『未来を切り拓くための5ステップ』2014年最高のビジネス書 起業のバイブル

成毛 眞2014年04月21日 印刷向け表示
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未来を切り拓くための5ステップ: 起業を目指す君たちへ
作者:加藤 崇
出版社:新潮社
発売日:2014-04-18
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著者の加藤崇さんにはじめてお目にかかったのは、昨年10月23日スルガ銀行d-laboでのイベントだった。二人ともビジネスモデルコンテストの審査員として参加していたのだが、イベントが終了してから一冊の本を手渡された。大手出版社から再版したいのだという。

手作りにしては装丁やレイアウトなどが良くできているその本のタイトルは『THINK BIG』。Amazonでも買うことができるとのことだったが、書店では販売されていない、いわゆる自費出版だ。正直に言って、初対面の出版の素人から手作りのビジネス書や自己啓発書のたぐいをもらうことがあっても、読むことはない。この時もしばらく放置していた。

イベントから1ヶ月以上たった12月4日、Googleが日本のロボットベンチャーSCHAFTを買収したというニュースが世界を駆けまわった。ニューヨーク・タイムズを皮切りにウォール・ストリート・ジャーナルはもちろん、BBCなども大々的にとりあげるニュースだった。たしか加藤さんはSCHAFTに関係していると言っていたはずだ。目の前に積ん読になっている自費出版本に何か書いてあるかもしれない。慌てて読み始めたことは言うまでもない。そして驚愕して狼狽した。もっと早く読むべきだったのだ。

断言しよう。この本は世界中の起業家がまず読むべき本であり、他のビジネス書などを読む必要がなくなる完全無欠の一冊だ。ここに起業のすべてが書いてある。本質的だが、柔軟で、すぐに実践に移すことができる起業のための考え方と体の動かし方が書いてある。体系的だが、独創に富み、完全に納得できるアイディアに満ちている。いままでこのような本を見たことはない。日本のビジネスシーンを根底から変える力のある本なのだ。

目立つ見出しをいくつかピックアップしてみよう

第1章「いつ始めるのか?なぜ始めるのか?」
・ 起業とは、正解がどれかを考える仕事ではなく、正解を自分で作る仕事
・ これからの日本型キャリアの行方:トーナメント戦からリーグ戦へ
・ 起業してからアイデアを考える人、アイデアがあって起業する人

第2章「誰と作るのか?何を作るのか?」
・ 10倍良い、10倍速い、10分の1の価格、それはけっして10%ではない
・ 熱狂的なファンと、それが心底嫌いな人を生み出しているか?
・ 売れるかどうかは、売ってみなければ分からない。さぁ、売りに行こう

第3章「誰にどうやって売るのか?」
・ まず「何度も何度も断られる」ことを計画に織り込んでおこう
・ 起業家はものを売るのではなく夢を売り、夢はお客さんの口を通じて伝わる
・ そのお客さんが、他ではなくてその商品・サービスを買うべき理由を伝えよう

第4章「どうやって会社を大きくするか」
・ 外部から資金調達が必要な2つの理由:「立て替え」と「投資」
・ ビジネスプランを書くが、それに囚われない柔軟性を持とう
・ 愛した子供が自分の手を離れる時:M&AとIPO

第5章「いつも覚えておきたいこと」
・ 自分は本当に充分なリスクを取ってきたのだろうか?と時々振り返ろう
・ 偉い人だから未来を予測できないことを頭に入れておこう
・ 成功した起業家たちの行方:シリアル・アントレプレナー

ここにはビジネスモデルも、競合分析も、ブルーオーシャンも、ステマも、ビジョナリーも、そして戦略という言葉すらも出てこない。何度も断られながらも、お客さんに革新という夢を売り、しっかりと資金を調達しながら、パートナーたちと会社を育てるという堂々とした経営論なのだ。しかし、この本を参考にしながらつくり上げる会社は、けっして古くさい営業重視の会社にはならないはずだ。むしろSCHAFTのような革新的な会社こそを誕生させる力がある。

なにしろ本書にはアメリカの起業家たちの言葉が散りばめているのだ。スティーブ・ジョブズやマーク・アンドリーセンなどのメジャーはもちろん、化粧品メーカーのボディショップを創業したアニータ・ロディック、結婚マッチングサイト「eHarmony」を創業したグレッグ・ワードルフ、Macにも使われている画像プロセッサNVIDIAを創業したジェイスン・フアンなど、日本では知る人ぞ知る起業家たちの文章が大量に引用されているのだ。しかも、その言葉のほとんどは著者による日本語訳だ。巻末の参考文献リストには40冊ほどが紹介されているのだが、その多くが原書であることから考えても、いかに時間をかけ熟考したうえで、本書が書かれたのか想像に難くない。

しかし、けっしてアメリカの起業が素晴らしく、それを真似しろというのではない、アメリカの起業家の洞察力や表現力を利用しながら、日本での応用を深いレベルで考えているのだ。日本の経営者は起業家であっても、日本経済新聞の「私の履歴書」のような雑駁で感傷的、自分を過信して抽象的な分析をする人が多い。その点アメリカ人の経営者は第三者的に自分や会社を論理的、現場主義的に見つめる傾向があるように見える。本書に日本の例が少なくても、それは問題ではなく、むしろ価値であることは繰り返していうまでもないだろう。

ともかく、この本をしっかりとした大手出版社から再版してもらわなければならない。そこでHONZのメンバーである足立真穂に相談したところ、新潮社から改訂したうえで出版されるという運びになったのだ。もとの本『THINK BIG』はすでに売り切れ絶版になっているのだが、人気は高くAmazonでは古本に5000円近い値段が付けられている。この本を1400円という価格で若い読者に届けることに、すこしでもお役に立てたことは嬉しい限りだ。

本書は起業を志すすべてのビジネスマンと学生、ベンチャー経営者を見極めたい取引先や金融機関の担当者に強くおススメする。社内にとどまって新たなビジネスを作り出す役割を担うビジネスマンにも、医療やソーシャル系などの非営利団体にも応用可能だろう。ついに日本人が書いた起業本のスタンダードが登場したのだ。

ちなみに、著者はSCHAFTの共同創業者である。東京大学でヒト型ロボット技術を研究していた二人の助教の起業を支援したのだ。この二人こそはロボットの天才だった。2013年12月には米国防総省国防高等研究計画局主催の災害救助ロボットコンテストでNASAなど強豪15チームを抑えてトップに輝いた。このときにはすでにGoogleによる買収が決定していたのだ。起業からGoogleによる買収までわずか2年。この間に資金調達を試みているのだが、日本のベンチャーキャピタルはことごとく断ってきたという。

ところで、著者の加藤崇さんと「ミドリムシ」で有名なユーグレナの出雲充社長は、東京三菱銀行で同期入社だったとつい最近知った。ユーグレナには私が創業したインスパイアもベンチャーキャピタルとして出資しており、CFOなどの人材も供給している。もし起業間もないSCHAFTと出会っていたら、確実に出資していたであろうし、HONZにはユーグレナとSCHAFT(Google)の広告が並んでいたかもしれない。縁とは不思議なものだ。

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