【連載】『男のパスタ道』最終回 簡単で美味なペペロンチーノのレシピをご紹介

現代ビジネス土屋 敦2014年08月27日 印刷向け表示
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※第4回はこちら 

いよいよペペロンチーノを作る。多くのペペロンチーノのレシピでは、「まずフライパンに油とニンニクを入れ、弱火でじっくり熱することで、油にニンニクの香りを移す」と書かれている。私自身もこれまでずっと弱火でニンニクを炒めており、油の中で泡を発しながらゆっくりキツネ色に変わるニンニクを見て、「ああ、ニンニクの匂いが少しずつ油へ移っているんだなぁ」と思い込んでいた。

ニンニクを炒めたあとの油を飲んでみた

ところが、実際にニンニクを炒めたあとの油を飲んで味わってみると、ニンニクの香りはあまりしないのだ。

ニンニクの独特の香りの元である、ジアリルジスルフィドをはじめとした有機硫黄化合物は脂溶性である。油に溶けるからこそ、ニンニクの香りを油に移すことができる。しかし、一方で有機硫黄化合物は、180度ぐらいまでの温度上昇でその多くが揮発していく。せっかく香りを移しても、加熱中に揮発してしまうのである。それが、キッチンにおいしそうな香りがただよっているにもかかわらず、油自体には香りや味がそれほど残らない理由だ。

ニンニクの香りがたつと、成分が油に移っているのだなと思いがちだが、よく考えれば、この理解はおかしい。空気中に香りがただよっているということは、成分の大半が油にではなく、空気中へ移ってしまったことを意味するからだ。

つまり、我々がペペロンチーノを食べるときにニンニクの存在を感じるのは、鼻で空気中に広がるその香りをかぎ、口腔内で直接ニンニクそのものを味わっているからだろう。油に移ったニンニクの成分は、さして重要ではない。油に移ったわずかなニンニクの成分は、空気中の香りと直接舌で感じるニンニクそのものの味と較べて微々たるものなのだ。

これをふまえたうえで、ニンニクの切り方について考えてみる。ニンニクの切り方は、これまで「ニンニクの成分を油に移す」ことを前提に語られてきた。みじん切りにするのが、もっとも成分を油に抽出できる。スライスなら、ほどほどの抽出。ニンニクを軽くつぶし、油で焼いてから取り除けば、軽く風味をつけるだけ、といった感じだ。

しかし、前述のように空気中にただようニンニクの香りとそれを直接食べたときの味の強さと比べ、油から感じるニンニクの味と香りは非常に少ない。となれば、切り方による差も、全体から見れば微小なのものになるのではないか。下記の方法で試してみた。

スライスしたニンニクを使ってペペロンチーノを作る。このとき一方は普通に作るが、もう一方は、ニンニクが色づいた時点でその油を捨て、別途みじん切りのニンニクを色づくまで炒めて漉した油を加え、ペペロンチーノを作る。つまり、二つのペペロンチーノは他の条件はすべて同じで、一方はにんにくスライスから成分を抽出した油、一方はニンニクみじん切りから成分を抽出した油を使った状態だ。

みじん切りかスライスか

これを二重盲検法で食べ比べたが誰にもまったく区別がつかなかった。逆にみじん切りのニンニクでペペロンチーノを作り、一方を、スライスしたニンニクを熱した油と入れ替えたが、やはり区別はできない。入れ替える油を、潰したニンニクを熱したものにも変えてみたが、こちらも区別不能である。

つまり、「油に成分を移す」という観点からの切り分けは意味がないと言っていいだろう。具としてのニンニクそのものの強い味が存在すれば、油の中のニンニク成分はもはや誤差の範囲で、全体に影響を与えないのだ(炒めたニンニクを取り出して具にしない場合は、当然だが、油の中のニンニク成分は味に影響をあたえる効果を持ちうる)

