『愛国・革命・民主:日本史から世界を考える 』 by 出口 治明

2013年9月19日 印刷向け表示
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愛国・革命・民主:日本史から世界を考える (筑摩選書)

作者:三谷 博
出版社:筑摩書房
発売日:2013-08-10
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「花には香り、本には毒を」という言葉が好きだ。ベンチャー企業を経営するようになって忙しくなり、めっきり読書量が落ちたが、それでも平均すると週に4~5冊は読んでいるのではないか。本と旅しか趣味がないからではあるが。このコラムは、その中で、体内に毒がまわったものを選んで書き連ねているのだが(毒気を感じるのは、4~5冊に1冊くらい)、このところ、嬉しいことに、毒気にあてられることが多い。

大仰なタイトルではある。しかし、書かれていることはとても真摯で、知的で、好奇心がものすごく刺激される。著者は、明治維新の専門家であるが、日本の「特殊」性に閉じこもるのではなく、明治維新を核としたわが国の近世・近代の経験を素材として、世界に通ずる「普遍」的な教訓を引き出そうと試みる。その言やよしである。考えてみれば、「特殊」とは、そもそも世界とのコミュニケーションを閉ざす言辞であるのだから。

景況感の改善、ねじれ国会の解消(政治の安定)、加えて2020年東京オリンピックと、このところ明るいニュースが多い。気がかりなのは、お隣の韓国や中国との関係が、なかなか改善する気配が見えないことだ。本書は、愛国の講義で、まず東アジア三国の歴史的なナショナリズム形成の三局面を論じた上で、歴史記憶の相互作用として「忘れ得ぬ他者」という概念を持ち出す。これが、またすこぶる切れ味が鋭いのだ。ナショナリズムという厄介な代物(?)を上手に飼いならすために、この概念を活用することは、近隣諸国との関係を建設的に構築していく上で、かなり有効ではないか。

革命の講義では、変化理解の方法として、因果関係と複雑系が取り上げられる。とりわけ秩序の生成と崩壊についてカオス結合系時系列を援用している部分が興味深かった。皆さんも、下図を見て、考えてみてください。

(本書p198 図3「カオス結合系時系列」(伊庭・福原『複雑系入門』)

同様に、天皇はなぜ残ったのか、の説明で使われた、経路依存性(下図)の概念も、強く印象に残った。

(本書p173 図8「経路依存性」)

詳しくは、ぜひ本書を紐解いてください。

本書は、「日本史から世界を考える」ために書かれた本である。しかし、読了して思ったことは、「日本史から普遍的なビジネスの教訓を考える」ベストの1冊ではないか、ということであった。凡百の幕末を舞台にした小説を読むより、何倍もビジネスに役立つこと、請け合いである。深く物事を掘り下げ、本質に肉薄して考えることは、何と楽しい営為であることか、を改めて痛感した次第である。

出口 治明

ライフネット生命保険 代表取締役会長。詳しくはこちら

*なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。

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作者:成毛 眞
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