【連載】『世界の辺境とハードボイルド室町時代』
第4回:伊達政宗のイタい恋

集英社インターナショナル2015年08月22日 印刷向け表示
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人気ノンフィクション作家・高野 秀行と歴史学者・清水 克行による、異色の対談集『世界の辺境とハードボイルド室町時代』。第4回は伊達政宗のイタい恋について。BLのルーツは戦国武将にあり!?(HONZ編集部)
※過去の記事はこちら→第1回第2回第3回

世界の辺境とハードボイルド室町時代
作者:高野 秀行、清水 克行
出版社:集英社インターナショナル
発売日:2015-08-26
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伊達政宗のイタい恋

清水 江戸時代の元禄年間が日本の歴史のターニングポイントだったという話をしましたよね。ひげがなくなるのはまさにその頃で、もう一つの傾向としては、同性愛文化がすたれていくんですよ。もちろん、アンダーグラウンドな世界では残るんですが、趣味としておおっぴらに同性愛を楽しむ風潮がなくなってきますよね。なぜかというと、もともとは同性愛もひげと同じで、男らしさの表れだったんですね。

高野 そうだったんですか。

清水 なよっとした感じのものではなくて、「女なんかとつるんでいられるか」というような感じの。

高野 むしろ男子校的な。

清水 同性愛は戦国の文化なんですよね。もちろんそれ以前に寺院社会などでは一般的だったんですが、戦国になると過酷な社会を生き抜いていくには、女をはべらせてなんかいられない。信頼できる男だけで周囲を固めておく方がいいというマッチョな価値観なんですよ。

高野 なるほど、そういうことですか。

清水 だから、平和な時代になっても愚連隊をやっていたかぶき者には、同性愛の文化が残ったんです。それが社会的に見てみっともないことだと考えられるようになったのが元禄の頃で、ひげの文化も同性愛の文化もなくなっていくんです。戦士が去勢されてサラリーマンになっていったような感じですね。薩摩なんかの武士社会では最後まで残ったみたいですけど。

高野 そうですか。

清水 そうらしいですよ。九州の方では、同性愛文化は明治の頃ぐらいまで残っていたらしいです。夏目漱石が熊本の高校に赴任したとき、寮で男色絡みの暴力事件があったことを驚いて手記に書き残していますね。

高野 しかし、武士は子孫を残さなきゃいけないから、同性愛を好む人たちもバイセクシャルだったっていうことですよね。

清水 克行氏 (撮影:円山正史)

清水 そうですね。ただ若いうちはそっちにばかりいっちゃって、子どもをつくるのが遅れるということはあったみたいですよ。江戸時代になってからの話ですけど、三代将軍の徳川家光なんか、若い頃、小姓との同性愛一本槍で、女性を近づけないものだから、いつまでたっても子どもが生まれないんですよ。あまりにひどいんで、乳母の春日局が心配して、家光好みの女性を探しにゆくという逸話が伝わっています。

高野 ホモセクシャルの人好みの女性って、どんな人なんですか(笑)。

清水 色の白い女性的な女性ではなくて、色の浅黒い男性的な女性が好みだったみたいですよ(笑)。家光の「恋人」の一人に堀田正盛がいるんですが、彼は色が浅黒かったんで、加賀の前田家の小姓にはなれなかったらしいんですが、逆に家光はそこを気に入って取り立てたらしいです(参考:氏家幹人『江戸の性談』講談社)。正盛はそれを恩義に感じて、家光が死ぬと殉死するんですが、その切腹のときも、家光以外の者に肌を見せたくないといって、肌ぬぎをせずに切腹したらしいです。

でも、家の存続とかそういうことを考えると、同性愛はまったくの浪費、無意味な行為になるんでしょうね。

高野 だけど、若くて戦場でバリバリ戦っているうちは、そっちの方がいいんでしょうね。

清水 女なんかには見向きもしない。

高野 まあ、実際、同性愛の方が安全ですしね。

清水 本当に信頼できる部下を身の周りに配置するのが一番安全だし、その部下と肉体的な関係まで結んでしまえば、絆がより強固になるという。

高野 だって、女がいたら守らなきゃいけなくて、大変な手間だけど、男だったら自分を守ってくれるわけだし。

清水 仲間として一緒に戦えるわけですよね。合理的ですよね。

伊達政宗がラブレターというか、恋人である男の子にあてた手紙も残っているんですよ。「俺は浮気はしていない。お前だけなんだ」ということを女々しく書き連ねていて、「愛の証しのために、今すぐ腕に刀を立ててもいい」と言っているんです。操を立てるためにタトゥーを入れるみたいなことなんでしょうね。だけど、「俺ももう孫がいる年齢だし、行水を浴びるときに小姓たちに見られて笑われてしまうとみっともないので、やりたいけどできない」とかって(佐藤憲一『伊達政宗の手紙』新潮選書)。

高野 説得力ないじゃないですか(笑)。

清水 あの時代の愛の証し立てって、ものすごくエキセントリックなんですよね。起請文を書いて血判を据えたりとか。それが愛の証明方法なんですよ。

高野 ソマリにもいましたけどね、そういう人たちは。

清水 それは同性愛?

