激ウマ&激マズ。へんてこ生物、捕獲せよ! 笑って、喰らって、ためになる『外来魚のレシピ』

塩田 春香2014年10月22日 印刷向け表示
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外来魚のレシピ: 捕って、さばいて、食ってみた
作者:平坂 寛
出版社:地人書館
発売日:2014-09-12
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いきなりこんな写真でスミマセン。このワイルドな料理は、「アリゲーターガーの丸焼き」。アリゲーターガーは「顔はワニ、味はトリ」という、北米および中米原産の魚である。いかにも異国情緒漂わせまくりのこの魚が、じつは今、東京や横浜の川にもバッチリ生息している。

本書はタイトルどおり、こうした外来魚を料理して食べたレシピ集……といっても、著者自らが外来魚を求めて日本各地に出没し、ときには体をはって巨大魚と格闘し、捕獲するところから始まる。

著者の胃袋におさまったのは、外来生物の代表格・ブラックバスやブルーギルなどの魚をはじめ、カミツキガメや、アフリカマイマイという巨大カタツムリなどなど。

著者と、沖縄で捕獲した体重34キロのワニガメ(これは食べずに専門施設に引き渡し)。人の指くらい軽く食いちぎれる危険生物が、日本ですでに野生化している。

このような異国の生物がウヨウヨしているため、多摩川などは「タマゾン川」と揶揄されている。でも、外来生物がいて何か問題でも? 

まず、日本在来の生物を捕食したり、餌や生息地を奪ったりして、絶滅させてしまうことがある。ある生物が滅ぶと、ほかの生物たちにも影響を与え、自然環境そのものが大きく変わってしまう可能性も秘めており、○▽●×※☆%……

ね、説教臭いでしょう? そう、このテーマ、なんとかせねばと必死になるほど、押しつけがましくなってしまうのだ。これでは、もともと関心のない人は腰が引けてしまう。

本書のすごさは、面白がって読んでいるうちに外来生物の実態がすんなりと飲み込めるところにある。いわゆる「ゲテモノ食い」にありがちの露悪的なところもない。著者の根はマジメであろう人柄も、好印象。

で、著者なりの外来種への向き合い方。それが「獲ったら、喰う」。キャッチ&イートである。

つかまえるためには、その生物の生態を学ぶ必要がある。まず、捕獲場所を選ぶために生息環境を。池や沼か、流れのある川か、あたたかい地方か、特定の地域にだけいるものなのか?

利根川水系で繁殖している、ハクレン。食用目的で日本各地に移入されたが、ほかの川では定着しなかったらしい。

さらに、何を餌にするか決めるためには、草食か肉食かなどの食性も知らなければならない。たとえば上記のハクレンは巨体にもかかわらず、植物プランクトンが主食。……ちょっと待てよ、釣針にプランクトンなんて刺せないじゃん。どうする? 

そこで登場するのが、なんと、マッシュポテト。針のまわりをマッシュポテトで固めれば、この巨大魚が釣れてしまうのだ! (が、その後、ルアーを適当に流すだけで釣れることが判明。「マッシュポテトは夕飯にとっておけばよかった」と後悔する著者の迷走ぶりも、本書の読みどころ。)

ハクレンと同じくベジタリアンの巨大魚・ソウギョは葉っぱを食べる。さて、こんな仕掛けで釣れるのか? それよりも、こんな格好で著者は職務質問されたりしないのか?
寒さが苦手なカムルチー(雷魚)は、晩秋にもなれば冬眠状態。手づかみするために、冷たい沼に入水。手づかみ、なるか?
悩殺的なポーズをとるカミツキガメ(左)。右のミシシッピアカミミガメより体の露出度が高い。甲羅でがっちり守らなくても外敵に襲われる機会が少ないのかも。

獲れた個体数で生息密度の目安を知ることもできる。ブルーギルなど水辺に立って10分そこそこで5匹も釣れたというのだから、その大繁殖ぶりがうかがえる。

南米原産ナマズの仲間・プレコは、沖縄の川で大繁殖。投網一発でこの状態。

そしていざ調理をすれば、それはすなわち「解剖」。体のつくりをじっくりと観察できる。先出のハクレンはプランクトンを濾しとるためにエラが異様に発達しているし、プレコは甲冑ばりの鱗で身を守っている。また、胃袋から在来種の小魚やエビが大量に出てくることもある。やっぱり食われてるなあ~、在来種。

「歩くナマズ」ウォーキングキャットフィッシュをさばく。東南アジアでは一般的な食材らしい。

こうしてついに出来上がった料理を、待望の試食タイム! 漫画『美味しんぼ』や発酵学者・小泉武夫さんのグルメエッセイを彷彿とさせるような描写がまた、イケている。

タウナギの餡かけ麺

 炒められたタウナギはサクサクとした歯ごたえで、豚肉と魚の中間のような食感。そこに皮のプリッ、プチッとした独特の歯ごたえが加わる。この不思議な食感がタウナギの魅力に違いない。

カミツキガメのから揚げ

肉は粗めの繊維がホロホロと崩れ、なかなかジューシー。味は豚のスペアリブと鶏のもも肉の中間といったところだ。カミツキ鍋もかなり長時間煮込んだのに肉が硬くなっていないし、味もしっかり濃厚である。恐れていた臭みもクセも全くない。肝も甘みが乗っていておいしい。

 だが、もちろん全部が美味しかったわけではない。たとえばアフリカマイマイのつぼ焼きは

ぬるぬるとした粘液が口の中に広がり、舌と頬にまとわりついた。納豆のようにしつこく、くどいぬめりだ。さらにほんの一刹那遅れて、初めて味わうタイプの生臭さが鼻腔に張り付く。……

そんなアフリカマイマイも、ガーリックバターをつめてエスカルゴ風に焼くと無難に食べられた。定番の調理法は先人たちの多くの「オエッ」に基づいて確立されているから、結局一番無難なのかも。

人間の勝手な都合で持ち込まれただけで、外来生物に罪はない。しかし、知れば知るほど、この問題は複雑だ。もともと日本にいた種でも、捕獲したのと別の地域に放すことは遺伝子レベルでの攪乱を招く。放した生物に付随して、病原体をばらまいてしまうかもしれない。せめてペットにした外国産の生き物は、きちんと飼い遂げてやってほしい。

……ほーらね、やっぱり説教臭くなっちゃったよ! 

アリゲーターガー@丸焼き中
※本の写真は口絵・カバー以外はモノクロですが、本記事では出版社の許可をとりカラーで掲載しました。
唐沢流 自然観察の愉しみ方: 自然を見る目が一変する
作者:唐沢 孝一
出版社:地人書館
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 『外来魚のレシピ』と同じ版元、地人書館の新刊。実直な本づくりには、いつも敬服。本書も身近な自然への気づきを与えてくれる良書。 

ねずみに支配された島
作者:ウィリアム ソウルゼンバーグ
出版社:文藝春秋
発売日:2014-06-13
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HONZメンバー激押しの一冊。それぞれのレビューはこちら。土屋仲野峰尾 

〈生物多様性〉入門 (岩波ブックレット 785)
作者:鷲谷 いづみ
出版社:岩波書店
発売日:2010-06-10
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外来生物問題を含む生物多様性について、コンパクトにまとまった便利な一冊。著者は日本におけるこの分野の第一人者。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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