『2050年 世界人口大減少』と『人口で語る世界史』2050年以降の世界人口は減少に転じるのか?

堀内 勉2020年03月06日 印刷向け表示
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2050年 世界人口大減少
作者:ダリル・ブリッカー ,ジョン・イビットソン
出版社:文藝春秋
発売日:2020-02-24
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人口で語る世界史
作者:モーランド,ポール
出版社:文藝春秋
発売日:2019-08-29
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経営学者で未来学者のピーター・ドラッカーは、1985年の著書『イノベーションと起業家精神』の中で、未来予測における人口動態(demography)の有用性について、「人口、年齢、雇用、教育、所得など人口構造にかかわる変化ほど明白なものはない。見誤りようがない。予測が容易である。リードタイムまで明らかである」と語っている。

昨年6月に発表された国連報告書『世界人口推計2019年版』によると、世界人口は現在の77億人から2050年には97億人へと、今後30年で20億人増加し、今世紀末頃に110億人でピークに達すると見られる。

その内訳を見ると、予測される人口増加の過半は、インド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ、エチオピア、タンザニア、インドネシア、エジプト、米国の9カ国で生じ、特にサハラ以南のアフリカの人口が倍増し、絶対数ではインドが2027年頃に中国を抜いて、世界で最も人口が多い国になるという。

また、平均寿命の延びと少子化により、世界人口の高齢化が進んでいること、人口が減少している国の数が増えていることも確認されており、この結果生じる世界人口の規模、構成、分布の変化は、国連が2015年に採択したSDGs(持続可能な開発目標)の達成に大きな影響を与えるとしている。

古典派経済学者のマルサスは、1798年に出版した『人口論』の中で、「幾何級数的に増加する人口と算術級数的に増加する食糧の差により人口過剰、すなわち貧困が発生する。これは必然であり、社会制度の改良では回避され得ない」という帰結(「マルサスの罠」)を導き、人口抑制の必要性を説いた。その真偽はともかくとして、事実として世界の人口は、過去200年爆発的に増えてきた。

原著が昨年1月に出版された、人口学者のポール・モーランドの『人口で語る世界史』(原題:The Human Tide: How Population Shaped the Modern World)は、18世紀に英国で農業・産業革命が起こるまでは10億人に満たなかった世界人口が、今や70億人を超えるまでに至った過去200年の「人口の大変革期」の動きを詳細に分析している。

その上で、人口の増減要因を構成する、①乳児死亡率、②出生率、③移民、の三つの視点から、これからの世界を、①増加するグレー、②増加するグリーン、③減っていくホワイトとして記述している。

グレーは高齢化で、世界が急速に高齢化する中で、平和で活気がなく低リスクな社会、年金と介護が負担になる社会が来るとしている。グリーンは環境で、これからは環境に優しい世界が志向される、或いは志向すべきとしている。そして、ホワイトは白人で、19世紀初めから20世紀半ばにかけて爆発的に増加した白人の割合が、これからは劇的に減少していくと予測している。

この『人口で語る世界史』が過去の分析に重点を置いているのに対して、その1ヶ月後に出版された、ジャーナリストのジョン・イビットソンと統計分析の専門家ダリル・ブリッカーによる『2050年 世界人口大減少』(原題:Empty Planet: The Shock of Global Population Decline)は、世界の人口減少のタイミングが国連の予測よりもずっと早い2050年には到来するとした上で、人類史上初めて人口が減少に転じれば、その先は二度と増加することはないとしている。

その最大の原因は、国連が考慮に入れていない「女性の地位向上」と「都市化の進展」である。二人に言わせれば、ヒトの最も重要な生殖器官は脳であり、生殖についての考え方が変われば全てが変わってしまう。

特に、女性の教育水準が上がり、女性が社会で活躍するようになれば、必然的に晩婚化が進み、出生率は下がっていく。

また、農業社会では子供は「投資」だが、都市においては子供は「負債」であり、先進国や都市で子供を一人前に育てるための教育費用は莫大であるため、都市化が進めば、当然、子供の数は少なくなる。

日本でも出生率向上に向けて様々な政策が打たれているが、子育て支援策はほとんど効果がなく、人口減少の歯止めにはなっていない。

国連が推進しているSDGsが順調に達成され、アフリカを中心に世界から貧困がなくなっていけば、その結果として、当然、人口増加に歯止めがかかることになる。

そして、もし本当に二人が指摘するように、国連の予測ほどには人口は増えないということであれば、地球に対する負荷は小さくなり、温暖化や環境問題にとってもプラスの話である。

他方、人口が増えなければ、世界経済の持続的な成長をどう担保していくのか、特に先進国において少子高齢化が進む中で、社会制度をどう維持していくのかという問題が、大きな壁として立ちはだかることになる。

このように、世界人口がこの先どうなるのかについては様々な見方があるものの、日本に対しては、いずれもかなり悲観的である。

特に、『2050年 世界人口大減少』では、日本についての記述に多くのスペースが割かれており、日本がこのままの経済規模を維持していくためには、大量な移民を受け入れるしかないとしている。さもなくば小国化せざるを得ないのだが、恐らく日本は移民の受け入れを拒否して、淡々と小国化へと向かうことになるだろうというのが二人の見方である。

足元の日本の実態をよく見ると、正規の移民は限りなくゼロに近い中で、帰国を前提とした技能実習生や留学生などの「擬似移民」が大幅に増えている。

2019年10月末時点の外国人労働者数は、企業に届け出を義務化した2007年以降、過去最高を更新し、前年同期比14%増の166万人となった。同様に、2019年6月末現在における在留外国人数も283万人と、前年末比4%増加して過去最高を記録している。

日本の将来は、このように移民政策が大きな分かれ目となるのだが、ここで重要なのは、それも「移民に日本を選んでもらえるのであれば」という条件付きの話だということである。OECD(経済協力開発機構)の統計によれば、時間当たりの日本人の賃金は過去21年間で8%減り、先進国中で唯一マイナスになっている。また、2018年時点での日本人の時間当たりの賃金は1997年比で8%減少しているのに対して、英国は92%増、米国は81%増など軒並み増加している。

同様に、近年、日本とアジア各国の賃金格差も急速に縮んでおり、この状況が続けば、日本の外国人労働者の受け入れに大きな障害になる。

日本人はばく然と、外国人労働者は呼べば来ると考えているかも知れないが、日本が経済小国化して、日本にやってくる経済的インセンティブがなくなれば、移民は来てくれない。むしろ世界的に見ると、これからの移民は貴重な労働力として奪い合いになるはずである。

ドラッカーが言うように、もう何十年も前から分かっていたにも関わらず、日本が人口減少問題に手をつけないできた付けは、とてつもなく大きいのである。

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