【連載】『家めしこそ、最高のごちそうである。』
 第4回:外食ブームの陰で家庭料理は

佐々木 俊尚2014年02月23日 印刷向け表示
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稀代のジャーナリストが語る、家庭料理の極意。「家めし」の美味しさを追求していったら、答えはシンプルなものへと辿り着いた。第4回は、家庭料理の今。バブルによって外食が進化した後、意外な場所で伝統的な家庭料理が復活していた。

バブルが盛り上げたのは外食の美食でした。イタリアンやフレンチ、そして和食でも美味しいお店がたくさん開店し、伝統的な日本酒も復活してきました。でもそれらはすべて外食だったんですね。景気の良いときは外食が流行り、景気が悪くなると家めしが復活すると言われますが、バブルはまさに外食文化の華ひらいた時代だったのです。

『家めしこそ、最高のごちそうである』(マガジンハウス)は2月27日発売


もちろん、家庭料理でも普通に本格的なパスタやエスニック料理などがつくられるようにはなりました。しかしそれ以上に半調理品や冷凍食品、コンビニ食やスーパーのお総菜がすごいいきおいで進化して、そういうようなものに家庭料理は呑み込まれていってしまったんですね。

専業主婦と子供二人、みたいな家庭が少なくなってきて、たいていの夫婦は共働きになり、単身家庭が増えたことも、家庭料理があまりつくられなくなった要因かもしれません。

そういう二極化が、この20年ずっと続いてきています。

コンビニ食は本当にどこにでも普及しています。わたしはしばらく前、幼児がひとりいる30歳の既婚女性と話をしていて、驚いたことがありました。友だち一家と一緒に一泊二日で温泉旅行に行ったという話なのですが―。

「素泊まりの旅館なので、晩ごはんはそれぞれ持参しましょうということになったの。そしたらその友だち一家は、何と菓子パン! せっかくの旅行なのに! みんなで菓子パンのつつみを開けて甘いパン食べてるんだよ! 本当びっくりした!」
「君たち一家はちゃんとお弁当を持っていったんだね」
「もちろん! コンビニ弁当だけどね」
「ええっ……」

旅行先の食事までコンビニ弁当が普通になってしまっているんですね。家庭料理が崩壊して久しい、という話はよく聞きますが、実際こういう食生活の家庭が増えているということなのでしょう。

しかしそうやって半調理品や冷凍食品、コンビニ弁当になってしまっていた家庭料理が、実は2010年ぐらいから逆転しはじめているんですよ。日本の中で、伝統的な家庭料理が復活してきているんです。

わが家のスパゲティは生トマトで。トマトとピーマンが重なると、それだけでナポリタンの味になるのが不思議。


上流家庭やお金持ちの家で?

いえいえ、違います。なんとその復活の狼煙を上げたのは、「ヤンママ」「ギャルママ」たちなんです。あのギャルみたいなかっこうをして子供を育てている、若いお母さんたちのことです。

彼女たちはだいたい20歳代前半ぐらいで、なかには10代で子供を産んだ人もいます。子育てで忙しいために仕事に就くのは難しく、同じように若い夫の収入に頼って生活をしていることが多い。つまりはお金に余裕はないということなんですね。

その分、時間はあります。地方に住んでいて、夫も職住接近で、自宅近くの工場に勤務していたりする。最近は従業員に残業をあまりさせない会社も多いですから、へたすると午後5時半ぐらいには夫が自宅に帰ってきたりするんですよ。だから家族で食事をする時間がとれるんです。 

お金はないけど時間があって、家族みんなでごはんを食べられる―。

これって、家庭料理にはピッタリの要素です。思えば『ALWAYS三丁目の夕日』とかで描かれていたような昭和の日本のノスタルジーは、そういう「貧しいけれどみんなで力を合わせて」というような世界を描いていました。この「貧しいけれどみんなで」が2010年代という超未来のいま、経済大国で先進国でハイテクの日本で復活してきているというのは、なんとも興味深いことです。

アイラブママ』という月刊誌があります。『小悪魔ageha』というキャバクラ嬢向けの雑誌の別冊としてスタートしたギャルママ雑誌です。この雑誌の編集部の方がたに話をうかがったことがあります。

