笑って楽しめ!『暁斎春画』 ちょっとだけ閲覧注意のマイルド春画付きレビュー

仲野 徹2017年03月14日 印刷向け表示
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暁斎春画 -ゴールドマン・コレクション
作者:石上 阿希
出版社:青幻舎
発売日:2017-03-08
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まったくの私事で恐縮だが、このレビューをHONZにアップする日に還暦を迎える。せっかくなので、還暦らしく赤い本をレビューすることにしようと思った。『赤本』といえば、教学社の出す大学入試過去問集だけれど、さすがにそんなもんレビューするわけにはいかないし、その能力もない。

行きつけの本屋さんをうろついて探すと、平積み本の中にひときわ目をひく一冊があった。中国文学者・守屋洋氏の『世界最高の人生指南書 論語 人生に革命を起こす最強の生き方』である。おぉ、還暦にふさわしそうではないか。しかし、帯に「成毛眞氏推薦」とあって、何故かHONZ代表・成毛眞の大きなイラストが使われている。こんな帯にしたら、誰が書いた本かわからんやないの。帯がふさわしくないので却下。守屋先生、せっかくの機会でありましたが、残念です。成毛眞が悪いんです。

真っ赤なカバーの本はそれほど多くない。それに、HONZでは3ヶ月以内に出版されていること、という縛りがある。他に適当な本がなさそうで諦めかけた。でも、ひょっとしたらと、最後に普段ほとんど足を踏み入れることのない芸術書のコーナーにふらふらと寄ってみた。そこで見かけたのが、この『暁斎春画』である。

本のカバーも装丁も見事に赤くて、真ん中が、座ってまぐわう男女を穴からのぞくようなデザインになっている。真っ赤な色合いが完璧なだけでなく、春画なのにかわいらしくて、猥褻な感じがしない。しかし、こういう本を手に取るとスケベなおじさんと思われかねない。辺りをうかがい、人気がないのを確かめて開いてみた。

春画が好きかといわれると、そうでもない。昨年、永青文庫で開かれた春画展に行ったのだが、なんとなく暗いイメージがつきまとって、評判ほどには気に入らなかった。しかし、暁斎の春画は違う。河鍋暁斎といえば、江戸時代末期から明治にかけて活躍した、奇想をもってなす天才絵師である。明るく笑い飛ばせるような絵ばかりで、ページをめくる手が止まらない。

表紙に使われている絵は版画ではなく、右にある肉筆画『笑絵三幅対』のうちの一枚である。どの絵も面白いが、なんといっても秀逸なのは左端の絵だろう。少しわかりにくいかもしれないが、垂れたふぐりを触らんとする猫のポジションがにゃんとも最高だ。ひょっとして仙厓が春画を描いていたならこんなだったかもしれん。解説によると、暁斎はお呼ばれして即興で席画を描くことも多かったらしい。この絵がもし酒席のものであったなら、描き上げられた時、猫の仕草のあまりの可愛らしさに、酔っぱらいたちはさぞかしどよめいたことだろう。

暁斎、もちろん、正統派の浮世絵はお手の物だ。きちんとした手法にのっとった春画の浮世絵をたくさん残している。しかし、そこにちょっとしたヒネリがきいている。たとえば、この絵などがそうだ。鯉のぼりの中で事におよぶ男女とそれを眺める鍾馗様。魔除けの鍾馗がいったいどんな心持ちで眺めているのやらと考えるとおかしくなってくる。そのうえ、この絵をよく見ると、着物の襞に似せて鍾馗様のナニがそれとなく描かれている。それも、お漏らししてるみたいやし…

下の扇子絵は、一見したら春画らしくないかもしれない。タイトルは『障子の穴』。わかるだろうか、障子を隔てて交わる男女の図なのである。このように何かを隔てた性交という図柄はずっと前からあったらしいが、扇子の地紙を障子紙に見立てて、表裏で位置あわせしてあるところがミソだ。やらしいっちゅうたら、えらくやらしいのだが、この扇子くらいなら許容範囲内だろう。売り出せば結構人気が出るかもしれん。