高野 異性愛ですけど、好きな人ができると、自分で切るんです。刀傷をもっている男の人がいましたよ。結構年配の人でしたけど。

清水 どういうふうに切るんですか。

高野 刃物で腕にザッとやる感じですよね。縦に切ってました。

清水 動脈いったら、危ないじゃないですか。

高野 ちゃんと避けているんでしょうけどね。かなり痛いだろうなあって思いますよ。だって、30年くらい前の傷がいまだに残っているわけだから。

清水 すごいなあ。それは刺青みたいなマーク? 十字にするとか丸くするとかそういうのではなく、一筋に?

高野 そう凝ったもんじゃなくて、喧嘩でついたように見える傷なんだけれども。「いや、これは違うんだ」って。「昔は、好きな子ができると、こんなにもお前のことを思っているんだって言って、目の前で切った」って。それは口説きなんだって。

清水 それは引くわ(笑)。

高野 同じように両腕についていたんですよ(笑)。

清水 二度やったんですか。

高野 確かに喧嘩ではそんなにきれいに二本はつかないから、二回チャレンジ。

清水 へえ。それでほだされる子もいるんですかね。

高野 そういう文化なんでしょう。

清水 日本の場合、戦国時代の人たちは、男女の恋愛よりも男同士の恋愛の方がピュアだくらいに考えていたのかもしれないですね。家の存続とか、子どもをつくるとか、そういう打算なしにやっているから、その分、純粋だぐらいに思っていたのかもしれないですよね。

高野 それはわかりますね。

清水 わかりません(笑)。

高野 いやいや感覚として。あの、何というか、肉体関係はなくても精神的なものってあるじゃないですか。たとえばハードボイルド小説なんかに出てくる男同士の友情とか。

清水 ああ、はい、ええ。

高野 ああいうものも、そうでしょ?

清水 うん、なんか読んでいると、ちょっとホモセクシュアルな感じがにおってくることはありますよね。

高野 ああいう小説には、男女の愛よりもピュアな世界っていうのが描かれていると思うんですよ。

清水 ああ、そうですね。

高野 男女の関係には、結婚して家庭をつくってとか、なんかそういう所帯じみた、もろもろの雑味が入ってくるけども、男同士の関係は、そこから生まれるものが何もない分、純粋な感じがすると思うんです。

清水 そうですね。戦国武将に同性愛が多かったのは、戦場に女を呼べない代わりに男を愛していたからだと俗に言われるんですけど、それは絶対に違って、男同士の方がよかったからなんですよね、やっぱり。

高野 でも、誰もができたわけではないんですよね、きっと。

清水 いや、百姓レベルでもできたみたいですよ。戦国時代の和歌山県の『粉河寺旧記』という記録に、村の踊りの記事が残っているんですけど、若い男の踊り手について「振りよし、肌よし、美人なり」とかって書いてあって。庶民の間でも、あの男の子は格好いいね、かわいいね、といった話をしていたんじゃないかと思います。もともとは武士階級の戦士のメンタリティだったんでしょうけども、たぶんそれが下降していって農民クラスにも共有されていたんじゃないですかね。

高野 それが江戸時代になって変わっていくんですか。

清水 もちろん、すぐに変わったわけではなくて、江戸時代に入ってから百年ぐらいかけて、じわじわと変わっていくんです。そういう転換が起きた江戸時代って、やっぱりすごいですよね。今の我々の感覚に近い社会にゆっくりと変わっていったんですよね。

高野 ちなみにレズビアンはあったんですか。

清水 それ、授業では必ず質問で出ます。まず女性のことは史料に表れにくいという前提があるんですけど、レズビアンの記録はほとんど見えません。

唯一、『天狗草紙』という絵巻物の中に、一遍が興した時宗の教団が描かれている箇所があって、その中に二人で肩を組んで歩いている尼さんが出てきます。通常、中世の日本人って肩を組まないんです、男も女も。組んでたら、やっぱりちょっとおかしい関係なんですよね。なので、これはレズビアンを表している絵なんじゃないかと(参考:黒田日出男「『天狗草紙』における一遍」『姿としぐさの中世史』平凡社ライブラリー)。

時宗は踊り念仏をやったりしていたので、既存の仏教界からは怪しげな教団と見られていたんですけど、絵巻の作者は反時宗の立場の人なので、レズビアンの尼僧を描くことで、「この教団はカルトだ」というプロパガンダをしたかったのかもしれません。

授業で、こんなふうに同性愛の話をすると、学生は喜ぶんですよ、特に女の子が。「一年間の授業の中では、伊達政宗の古文書の話が一番面白かったです」とかって。

高野 ムリもない(笑)。

清水 同性愛は今ももちろんあるわけですし、性同一性障害みたいな事情を抱えている人もいます。でも、そういう次元とは別に、同性愛には文化的な側面があって、男らしさや女らしさというものは歴史的に変化していくものなんだって学生にわかってもらうために、僕はこの話をするんですけど、伝わってないですね。

※本書に掲載されている注釈については、割愛しております。

世界の辺境とハードボイルド室町時代
作者:高野 秀行、清水 克行
出版社:集英社インターナショナル
発売日:2015-08-26
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