『アイラブママ』ではファッションとメイク、料理が三本の柱。その中でも料理ページは人気が高く、創刊以降どんどん増えていったそうです。人気なのは「なんちゃって」レシピ。たとえばちくわに海苔を重ねて照り焼きにして「なんちゃってウナギの蒲焼き」とか、高価な食材を使わないで豪華に見せるような、ひと工夫料理が受けるのだとか。遊びごころも満点で、たとえば指の形のクッキーを作って「キモカワイイ」って表現してみたり。

お金に余裕がないので、冷凍食品や半調理品とかは使いません。醤油や味噌、酢といった基礎調味料を使おうとするのも、ギャルママ料理の特徴です。

「普通の家庭の食事にかかる費用が平均月額6万円だとすれば、ギャルママたちは半分の3万円ぐらいです。でも子供たちのことを大切にしているので、たとえば洋服は自分で作って着せてあげるぐらい。お部屋のインテリアでも百円ショップで切り花のバラを買ってきたりとか、みんな工夫を楽しんでる。料理も安く上がるように工夫して、それを楽しんでるんですね。前に読者参加の企画で『一か月二万円で暮らそう』というのをやったら、自分でうどんを打ってみたり、砂糖で水飴を作ったりと、けっこう凄かったですよ。ちょうど時代の潮流が外食から家でごはんを食べるウチ食に変わってきている時に、それを体現してるのがギャルママかもしれません」(『アイラブママ』編集部)

彼女たちは見た目はとても派手ですが、だからこそ「生活をきちんとしていきたい。料理もできると言われたい」という望みがあるのだといいます。

ギャルママたちは地元に友だちが少なく、遠隔地に住んでいる同志たちが『アイラブママ』のような媒体を通じてつながり、リアルのミーティングも開いてさかんに交流しています。たいへん面白いのは、このギャルママイベントを味の素株式会社が協賛しているということ。

この件について、味の素加工食品部(当時)の駒瀬元洋さんに話をうかがったことがあります。

味の素は昭和の昔は、「味の素」や「ほんだし」「ハイミー」「コンソメ」「中華あじ」などの基礎調味料が中心でした。でもこういう基礎調味料はだんだんと日本では売れなくなり、その後、中華料理がすぐにつくれる「クックドゥ」のような半調理品、それから冷凍食品へとだんだん移ってきました。料理をゼロからつくるよりは、冷凍食品でお手軽にしちゃおうという方向に日本の家庭料理は変わってきて、味の素のビジネスもそういう流れに沿ってきたということなんですね。まあ味の素をはじめとする日本のすぐれた食品業界がそういう便利な食品をつぎつぎと出してくれたから、家庭料理がそれに呑み込まれていったという言い方もできるかもしれませんが。

日本の外食がバブルで進化していったいっぽうで、家庭料理は冷凍食品やスーパーの総菜が中心になり、日本では「ほんだし」「味の素」といった基礎調味料が売れなくなっていきます。そこで味の素は海外に出て行って、東南アジアなどで味の素を売りまくるようになりました。日本人旅行者がインドネシアに旅行に行ったら、地元の人はおかずに大量に味の素をふりかけて食べてて驚いた! というようなエピソードを聞くようになったのは、このころからです。

でもいま、東南アジアに出ていったはずの基礎調味料の市場が、ふたたび日本国内に戻ってきている。不況になってデフレになって、またふりだしに戻ってきているということなんでしょうね。  

佐々木俊尚  作家・ジャーナリスト。 1961年兵庫県生まれ。早稲田大政経学部政治学科中退。毎日新聞社などを経て、フリージャーナリストとしてIT、メディア分野を中心に執筆している。忙しい日々の活動のかたわら、自宅の食事はすべて自分でつくっている。妻はイラストレーター松尾たいこ。「レイヤー化する世界」(NHK出版新書)、「『当事者』の時代」(光文社新書)、「キュレーションの時代」(ちくま新書)など著書多数。

簡単、なのに美味い! 家めしこそ、最高のごちそうである。
作者:佐々木 俊尚
出版社:マガジンハウス
発売日:2014-02-27
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