ただし、ニンニクの切り分けに意味がないのは、あくまでも油との関係においてだ。ニンニクには他にもいろいろ役割がある。例えば、立ち上がる香り。たとえ油に香りが移っていないとしても、空気中にただよう香りとともに、我々はペペロンチーノを楽しむ。油から立ち上がる香りという点では、みじん切りにしたものが際立って多かった。つまりニンニクをみじん切りにすれば、香ばしい香りが充満した環境でペペロンチーノを食べることができるわけだ。

また、ニンニクは直接口に入れて味わうペペロンチーノの具でもある。つまり、切り方が違えば、食感や舌で感じる味の強さが変わる。みじん切りかスライスか。スライスの厚さはどの程度にするか。それは、油にどの程度成分が移るかではなく、「空気中の香り」および「具としての食感と味」を念頭に選ぶべきなのだ。

ペペロンチーノは興奮を呼び起こすパスタ

続いて、唐辛子について考える。唐辛子の辛味成分はカプサイシノイドと呼ばれる。このカプサイシノイドのなかで一番有名なのがカプサイシンで、その約7割を占める。そのほかジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシンなどなどのよく似た物質が含まれる。

このカプサイシンを受け止めるのは味覚ではなく、温度を感知する受容体TRPV1である。TRPV1は43度以上になると活性化する温度センサーだが、体に痛みをもたらすプロトンという物質によっても活性化される。つまり、唐辛子の辛さは、熱さや痛さと同種の反応を呼び起こすわけだ。

TRPV1が活性化すると、副腎からのアドレナリン分泌が高まる。アドレナリンは交感神経を刺激して、動物が狩りをするときや、逆に生命の危険を感じて逃げるとき、あるいは互いに闘争するときのような興奮状態を作り出す。

なお、ニンニクの硫黄化合物やエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルのポリフェノールは、同じくTRPV1と連動して働くTRPA1を活性化させる。これらもいっそうの刺激をペペロンチーノにもたらすわけだ。

そんな性質を考えると、ペペロンチーノを食べるのにふさわしいシチュエーションが見えてくる。まずは皆が興奮状態にあるようなパーティや飲み会。深夜までかかっても仕事を仕上げなければならない勝負時の夜食。夏の猛暑のなかで体を動かさなきゃいけない日の昼食……。逆に、まったりと過ごしたいときや、寝る前などはやめておいたほうがいいかもしれない。ペペロンチーノは「刺激的で興奮を呼び起こすパスタ」なのである。

さて、ニンニクの香りや味は油に移らなかったが、唐辛子についてあまり思い悩む必要はない。カプサイシンも脂溶性だが、揮発性は低いため、加熱してもそれほど空気中に拡散しないからだ。入れる量に比例して、油の辛味は増す。

ところで、唐辛子の種は取り除くべきか。よく言われるのは、「種の部分の辛味は非常に強いから、取り除いたほうがいい」ということだ。たしかに種だけを噛んでみると、強い辛さを感じる。

しかし、実は、いちばん辛いのは胎座と呼ばれる部分なのだ。ピーマンやシシトウを半分に割ったときを思い出してほしい。ヘタからつながった中心軸に、種がビッシリついている部分があるだろう。あれが胎座である。種がくっつく場所なので、英語ではプラセンタ(胎盤)と呼ばれる。

胎座だけ味わうと舌が痛くてたまらないほどヒリヒリし、汗がどっと吹き出る。胎座のカプサイシンの量は、種と比較にならないほど多い。果皮のカプサイシンの量を1とすると、種は2~4倍程度、胎座は60倍以上になる。

手元にある、自分で天日乾燥させた唐辛子の内部を見ると、乾燥が足りないのか、胎座はまだしっかり残っている。種にも胎座が付着しているから、果皮の部分より、種を味わったときのほうがはるかに辛い。しかし、乾燥させると胎座は縮んでバラバラになり、カプサイシンは唐辛子全体に広がっていくらしい。そこで、大手メーカーの乾燥唐辛子の種を噛んでみると、機械乾燥の過程で縮んだ胎座はすでにバラバラになっているせいか、辛味はずいぶん少なく感じる。そもそも種の内部にはほとんど辛みはない。実際に試してみてほしいのだが、果皮を噛むと奥から辛さが沸き上がってくるが、種を噛んでもそうはならない。

