『もしわたしが「株式会社流山市」の人事部長だったら』二児の母の小さな挑戦が、まちを大きく変えるまで

首藤 淳哉2021年01月23日 印刷向け表示
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もしわたしが「株式会社流山市」の人事部長だったら
作者:手塚純子
出版社:木楽舎
発売日:2020-12-15
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千葉県流山市には、全国の自治体でも珍しい「マーケティング課」がある。「都心から一番近い森のまち」「母になるなら、流山市。」など、子育て世代に刺さるプロモーションを展開し、人口増加率は千葉県内で6年連続1位をキープしている。

本書の著者も結婚を機に流山市に移り住んだ一人だ。移住してしばらくはビジネスパーソンとして忙しい毎日を送っていたが、第一子の出産後育児休業に入ったのをきっかけに、地域が抱える課題にも関心を持つようになった。そしてある日、ふと妄想を抱く。その妄想とは、「流山市を株式会社に見立てた時、もしわたしが人事部長だったら?」というものだった。

地域に目を向けてみると、著者の周りには育休中の時間の使い方に悩む母親たちがいた。地域には仕事で培ったスキルをすぐに活かせるような仕事もない。しかも日中のまちにはさまざまな人がいた。

育休中の人だけでなく、定年退職した人や障がいのある人もいる。そんな人たちが、もし自分の“好き”なことや“得意”なことをもとに楽しく活動できたら、いったいどんな変化が起きるだろうか。「まちの人事部長」として、どんな人材育成や人材配置をしたら、まちの課題は解決するだろうか……。

気づけばカフェでひたすらアイデアをノートに書き出していた。この妄想はやがてまちそのものを大きく変えていく。本書に綴られているのは、そのリアルストーリーである。

著者の姿勢はどこまでもポジティブだ。まちに足りないものがあれば、自分たちで創ればいい。子育て中の暮らしの理想形は、地域活動が仕事にもなること。ならば、自分の能力を発揮して必要なお金を稼ぐことができ、そこで得た経験や知識を、子どもたちや地域の人々にも還元できる仕組みがあればいい──。驚いたことに、著者は本当にその理想を実現してしまう。

著者は現在、まちづくりの会社の代表を務め、流山市でコミュニティスペース兼観光案内所「machimin」を運営している。その立ち上げ過程で著者が得た知見は、多くの読者の参考になるだろう。

例えば、machiminでは、年間100を超える大小さまざまな企画やイベントが行われている。内容に合わせ、その分野が得意な人や好きな人が「センセイ」役を務めるのだが、センセイはここでは教える側の人ではない。誰よりも楽しそうに、夢中で取り組む姿勢を見せることがセンセイの役割だという。

地域コミュニティには、会社組織のような上下関係はない。一人ひとりが「自分のできること」をもとに、主役になれる。事実、子ども食堂や農地を利用した遊びの教室など、machiminは人々のアイデアによってどんどん広がってきている。

著者はmachiminで「個人がやりたいことを叶えられる空気をつくる」ことを目指しているという。人を育てることが、まちを良くすることにつながるからだ。

著者の実践は「人材投資」の生きた教科書といえる。コロナ禍で家にいる時間が増え、あらためて地域に目が向いた人も多いだろう。本書には、私たちが暮らす場所を今よりも少しでも良くするための方法論が詰まっている。

※週刊東洋経済 2021年1月23日号

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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