日本からもオーロラが見えた!『日本に現れたオーロラの謎』

中野 亜海2021年01月25日 印刷向け表示
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日本でもオーロラが見えていたことをご存じだろうか。しかも、直近では昭和33年、約60年前で、これは写真での記録もバッチリあるという。

この本は、タイトルこそ『日本に現れたオーロラの謎』だが、サブタイトルに「時空を超える」や「赤気」という言葉が入り、著者名も片岡「龍峰」さんで、とどめにカバーのイラストで、山から赤いオーラみたいなものが出ている。ぱっと見「スピリチュアルの本なのかな?」と思ったが、本を開くと宇宙空間物理学が専門の、オーロラの科学者による科学の本だった。

しかも、ただの科学の本ではない。著者が在籍している国立極地研究所(南極の昭和基地を
運営しているところらしい)は、国文学研究資料館と同じ場所にあるそうで、つまり物理的な距離も近いので理系と文系の研究者で、オーロラの共同研究をしたそうなのだ。

日本の文献には「オーロラっぽい」記述がいくつかあるという。
この本で取り上げているのは、藤原定家の『明月記』、そして江戸時代に京都の僧侶が書いた『星解』、そして、日本最古のオーロラの記録『日本書紀』だ。

この本のサブタイトルにも入っているが、オーロラは日本では「赤気」と呼ばれていたそうだ。しかし、この赤気も「本当にオーロラのことを指すのか?」と著者は断定できなかったという。「赤気」は辞典では「夜、もしくは夕方、空に現れる赤色の雲気。彗星のこととも」とされていて、オーロラのことだとは書かれていないからだ。

そもそもオーロラって寒いところでしか見えないんじゃないの? と思っていた。どうして日本で見えたのだろうか。

オーロラが見られる条件はふたつあって、
① 太陽が爆発して、その爆風が地球の「地磁気」なるものを大きく乱すと起こる
② 「地磁気」の北極(地軸ではないものらしい)がその地域のほうへ傾いている

オーロラとは「宇宙空間が人間の目にも見えるようになる現象」なので、太陽の爆発によって地球の地磁気が乱れるとオーロラが見られるらしい。オーロラが見られるときは巨大な磁気嵐が起こるので、人工衛星が壊れたり、地球でも変圧器が故障して停電したりとかなり大変だそうだ。知らなかった。また、オーロラは「地理的な緯度」には関係なく、地磁気のほうの緯度に左右されるらしい。
地磁気の北極は時間とともに変わるから、オーロラが見られる知識も時代によって変わる。

この本の面白いところは、理系と文系の行き来にある。
「オーロラと思われる記述が『明月記』に書いてありますので、改めて、その本文を具体的に一文字一文字読み下しましょう」という発表が、まずこのオーロラ研究のキックオフだったそうだ。
そこから、「最近起こった大地磁嵐のイベントに似てるな」と宇宙物理学者たちが気づき、この明月記の裏づけに、京都の仁和寺の歴史を記した『御室相承記』にも藤原定家が見たのと同じ「赤気」が書いてあると探し出し、おとなりの中国の『中国古代天象記録全集』に巨大な太陽黒点の記録がある(つまり、太陽が爆発している)ことなどを次々と見つけだしていく。
これで『明月記』の「赤気」はオーロラだろうという結果になった。まるで推理小説のようだ。

もうひとつ、江戸時代の『星解』に書かれているオーロラ事件は、明和7年(1770年)のことだ。

これは、日本中での目撃記録がたくさん残っている。時代背景としては、田沼意次の時代だ。噴火や飢饉、それに伴う一揆も多く、しかし文化も花開いているときで、杉田玄白たちがターヘルアナトミアを翻訳したり、平賀源内が発明したりなどしていた時だ。

これは、その時代の人がオーロラを見たときの様子である。

家から出て空を眺める人々の中には、子供を背負っている女性の姿もある。また、火事に備えて近くの川から水を運び、家の屋根に水をかけている者もいる。神仏に祈るものや神楽を上げている姿も見られる。(略)しかし、その一方で、空を見ながらのんびりと煙草をふかす村人や、すべてを仏に任せてしまったのか、何もせずに横たわる僧侶の姿もある。

「こういう感じだったんだなあ」と人々の様子もわかって楽しい。
ちなみにこのときは、クック船長がエンデバー号で第一回世界航海をしているときで、大冒険からイギリスに帰っているときにオーロラを見たという日記が残っているという。しかも、ほとんど赤道で。「かなり大きな磁気嵐だったんだろうな」とこの頃にはオーロラのことも大分わかってくる。

この明和7年のオーロラ事件は、日本全国でハッキリ見えたらしく、絵もたくさん残っているのだが、それがすべて、扇の骨のように(虹のように)赤い筋がぱあっと指しているようなもので、一般的なオーロラとは違う形だ。これも「本当にオーロラなのか?」という謎になるが、この謎ももちろんしっかり解かれる。

そのほか、「赤気はキジの尾の形に似てる」と書かれていることから、ほうき星じゃないのか疑惑があったり、寺田寅彦が科学には文学が必要だと言っていたりなど、興味深いポイントがこの本にはたくさんある。

オーロラを切り口に、太陽と地球、そして日本書紀から江戸の人々の様子までを楽しく知れる。きっと文系からも、理系からも、新しい世界が開ける一冊だろう。

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