私が思うに「種に辛味があるから取り除け」と言われるのは、天日乾燥していた時代の名残りではないだろうか。いまスーパーで売っている大手メーカーの唐辛子は機械乾燥しているので、種はさほど辛くないのだ。

じゃあ、種を取り除く必要がないかといえば、それも違う。種の口当たりはあまりよくない。食感をよくするという意味で、私は取り除いたほうがいいと考えている。ついでにいえば、クラッシュした唐辛子や、輪切りにされた乾燥唐辛子の硬い果皮も、口当たりはよくないと、私は感じる。それゆえ(辛味がそれほど得意ではないせいもあるが)、私は唐辛子をカットせず、辛味成分を油に移すだけにとどめて、唐辛子自体は食べないようにしている。丸ごと使う場合、種が唐辛子の内部から出てこないので、食感には無関係だ。つまり、種を取り除く必要はない。

唐辛子の種類は、「刺激的な味」を目指す以上、鋭い辛味のあるものがペペロンチーノに合う。比較的容易に手に入る国産の鷹の爪は、単純で鋭い辛さがあり、ペペロンチーノ向きだろう。韓国産唐辛子のように甘味の強いもの、あるいは酸味の強いもので作ると、違和感のある味となる。

私はイタリア有数の唐辛子産地であるカラブリア州のものを使っている。鋭い辛さを持ちつつ、ちょっとトマトに似た深みのある香りもあって、とても気に入っている。普段使いなら日本産で十分だ。しかし、このイタリア産唐辛子の深みと鋭さの両方を持った味は捨てがたい。入手できるなら、イタリア産のものを試してみてもらいたい。

もっとも簡単なレシピをご紹介

さて、『男のパスタ道』の最後には、「勝負ペペロン」「休日ペペロン」「時短ペペロン」「生パスタ風ペペロン」と名づけた4つのレシピを掲載した。パスタや塩の銘柄なども指定し、工程も事細かに書きまくったその偏執的なレシピを紹介すると、一気に字数がオーバーし、かつ読者も引いてしまいそうなので、より作りやすくした簡単なレシピをこの連載の最後にご紹介しよう。分量は一人分。ニンニクも唐辛子も控えめなのでもの足りない人は足せばいい。

まずはスペイン産ニンニクを8グラム。日本のスーパーでもよく売られていて入手しやすい。鋭い臭気がなく、香りはまろやかで深みがある。それでいてチャイブを思わせる草っぽい香気があってまろやかな味で食べてもおいしい。以前、イタリア産ニンニクを取り寄せて味わったことがあるが、近い味だ。

まずニンニクの芽の部分を、竹串などで取り除く。芽の部分は特にこげやすいからだ。それからニンニクを5ミリ幅に切り、油20ミリリットルとともにフライパンに入れて、弱めの中火にかける。ここでニンニクを5ミリという厚めのスライスにするのは、私がそのしっとりとした食感が好みだから。それぞれが好みの食感を念頭にカットするといい。

ニンニクが少し色づいてきたら火を止め、箸で何度も裏返しながら、余熱でまんべんなくキツネ色になるまでおいておく。焦げそうになるようなら、ぬれ布巾をフライパンの底に当てて温度を下げる。

ニンニクがキツネ色になるとき、カラメル化とメイラード反応が起こっている。1000種類を超える香気成分を生じさせ、複雑かつ食欲をそそる香りが生まれるのだ。同時に有機硫黄化合物が揮発し、香りが空気中に充満する。