エッチ系だけではなくてスカトロ系、放屁絵柄もいくつかある。『放屁合戦』は「勝負絵」といわれるもののひとつで、屁で勝負している。が、いったいなんの勝負なんや。他にも、事の最中に女が強烈な放屁をして、その勢いでぶっとばされる貴族を描いた『手枕放屁の図』なる、情けなくも笑える絵も載っている。

HONZ編集長・内藤順による『夫のちんぽが入らない』のレビューが世間の話題をさらったのは記憶に新しい。なんと10万PVを突破したらしいんで、それにあやかり「おっとのちんぽが入らない」から2字だけ変えて、今回のレビューのタイトルを「おっきなちんぽが入らない」にしようかと思った。HONZ倫理的に大丈夫かと内藤順に問い合わせたら、オッケーだけど、タイトルにちんぽなどという言葉がはいっていると拡散されにくいと注意された。お前が言うな、という気がしないでもないが、それもそうだと納得して断念。

しかし、そう題したくなるほど、「おっきなちんぽが入らない」的に誇張された絵が多い。そういえば、上に紹介した鍾馗様のナニもとてつもなく大きい。あまり大きすぎて、リアリティーが感じられないほどだ。みんなで男根の大きさをくらべている『陽物比べ』という絵なんかもそうだ。もちろんその絵も「勝負絵」であるが、『放屁合戦』と違って、ナニをどう比べるかが明らかであり、勝敗がわかりやすくてよろしい。

『陽物比べ』の絵はあまりにあんまりで、HONZの品位を汚すことになるやもしれませぬゆえ、ここに挙げるのは自粛いたしました。それら露骨系の絵は、ぜひ各自がこの本を購入して、あるいは、本屋さんで周囲に人がいない時を見はからって、そっと覗いてくださいますようお願い申し上げます。ということで、代わりに、それとなく大きな男根を思わせる『松茸の絵を見るお福たち』をあげておきたい。この絵も、なんだかほがらかで楽しくなってくる。

春画を芸術として眺めるのもいいかもしれないが、やはり春画は春画である。目的はなんであれ、理屈抜きに楽しむのがいちばんだろう。そういった意味で暁斎の春画は抜群だ。なんせ、からっと明るくて笑えてくる。もちろん、いろいろな技法を自家薬籠中のものとしていた暁斎の腕前は秀逸なので、芸術としても楽しめる。

この本、紹介されている絵はもちろんだが、キュレーションも素晴らしく、それぞれの絵の解説は明瞭にして簡潔、なのに読み応えがある。ロンドンにあるイスラエル ゴールドマン コレクションの解説書としてでもあるからだろうか、英語の対訳までついていて勉強になる。ちなみに春画は shunga だ。いずれ tsunami や tofu のように英語の辞書に取り入れられるようになるかもしれない。

いやぁ、還暦記念にふさわしい本が天から授けられたような気持ちである。って、どんな耳順やねん。大丈夫か、ほんまに。自分で書いてて心配になってきたわ。やっぱり論語も読んだ方がええかなぁ。

『ゴールドマン コレクション これぞ暁斎』が、Bunkamura ザ・ミュージアムにて開催中(平成29年4月16日まで)。もちろん春画も展示されています。この展覧会は、順次、高知県立美術館(4月22日~6月4日)、美術館「えき」Kyoto(6月10日~7月23日)、石川県立美術館(7月29日~8月27日)でも開催されますので、お見逃しなく!

掲載画像はすべて
©Israel Goldman Collection, London 
 
協力:立命館アート・リサーチセンター

 

世界最高の人生指南書 論語  人生に革命を起こす最強の生き方
作者:守屋 洋
出版社:SBクリエイティブ
発売日:2017-03-08
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今回のレビュー候補になり損ねた一冊。うっかりしてると、成毛眞の本に見える。
 

河鍋暁斎 (岩波文庫)
作者:ジョサイア コンドル 翻訳:山口 静一
出版社:岩波書店
発売日:2006-04-14
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あの築地本願寺の設計者・伊東忠太の師匠、明治時代のお雇い外国人ジョサイア・コンドルは暁斎の弟子だった。

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