国時代が非常に短い期間で終わった日本と比べ、常に易姓革命をやっているので様々な英雄が生まれる機会があったことが大きな要因らしい。

学生時代には小林よしのりにはまっていたので、支那が中国に対する蔑称ではないことは知っていた。欧米人に「チャイニーズ」と言われても怒らないのに日本人に「支那」と言われると怒るのは、日本に対する嫌悪感の現れであると考えていたが、大きな間違いであることが分かった。著者の説明は非常に分かり易い。中国側から「君たちの国は欧米からジャパン・ジパングと呼ばれているので、今後は「日本=太陽の本」等と言う尊大な呼び方はせずに、我々も君たちをジパングと呼ぶことにするよ」と言われて、「ハイそうですか」と言える日本人はいないだろう。日本(の一部)の人間はこれをやろうとしているのだ。

ただし、「中国」という呼称が様々な要因(特に政治的な要因)を含んでいることは明らかなので、上海や香港の人々は自分たちを「中国人」とは呼ばない。

抗日運動にしても、その行動の表面だけを見ていては中国の本質を見誤ると著者は警告する。なぜなら、彼の国には「言論後の自由」がないのだから。この本は2006年に出されているが、2008年のチベット問題や直近のGoogleの撤退騒動を見る限り、この状況は全く変わっていないだろう。

その他にも中国王朝を支配してきた士大夫階級の話など、ちょうど良い大ぐくり感で様々な現象を解説しているので非常に分かり易い。この本を読んだ後なら、もっと蒼天航路や横光三国志を楽しめるかもしれない。

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