【連載】『家めしこそ、最高のごちそうである。』
 第7回:まず最初に、食材から考えること

佐々木 俊尚2014年02月26日 印刷向け表示
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稀代のジャーナリストが語る、家庭料理の極意。「家めし」の美味しさを追求していったら、答えはシンプルなものへと辿り着いた。第7回からは、いよいよ実践編。献立の組み立て方の一部を紹介します。

「今夜の晩ごはんはどうしよう? なにつくるかな?」

夕方になってそう考えたとき、なにをまず最初に頭に浮かべますか?

たぶんけっこう多くの人が、「今日はハンバーグ!」「カレーかな」「夜はパスタにするか」 と、料理名を最初に頭に浮かべているのではないでしょうか。

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でもこれ、あまり良くない方法なんですよね。どうしてかといえば、頭で思いつく料理名のバリエーションなんてそんなに多くないから。

よくある夫婦の会話に、

「今日の晩ごはんはなに食べたい?」
「うーん……カレー?」
「またカレー? ほかに思いつく料理ないわけ?」 

なんてのがありますが、いきなり「思いつく料理を考えよ」と迫られても、よほど料理好きでもない限り、なかなか斬新な料理なんて思いつくものじゃありません。「なに食べたい?」と聞かれて、「うん、今夜はベーコンがごろりと入った、アンチョビ風味のトマトソースのパスタとかいいな」「じゃあ今日は豚ロースを塩麹で漬けておいたのを焼いてほしいな。それにトウモロコシご飯で」なんて答えられる人は、かなりの食通でしょうし、そんな人だったらそういうややこしい料理をつくってもらうことを伴侶に求めたりしませんよね。

おまけに料理を先に決めてしまうと、融通が利きません。買い物に行くときに、必要な食材を調べてメモっておかないといけないし、うっかり買い忘れてきたりすると計画があっという間に破綻しちゃいます。

そこで「日常の食事をもっと美味しく、かんたんに」というスタイルを進めたいこの連載としては、そういうやり方ではない献立の組み立て方を提案しようと思います。

いくつかのステップがあります。

①まず最初に、食材から考えるということ。 
②次に、味つけを選ぶこと。 
③最後に、調理法を決めること。

まず最初の、食材から考えるということ。それは「今日はカレーにしよう」じゃなく、「今日は大根を食べよう」からスタートしようということです。

わたしは仕事中、原稿を書いたり取材のため電車で移動したりしながら、いつもこんなふうに考えています。

「今日の晩めし、なにつくるかなあ。冷蔵庫にはなにがあったっけ。たしか小松菜と長芋、それから知り合いにもらった柿がまだ残ってた。小松菜は油揚げと煮浸しにするかな。長芋は片栗粉ふってソテーするか。柿はだいぶ熟しちゃってるけど、とろとろのにマスカルポーネチーズのっけると美味しいんだよな。よし、帰りにスーパー寄って油揚げとマスカルポーネ買って帰ろう。近所の安いスーパーだとチーズの品ぞろえ良くないから、恵比寿の三越デパートの地下食品売り場に寄ってくかな」

基本の献立はまず冷蔵庫にすでにある食材で決めて、足りないものはその日に買い足す。そうやって献立を考えていこうよ、ということなんですよ。

料理本などを読むと、「一週間分の献立を決めておこう」なんて書いてあったりします。専業主婦で毎日かならず食事を決まった時間につくれるのならできるでしょうけど、働いている人間にはこれはちょっと無理。だってそうじゃないですか。そもそも毎日晩ごはんの時間に帰ってこられるかどうか、直前にならないと分からないことも多い。かりにちゃんと帰ってこられたとしても、「今日の晩ごはんの予定は何にしたんだっけ?……ジャガイモのコロッケか! 絶対無理だよ。今日クタクタだよ~」 ということになりかねません。

献立の計画を細かく立てすぎるのではなくて、もっとゆるく「きょうはこんな食材があるのか。じゃあこれつくるか」ぐらいがちょうどいいと思います。「料理→食材」じゃなくて、「食材→料理」。この順番がいいのです。

ホウレンソウを冷水を張ったボウルに活けておくと、だんだんと葉がしゃっきりと立ち上がる


そして食材を前提にするといううえでもうひとつ大切なのは、野菜を基準にするということ。 

働いている人が、毎日買い物するのはたいへんですよね。でも野菜なら、毎日買う必要はありません。最近の冷蔵庫は性能がいいし、適温が保たれた野菜室に入れておけば、一週間ぐらいはかるく大丈夫です。その日につくる料理も、冷蔵庫に入っている野菜を中心に決めれば、あらかじめ考えやすい。

肉食をやめよう、菜食にしようと言ってるわけではないですよ。わたしもベジタリアンではありません。

そうではなく、そもそもわたしたちの食事には、肉が多すぎるのでは、ということなんです。 

子供のいるご家庭は肉もりもり料理もいいかもしれませんが、四十代で共働きの夫婦とか、三十代の単身家庭とかで考えてみてください。

50代のフリーランス夫婦のわたしの家でもそうですが、会食はけっこう多いんですよね。会社に勤めていらっしゃる方だったら、取引先の人とか社内の同僚とかと飲みに行くことが多いでしょう。フリーランスも同じようなものです。いまの時代はいろんなところでいろんな人とつながっておき、さまざまな人間関係をつくって安心を高めていこうというような考え方になってきてますから、外でいろんな人と会う。「じゃあごはんでも食べようよ」「今度飲みに行こうよ」というので、居酒屋とかちょっとしたビストロ、トラットリアとかでグラスを傾けながら……という機会がとても多いのです。

日本の外食はとてもレベルが高いと思います。でもそうはいっても、カロリー過多になってしまうのは間違いありません。フレンチやイタリアンに行くとついついメインの美味しそうな肉料理にも手を出してしまったりしますしね。

だから自宅で食事をするときぐらいは、思いきってローカロリーで健康的な野菜中心の料理がいいとわたしは思うんですよ。家庭料理でからだを整えて、健康を取り戻して、そしてまた外で仲間や同僚や、自分の好きな人たちとの旨い食事をおもいきり楽しむ。そういうサイクルをうまくまわして、体重が増えちゃったり体調崩したりしないようにコントロールしていくのが大切なのです。

だから自宅では野菜を食べましょう、ってことなんです。

そしてまず野菜から考える、ということ。「今日はハンバーグにしよう」じゃなくて、「今日は大根を食べることにしよう」というところからはじめる。この発想の転換で、家庭料理はとても豊かで美味しいものに変わります。
 

佐々木俊尚  作家・ジャーナリスト。 1961年兵庫県生まれ。早稲田大政経学部政治学科中退。毎日新聞社などを経て、フリージャーナリストとしてIT、メディア分野を中心に執筆している。忙しい日々の活動のかたわら、自宅の食事はすべて自分でつくっている。妻はイラストレーター松尾たいこ。「レイヤー化する世界」(NHK出版新書)、「『当事者』の時代」(光文社新書)、「キュレーションの時代」(ちくま新書)など著書多数。

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作者:佐々木 俊尚
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