『アテンション 「注目」で人を動かす7つの新戦略』 日本語版解説 by 小林 弘人

飛鳥新社2016年02月27日 印刷向け表示
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「HONZはあまりビジネス書は紹介しないのだけれど、この本は別格といっていいだろう。ボクにとっても、つまりHONZにとっても有用だと思われる示唆が満載なのだ。」ーーHONZ代表・成毛眞が激オシする本書は、21世紀のAIDMA理論とでも言うべき内容であり、しかも今すぐ役立つマーケティングの教科書だ。今回は特別に、巻末に掲載されている小林弘人氏の日本語版解説を掲載する。(HONZ編集部)

アテンション――「注目」で人を動かす7つの新戦略
作者:ベン・パー 翻訳:依田 卓巳、依田 光江、茂木 靖枝
出版社:飛鳥新社
発売日:2016-02-26
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本書の原題『Captivology』は、魅了されることを意味する「captivation」という英語をもじった、著者ベン・パーによる造語だ。なお、似ている単語に「captology」というものもある。こちらは、ウェブやソーシャルメディアがいかに人々の態度や行動を変えるのかを研究する学問を指す。すなわち、デジタル・テクノロジー上の説得力についての研究だ。そんな類語を連想させ、権威とご利益がありそうな印象をも与える―すでに本書を読了された方なら、そこで使われている手法の名前を思い浮かべることができるだろう。

本書の主題とは何か。それは、人間の本能に訴えかけ、いつの間にか他者の注意をこちらが目指すものに注がせるための仕組みについてだ。わたしたちがものごとを判断する際に往々にして 生じる「錯誤」を意図的に創り出し、受け手をそのまま魅了してしまおうというものだ。パーは、これまでに研究されてきた心理学や認知学の成果に加え、それらを利用したマーケティング手法と多くの事例を手際良く分析し、「注目」がどう生まれてくるのかを教えてくれる。

本解説では、まずパーの経歴や本書の核心部について説明をする。そして、ビジネス・パーソ ンが本書の内容をどのように活用するべきか、わたしなりの考察を述べてみたい。

著者ベン・パーに注がれた注目

本書の出版後、パーは一躍”注目の集め方の達人”として時の人となった。本書はアメリカのストラテジー+ビジネス誌が選ぶ2015年のベスト書籍(マーケティング部門)に選ばれ、ABCニュース、MSNBCといった全米の有力ニュース局が取り上げた。ABCニュースにパーが出演したとき、彼は医者が着るような白衣を身につけて登場した。そこで、彼は注目を集めるための「権威付け効果」について白衣の効能を説く。なんとも人をくった演出だ。そんなパーとは、いったい何者なのか。まずは彼のキャリアをひもといてみる。

現在、パーは創業間もないベンチャー企業の投資に特化する「ドミネートファンド」の共同創設者兼パートナーを務めている。ほかの共同創設者2名はパーと一緒に、2012年にはフォーブス誌が選ぶ「30歳以下の30人」に選出された。正確にいえば30人のなかの一人を1/3ずつ分け合ったわけだ。パーの共同創設者らは、ミュージシャンのためのソーシャルメディア・マーケティングを手がけてきた。つまり、パーも含めてこのファンドの主要パートナー全員が金融業界出身ではないという点が興味深い。

そんなドミネートファンドの投資ポートフォリオは、どのようなものか。彼らの投資先は、たとえば超音波を使ってワイアレス充電を可能にするuBeam、ソーシャルメディアやDVDな> どあらゆるスクリーンを繋げてしまうデジタル・サイネージOS開発のEnPlugなどが名を連ねる。どちらもすでに赤丸急上昇の要注目テクノロジー企業だ。

なぜ、彼らはこのような新進テクノロジー・ベンチャーを見つけることができたのだろうか。

その理由は、投資家としてファンドを創立する以前のパーのキャリアが物語っている。彼は、 ウェブ業界で高名なニュースサイト「マッシャブル」に2008年から在籍し、同サイトの共同 編集者としてチームを率いてきた。また、自らテック系ジャーナリストとしても活動してきた。 彼がマッシャブルを離れたときは、業界のニュースサイトにその去就をめぐっての記事が出たほ どだ。パー曰く、彼はこれまで2400以上の記事をソーシャルメディアに寄稿してきたという。

CNET、ビジネス誌Inc.、ニュースサイトCNBCなどに定期的に記事を掲載するほか、FOXニュースやニューヨーク・タイムズなど多くの有名メディアに取り上げられてきた。こうした華々しいキャリアを積み重ねてきたパーだが、意外なことに本書は彼の処女作となる。"新人"離れした筆運びにも納得だ。

3つの焚き火と記憶の保管庫

では、本書の核心部に迫ってみるとしよう。

本書におけるパーの主張はシンプルだ。彼が属するテクノロジー業界では次から次へと新しいベンチャー企業が勃興しては消えていく。そんななか、明暗を分けるのは「注目」であると彼は断言する。

注目がなければ、それがどんなに偉大なテクノロジーや理想を掲げていようと資金調達や優れ た人材の確保が難しい。そして、注目はベンチャー起業家のみが必要としているものではない。会社員であっても上司への説得、顧客へのアピール、同僚への協力要請など、やはり注目される ことは必要不可欠だ。あなたが家庭人であってもそれは変わらないだろう。パートナーや近親者、あるいは友人たちの注目を集め、皆を魅了するにはどうしたらよいのか? 

パーは、注目には3種類あるという。「3つの焚き火」という比喩を用いて、人々を魅了する ための焚き火をくべるには、「即時」「短期」「長期」の注目を使い分けるべきだと説く。

まず、「即時の注目」は記憶にとどめることすら難しい。彼はそのメカニズムとして「作業記 憶」という概念について説明する。作業記憶とは、「あくまで一時的な記憶の保管庫」であり、 長期的な記憶に移行する前に、次の違う刺激に場所を与えてしまうものだ。作業記憶に移行する 前の段階の「注目」は「感覚」であるとパーは語る。ゆえに「感覚」によって受容した注目は、 記憶になる前の数秒で揮発してしまう。それは、強いて言えば電源を切ると消失してしまうデー タのようなものだろう。これに対し、作業記憶は、電源を切っても消えないが、かといってデー タがその保管庫に留まる時間はさほど長くない。そのため、「長期記憶」として保管される必要 がある。「長期記憶」は、ハードディスクドライブにきちんとバックアップ保存されたデータの ようだ。

パーは長期記憶に留めてもらうためには、「よく知っていることが鍵となる」と語る。脳は既 知なるものは記憶に留めて、毎回考えないでもそれを行えるような近道をつくる、とも。

そのような3種類の注目を集める際に使われる動機付けがある、というパーの主張が、本書の核心部である。彼はそれを「トリガー」と呼ぶ。トリガーには7種類ある。これは人間の本能に訴えかけるものであり、どれも予見や定量化が可能な精神反応をひき起こすのだ。

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