絶滅の最前線 『ねずみに支配された島』

峰尾 健一2014年06月19日 印刷向け表示
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ねずみに支配された島
作者:ウィリアム ソウルゼンバーグ
出版社:文藝春秋
発売日:2014-06-13
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2億年前は「1000年に1種」の頻度だった生物の絶滅は、人間の歴史とともに飛躍的に増加し、今や「1年に4万種」という絶望的な領域に達してしまった。実は、ここ3000年に関して言えば、その大半は「島」で起きているという。

もちろん、多様な種の大量絶滅の原因は人間だ。しかし、島々で直接手を下しているのは、ねずみやねこなど、人間とともにやって来た動物たちである。船に乗って海を渡ってきた彼らは、上陸するやいなや稀少生物たちの命を脅かす「捕食者」へと豹変した。

鳥類や爬虫類たちの卵とヒナはあっという間にねずみに食べつくされて、固体数は激減してしまう。ウミスズメは後頭部に穴をあけられ、生きながらして眼球と脳みそをねずみに食べられる。トリスタンアホウドリのひなは、尻を齧られて、何十匹ものねずみが体内に侵入、内部から喰い尽くされる。

さまざな固有種がこの世から消え、かろうじて生き残った種も絶滅の危機に瀕している。本書ではそんな被害者たちの顛末が次々と紹介されていく。彼らもかつて堂々と地上を闊歩していたと思うと、読んでいて切ない気持ちになる。

特にスポットが当てられるのは、羽はあっても飛べないニュージーランドのオウム、カカポ。肉付きが良い、体臭が強い、飛行能力がない彼らは瞬く間に、人間が持ち込んだ捕食者たちの餌食となり、現在は人間に24時間体制で監視されながら細々と生きている。巻頭の、1ページを丸ごと使ったカラー写真に写るその姿は何とも愛くるしく、それでいてどこか儚い。

19世紀末になると、消えゆく生き物たちを救うため、ついに人間が立ち上がる。が、これがそう簡単にはいかない。カカポを捕獲して捕食者のいない島へと避難させようとし、やっとの思いでたどり着いた安全なはずの島では、既に侵入していた捕食者であるイタチに出迎えられる。ならばと次は人力による保護を始めるが、守るどころか逆に弱らせてしまう始末。1度壊した生態系を取り戻すのは並大抵のことではないということをまざまざと感じさせられる。

敗北を繰り返している間にも、固有種たちの姿は刻一刻と消えていく。その焦りが頂点に達したのか、人間たちはついに捕食者への「ジェノサイド」を実行に移す。

本書の白眉は、1つの島全体を舞台にした大規模なねずみの掃討作戦だ。そのやり方は豪快の一言に尽きる。ねずみたちを緩慢な死へと至らしめる抗血液凝結剤・ブロジファクムなどを混ぜた餌を大量にヘリコプターに積み込み、正確無比に投下していく。結果、島の支配者たるねずみは、完全に、ただの一匹もいなくなり、固有の生態系が回復してゆくのだ。

準備に数年が費やされ、億単位の費用をかけて行われる、まさに対ねずみ戦争のようなこのオペレーションには、豊富な脇役も配される。まずは、動物愛護の面から批判する人々。なにしろ、ねずみは「人間によく似た繊細な感情を持つ」と科学的に確認されているのだ。ねずみの子どもたちがはしゃぎまわり、お腹をくすぐられて笑い転げる描写を読むと、思わずねずみの味方をしたくなったりもする。

殺戮と殲滅への批判と、それを背景にした過激な動物愛護活動家による妨害工作、煽るメディア、予算を求めてもなかなか動いてくれない政府………。物語のクライマックスに相応しいその一部始終は、是非本書を手に取って見届けてほしい。

それにしても本書を読んでいると、人間の複雑な立ち位置について考えこんでしまう。

捕食者を持ち込み、生き物たちの楽園を破壊した黒幕でありながら、それを取り戻せる可能性を持つ、唯一の救世主。

ネズミたち哺乳類を捕食者に仕立て上げた張本人でありながら、捕食者だからという理由で彼らを殲滅させようとする虐殺者。

孤島の生態系は驚くほど複雑で、脆い。1度壊してしまったら、取り戻すのは困難で、多大な犠牲も伴う。それに気づくのが遅かったために、人間はかくも矛盾した存在になってしまった。

その現実を、整備されたアスファルトの上を歩く生活の中で実感するのは難しい。だからこそ、人工物に囲まれて暮らす多くの人々に、本書は読まれるべきなのだ。

捕食者なき世界 (文春文庫)
作者:ウィリアム ソウルゼンバーグ
出版社:文藝春秋
発売日:2014-05-09
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著者の前著。食物ピラミッドの頂点に君臨する捕食者が、生態系に与える影響を描く力作。

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