飲みに行きたくなる3冊

村上 浩2011年11月02日 印刷向け表示
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ALWAYS 三丁目の夕日』がヒットしたのは2005年。続編となる『ALWAYS 続・三丁目の夕日』も大きな話題を呼び、来年の正月には『ALWAYS 三丁目の夕日'64』が公開される。日本人はいつまでも右肩上がりのあの時代が好きなのだろう。本日はそんな昭和を実際に体験しなかった世代でも昭和の匂いが感じ取れ、ついつい浴びるようにお酒を飲みたくなる3冊をご紹介。

3冊に登場する主人公はみんな右肩上がりの時代にうまく乗ることができず、いろいろともがき続けるのだが、なんだかとても楽しそう。お金はないが、朝まで語りつくす仲間がいる。時流に乗るなんていう器用なことはできないが、目の前のやるべきことには全力で取り組む(たまにはあっさり投げ出すけど)。何より彼らは実にうまそうに酒を飲む。車、テレビ、新聞に加えて若者のお酒離れが話題になっているが、この3冊を読めば最近の若者も朝までフィーバー間違いなしだ。

東宝見聞録―1960年代の映画撮影現場
作者:磯野 理
出版社:アスペクト
発売日:2011-10-20
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一冊目は冒頭で紹介した『ALWAYS 三丁目の夕日』の配給元でもある東宝で、人生を映画に捧げた男の物語。書名の駄洒落もいい感じに昭和テイストだ。1939年生まれの著者は、貧しい暮らしの中でも映画があれば幸せだった。授業中も貸し本屋で借りてきた映画雑誌を読みふけり、ターザンを見ればアメリカ映画にのめり込み、石原裕次郎の映画を見ればアロハシャツとサングラスで街を練り歩くという、いささか危ない感じもするほどの映画狂である。

高校生にして映画業界で生きていくことを決意した著者ではあるが、助監督、さらには監督になるためには大卒の資格が必要だった。映画ばかり見て勉強していないのだから当然一流大学への入学は夢のまた夢。唯一の望みは日本大学芸術学部映画学科への入学だが28倍という競争率なので正攻法では通用しない。しかし、この程度で諦められるほど著者の映画への思いは弱くない。附属の日大二高から落ちこぼれ学生が縁故入学している情報を掴むと迷わず編入してしまい、見事大学進学を果たす。

ところが、これで一安心とはいかず、今度は夢の映画業界そのものの先行きがあやしくなる。テレビに押されて入場者数が減少し続ける中で、著者の卒業年度には憧れの東宝で新卒採用が行われなくなる予定なのだ。とはいえ、またもやこの程度で諦めるはずもない。学生の身ながらなんとかフルタイムのアルバイトとして東宝の職場に潜り込み、自らの居場所を獲得していく。映画業界でのバイトは激務であり、今度は大学の単位取得が危なくなるのだが、あの手この手で教授に喰らいつく。この辺りの粘り強さと戦略性は就活中の学生にも参考になること間違いなし。そのまんま真似しちゃだめだけど。

それにしても、なんとか滑り込んだ映画業界の人間が本当によく酒を飲む。何しろ著者が最初に師事することとなったチーフのあだ名が“豪升さん”だ。あだ名の由来は想像通り。何升でもお酒を飲むからである。この豪升さんを筆頭に著者らは毎晩飲み歩く。次の日が朝早いなんて関係ない。ワークライフバランスなんて関係ない。たまりにたまったツケだって関係ないのだ。いつもは安い酒を、たまには美味い洋酒を、浴びるように飲みながら映画談義に明け暮れる。衰退していく映画産業の中で、それでも映画を愛した男たちがカッコいい。勢いを失ってしまったように見える現在のテレビ業界に、これ程テレビを愛している人間はどれくらい残っているだろうか。

昭和が終わる頃、僕たちはライターになった
作者:北尾 トロ
出版社:ポット出版
発売日:2011-04-14
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こちらはもう少し時代が進んで、昭和が終る頃バブル真っ盛りの1983年~1988年の物語である。『東宝見聞録』の著者とは異なり、この本の主人公たち2人にはやりたいことなんて何もない。やりたくないことなら山ほどあるし、何事も長続きしないのだが、あれよあれよと出版業界に転がり込むこととなる。

半年ほど前にレビューを書いたこの本だが、読み返してみるとあまりお酒を飲んでいるシーンが出てこない。何だかお酒を飲んで騒いでいるシーンが沢山あったような気がしたのだが。酒飲みシーンが少ないからと言ってこの本が「飲みに行きたくなる3冊」に相応しくないかというと、そんなことはない。オイルヌリヌリマンとなって海を駆け回り、AV助監督の仕事をガムシャラに、楽しそうにこなしていたこの2人は飲めばきっと立派な「昭和の酔っ払い」と化していたはずだ。毎度毎度の2人のダメな感じがなんだか放っておけなくて、朝まで一緒にバカ話をしながら飲みたくなる。

キッドのもと
作者:浅草キッド
出版社:学習研究社
発売日:2010-09-08
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最後は、岡山生まれの水道橋博士と新宿歌舞伎町育ちの玉袋筋太郎がビートたけしに憧れ、浅草キッドとなり、一人前の芸人となるまでの過程を描いたこの一冊。浅草キッドで酒飲みといえば玉ちゃんだ。そのスナック好きは有名だが、ビートたけしの追っかけをしていた高校生時代から、たけし軍団と一緒に酒を飲んでいたのだからその飲みっぷりは筋金入り。お酒に限らず、たけし軍団の無茶苦茶な掟に翻弄されながらも笑いを追及する2人の姿はまさに青春。

この2人もバブルの真只中の1986年に「フランス留学」をしていたため、その恩恵には全くあずかれていない。ここでいう「フランス留学」というのは、浅草のストリップ劇場フランス座での丁稚修行のことだ。時給60円で連日16時間労働をこなすその姿は、我々の世代がテレビで見ていたバブルとは全く異なる。大の大人たちが素っ裸で水を掛け合いながら、フランス座の屋上から隅田川の花火大会を見つめるシーンは、なぜだか感動的。

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ハングオーバー! [DVD]
監督:トッド・フィリップス
出版社:ワーナー・ホーム・ビデオ
発売日:2011-04-21
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お酒の映画といえばこれしかない。既に自分の結婚式は済ませてしまったので、誰かの結婚式でこんな風に騒ぎたい。

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