香ばしい匂いが部屋に充満したら、小粒のカラブリア産唐辛子を丸ごと1個、種は取らないで投入する。ニンニクの周囲から泡が出なくなる頃が唐辛子を投入するタイミング。乾燥している唐辛子は非常に焦げやすく、火を止めて投入しても油が熱ければ、余熱で焦げるので注意したい。

そしてこの状態でパスタがゆであがるのを待つ。よく「パスタがゆであがるタイミングに、ソースの完成をピッタリ合わせる」なんて言うが、そう簡単なことではない。ニンニクをほどよくキツネ色にしたり、唐辛子をこがさないようにするためには、ある程度ソース作りの作業に集中したい。

それゆえ、唐辛子を入れるところまでソース作りをすすめておき、あとはパスタをゆであがるのを待つ、という戦略を取る。落ち着いて作れば、ニンニクや唐辛子をこがす心配はない。

水1リットルに塩8~10グラム

そしてパスタをゆでる。ゆで方は、連載第3回に載せた3番目のゆで方、水1リットルに対して、塩8~10グラムを入れる方法だ。他のゆで方でも作れるのだが、工程が少し複雑になるので、ここではこのゆで方を採用する。複雑なバージョンが知りたい方は『男のパスタ道』を読んでほしい。

パスタがゆであがる30秒ほど前になったら、ゆで汁50ミリリットル(二人分のときは75ミリリットル)をフライパンに加え、強火にかけて煮立たせる。そこにゆであがったパスタを投入。30秒ほどフライパンをあおりながら、ソースを乳化させつつからめ、最後に大さじ1弱のエクストラバージンオリーブオイルをかけて完成だ。

男のパスタ道の書影やこの連載の第一回の写真を見て、「おやっ?」と思った人もいるかもしれないが、私はパスタを平皿ではなくボウルに入れて供している。ペペロンチーノはアツアツがウマい。温度が下がりやすい平皿やパスタ皿ではなく、ボウルで食べるとアツアツ感が持続し、ぐっとおいしく感じられるのでおすすめだ。ボウルに熱いゆで汁を張るなどして事前に温めておくと、いっそうおいしく食べられる。

さて、このレシピにはひとつ大事なことが書いていない。それはニンニクを炒める油に何を使うか、である。

なんとオリーブオイルは使わない。じゃあ、何を使うのか。実は『男のパスタ道』の書評を書いてくれたり、ラジオなどで紹介をしてくれた方のほぼすべてが、油の名前を伏せている。いわばこの本をある種のミステリーのように捉えて、どんな油を使うのかを書くのは「ネタバレ」だと考えてくれているのだ。

申し訳ないが、そんな状況下で筆者が率先してネタバレをするわけにはいかない。ただし、本を立ち読みすればすぐにわかるので、どうしても知りたい方は街の書店にちょっと立ち寄ってみていただきたい。

あるいは、この連載を読んでくださった皆さんが、オリーブオイル以外の油をさまざまに試し、私が見つけた油よりも、さらにペペロンチーノに合う油を見つけてくれたら、なお嬉しい。パスタ愛好者たちの手で、日本のペペロンチーノをますますおいしくしていきましょう!

男のパスタ道 (日経プレミアシリーズ)
作者:土屋 敦
出版社:日本経済新聞出版社
発売日:2014-06-10
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土屋敦(つちや・あつし) 料理研究家、ライター。1969年東京都生まれ。慶應大学経済学部卒業。出版社で週刊誌編集ののち寿退社。京都での主夫生活を経て中米各国に滞在、ホンジュラスで災害支援NGOを立ち上げる。その後佐渡島で半農生活を送りつつ、情報サイト・オールアバウトの「男の料理」ガイドを務め、雑誌等の書評執筆開始。現在は山梨の仕事場で畑仕事をしながら執筆活動を行う他、書評サイトHONZの編集長。自称「書斎派パスタ求道者」。著書に『なんたって、豚の角煮』(だいわ文庫)他。近著『男のパスタ道』(日経プレミアシリーズ)が革命的(あるいは偏執的)レシピ本として各メディアで評判に
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