『縄文人になる!』こんなことできちゃうよ

足立 真穂2014年02月23日 印刷向け表示
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縄文人になる!  縄文式生活技術教本 (ヤマケイ文庫)
作者:関根秀樹
出版社:山と渓谷社
発売日:2014-02-22
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このタイトルとカバーの写真……縄文人に「なる」といきなり言われても、いったい? 緊張感があるような、まったくないような、私もよくわからない。のだけれど、淡々と縄文人のライフ・スキルを紹介するこの一冊、まったくもって本気なのである。

サブタイトルに「縄文式生活技術教本」とあるが、章ごとに「火」「石」「角」「土」「木」「衣」「食」「住」と分けられており、それぞれに実践のための細かい技術が書き込まれている。実践と言われても困るかもしれない。すべてを紹介したいところだが、字数に限りもあるので、「火」の章の内容、「原始の火を起こす」を少し紹介してみよう。

なにはともあれ、先ずは火がなくては、始まらない。食べることも、暖を取ることも、火によって大きく変わったのだ。

古代発火技術研究の第一人者、和光大学の岩城正夫名誉教授によると、縄文時代は、木と木を摩擦させての「回転摩擦式発火法」で火を起こしていたそうだ。縄文より以前の石器時代に発達してきた、木や骨、石などに穴を開ける穿孔技術によって可能になったそうだ。具体的にいうと、石器で削った木の槍の先端を鋭くするため、木の根などに擦り付けて磨いたそうで、その際にこの先端が摩擦熱で煙をあげるようになった。それがこの発火法につながったというのだ。現代を生きる私たちが聞くと当たり前のように思うかもしれないが、「火」の存在が当たり前ではなかった時代を考えると画期的なことだ。ついでに言うと、古代発火技術の研究の存在そのものも、味わい深い。 

中でも、日本列島では、板に棒を押し付けて両手のひらで回転させる「キリモミ式発火法」が主流だったそうだ。こんなことできちゃう、この実践編こそ、この本の真骨頂。材料と道具の説明はこうだ。
 

1:厚さ一センチ、幅三センチくらいの軟らかいスギ板(火きり板)。

2:直径一センチ前後、長さ四五~六〇センチのウツギやキブシの枝(火きり棒)。どちらも山の道端でよく見かけ、庭木や公園にも植えられている木だ(手に入らなければシノ竹の棒でもいい)。枯れ枝ではなく生木を切り採る。数週間乾燥し、曲がりの大きいものは炭火やガス、電熱器などであぶりながらまっすぐにする。

3:火種を炎にするゼンマイ綿(山菜のゼンマイについている茶色っぽい綿)と麻紐。ゼンマイ綿が手に入らなければ脱脂綿でもいい。

4:工作用ナイフ、ノコギリ(石器ナイフでも、もちろんOK)。

これに続いて、番号を振りつつ「板の側面にノコギリを斜めに入れ……」と道具を作り、火を起こす手順が懇切丁寧に、鮮やかにまとめられていく。火を起こした後も肝要で、その火種をうまく育てないとすぐに消えてしまうのだが、この火種の育て方ももちろん続く。ゼンマイ綿やタンポポの綿毛などで火口(ほくち・火きり板の上の火が起きた箇所)上の火種を包み、そっと包み込んで息を吹きかけながら手で持ち上げ、ぐるぐると風を入れながら振り回す。すると、縄文の炎がぼわっと上がる。

なにを隠そう、トウトツではあるが、実は「火起こし」なるものに感銘を受けて、この著者である関根さんの火を起こすワークショップに私自身参加したことがある。実際に火を起こすのは結構大変で、木の種類や摩擦を起こさせる状況が整わないとなかなか煙は上がってこない。だから、この炎が燃え上がる瞬間にはわあっと歓声が上がったのをよく覚えている。手に持つ火種の暖かさ(まったく熱くはない)も実感でき、感動的なものだった。

話がそれたが、この発火法の説明はこれでは終わらない。現在の北海道の一部地域では、サハリンやシベリア沿海州との交流もあり、「弓ギリ式発火法」なる効率のよい方法もあったそうだ。火おこし棒を弓状の紐で素早く回転させるのだ。これを発展させた、長めの紐で火おこし棒を回転させる方法なら、小さい子供でも楽に火を起こせるというからますます面白い。

ちなみに、世界には木と木の摩擦での発火技術が七種類ほど残っているとか。

発火法の種類! 

で、火をどのように灯りとしたか、についても縄文人になるべく書かれていくのだが、あとは本書を読んでいただくとしよう。

これが「石」の章では、石のナイフや弓矢、石斧の作り方が、原石を探すところからそれぞれ威力を試す方法指南まで触れられている。「角」の章では釣り針まで(!)。「木」の章ではまさかの丸木舟作り。縄文の衣類はもちろん、糸をつくるところからです。もうどうしましょう。

それぞれの顛末が実際のものづくり現場の写真と該当の道具のイラスト満載で伝授されるのである。イタコが使ったという呪術的音具「あずさ弓」なる縄文琴の作り方にはシビれた。道具や技術の知識のみならず、民俗学的な研究も背景にはあるのだろう。

そう。読み終える頃には、あなたも竪穴式住居で、縄文土器に囲まれていることになる(きっと)。

そもそもタイトルでは縄文人に「なる!」とおとなしいのだが、ページを開いた途端、序文の段階ですでに縄文人に「なろう!」とヒートアップ。縄文ライフを日々これだけ極めている奇特な人がいることに心が豊かになる。というか、こういう日本人がいることこそが頼もしい。本書は、2002年刊行の単行本を文庫化したものだが、私自身は、ものづくりの原点を研究する熱意、果てには愛さえ感じられ、紹介したくなった。

火起こしなどの子供向けワークショップは大人気で大盛り上がりとのことだ。あとがきで関根さんも書かれているが、子供だけに楽しませるのはもったいない。そして、なによりも本来の身体の力を取り戻していけるようで、読み終えた私は今、とても気持ちがいい。同時に、きらきらと目を輝かせて火起こしを教える関根さんの表情を思い出している。 

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